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Yuji Nakagawa

中川有司

株式会社ユニオンゲートグループ 代表取締役&グループCEO
株式会社セルツリミテッド 代表取締役

Profile

バトンが紡いだ未知なる40キロへの挑戦

スイムを終えた大西勇輝(キタジマアクアティクスコーチ)が「見えないバトン」を持って駆けてくる。バッグブランドBRIEFINGを展開する株式会社セルツリミテッドの社長を務める中川有司は、その姿を息を飲んで見ていた。
次は、俺の番だ。
大西からバトンが中川の手に渡った。
今まで感じたことのないような高揚感が体を貫き、身震いした。初めての挑戦となる40キロのバイク、ペダルに思い切り力を入れて飛び出した---。

最高の練習環境と社員の変化

スタートを待つ中川
円陣を組み士気を高めるBRIEFINGチームの面々。

2015年5月に開催されたホノルルトライアスロンに中川が出場を決めたのは、2014年の秋だった。
「3年前ぐらいかな、M.I.Tの稲本健一さんやALAPAの本田直之さんがチ-ムを作っていて、トライアスロンをやろうよって誘われたんです。最初は大変な話を聞いていたので、できない理由を探して断っていたんです(苦笑)。でも、昨年、M.I.TやALAPAというチ-ムの活動を見てて、みんなでひとつのことに取り組み、チ-ムが結束してゴ-ルを目指すのはいいなぁって思って……。
ホノルルトライアスロンは、コースが平坦で特にスイムも泳ぎやすくトライアスロンデビューには最適なコースということもあって、自分だけでなく社員も巻き込んで今回はチャレンジしたいと思ったんです。毎年5月にホノルルへ行く社員旅行ともスケジュールが重なった上、男性社員全員で出場することで複数のリレーチームが組めることになった。それで昨年10月にスタ-トしたんです」
例年、慰労が主目的だった社員旅行に、ホノルルトライアスロン出場という挑戦が加わった。

中川は元々、凝り性である。
やると決めた以上、ベストの環境で練習をしようと手を打った。交流のある北島康介に頼み、キタジマアクアティクスにスイムとバイクを中心にコ-チをお願いしたのだ。
1月、トライアスロンで一番やっかいなスイムからスタ-トした。練習は、木曜日と土曜日の週2回。最初は25mを数回往復するだけで「ハ-ハ-」と息苦しくなり、とても1.5㎞は泳げないと思った。しかし、同じプ- ルで年長者や障害者が必死に泳いでいる。それを見ていると自分がやらないわけにはいかないと奮い立った。続けていくと徐々に長い距離を泳げるようになった。
バイクは一気に5台を購入し、社内のショールームにロ-ラ-を置いて、いつでも練習ができるようにした。休日は大井埠頭に行き、1周9キロのコ-スを3、4周した。一度も休憩することなく走り、長く走り続けることを体にしみ込ませていった。
平行して体力測定が行なわれ、ランで最高心拍数が200を越える社員が3人も出た。ア スリ-ト並みの心肺機能を持つ彼らと、スイムができる人を軸にして振り分け、中川は3人1組で6チ-ムを作り、競争を促したのである。
「スタ-トしてから社員の変化が目に見えてわかりました。トレ-ニングをするために時間の使い方がうまくなったし、今日は走って帰りますとか、自転車漕いで帰りますとか、それぞれが頑張っている姿が見えた。そうして努力して、タイムなど自分の目標を達成していくと仕事もはかどっていくんです。これは本当にすばらしいと思いましたね」

厳しいトレーニングをともにしてきたBRIEFINGチームの仲間たち。 闘志をみなぎらせスタートを待つ。

 

3位入賞するための絶対的な戦略

中川のリレーチームに参加を申し出た山本良介はランを担当。 個人でもエントリーした山本はオリンピックディスタンス個人男子の部で見事優勝という快挙を成し遂げた。

中川のチ-ムは、負けられないチ-ムだった。エントリ-の段階で17名となり、1名足りなくなってしまった。すると個人種目で出場予定の山本良介(プロトライアスリート)が手を挙げてくれた。
「オレ、社長からバトンを受けますよ」
「えぇ?ランを2回走ることになるぞ」
「大丈夫ですよ。10キロも20キロも変わらないです」
そうして、スイムは大西、バイクは中川、ランは山本というスペシャルなブリ-フィング・チ-ムが誕生したのである。
「僕は、もともとスイムをやる予定だったんです。でも、良介がランをやるっていうので、僕がバイクになった。みんなは、僕がスイムから逃げたっていうんですけど、そうじゃないんですよ(笑)。ブリ-フィングという名前で出場する以上、絶対に3位内に入賞して表彰台に立ちたいという目標があった。社員で構成したトップの2チームは、力はあるけど、出場したことがないので未知数なわけです。でも、良介と大西と僕が一緒にやれば、勝てる可能性は高くなる。そのためには僕がスイムでタイムを落とすよりもバイクでそこそこ走った方がいい。戦略的な狙いがあってスイムからバイクに変更したんです」
中川は難しいスイムから解放された。だが、トライアスロンの第一人者である山本とコ-チの大西と組み、確実にタイムを出すことが求められる。自分にかかるプレッシャ-は、社員のチ-ムよりも遥かに大きかった。

目標タイムを超えられるか。

個人枠でのスイムスタート直前の山本。イメージトレーニングを怠らない。
バイクで疾走中の中川。目標タイムを上まわる快走だ。
目標にしていた3位入賞を果たした中川のチーム。 左から:バイクの中川、スイムの大西、ランの山本。

レ-ス当日---。
まず、個人種目がスタ-トし、山本がスイムの時点から圧倒的な強さを見せてレ-スをぶっちぎっていった。
「良介、本気で勝ちにいったな」
中川は、山本の「強さ」に刺激を受けた。 つづいて、リレ-がスタ-トした。スイム1.5㎞、バイク40㎞、ラン10㎞、計51.5㎞の オリンピックディスタンスである。
中川のパ-トはバイクだ。
スイムからバイクに変更になってから組立から調整まで、基本的に保全は自分でできるようになった。それでも見過ごしたところはないか。どのくらいのペ-スでいけばいいのか……。大西を待っている間、緊張と不安の波が交互に襲ってきた。
「お願いします」
大西からバトンを受けてバイクに乗った。ハワイの爽やかな風を受けて走ると徐々に緊張感が解け、頭が冷静になっていった。
中川は、40キロを1時間15分程度で走り切ればいいと考えていた。時速30~32㎞/h、下りで40㎞/h以上出していけば目標タイムは達成可能だと計算していた。
周囲の景色を楽しむ余裕はまったくなかった。タイムのことが気になり、3m先の相手の後輪しか見えなかった。しかも、面倒なことが2つあった。ハワイは暖かく湿気がないが、意外と風が強い。この日も風が強く、ドラフティング(立ち漕ぎ)ができないので、その影響をダイレクトに受けた。登り坂でアゲインストになるとペダルが何倍も重く感じた。また、道路上に他のバイクから落ちたボトルが転がっていた。乗り上げて転倒すると大事故になるので、細心の注意を払ってペダルを漕いだ。
25キロを過ぎるとペ-スが少し上がった。ディスタンスごとに目標タイムを決めて走ることはできなかったが、1時間13分でフィニッシュできる余裕が出てきた。
“よし、予定タイムよりも早くいける”
アラモアナに入ると声援が大きくなり、みんな一気に追い込みを始めた。中川も3分遅れでスタ-トしていた同じ会社の萩原に抜かれた。
「萩原に抜かれた時、あれっ、やばいって思いましたね。でも、僕は自分のペ-スをキ-プした。トライアスロンは、3種目をやったタイムで競うもの。僕は、初めての出場で、しかもリレ-だけど今後、個人で出ることを考えると、バイクは決してムリをしてはいけないとコ-チにも言われていた。次のランに影響してしまうからです。みんな、追い込みかけていく中で自分もそれに乗らないように、そこは初めてでしたけど冷静でした」
アラモアナビ-チパ-クに戻ると、山本が待っていた。
「あと、頼むぞ!」
「任せてください!!」
無事にバトンを渡せた。
タイムは、1時間13分58秒。ホッとしてボトルの水を一気に飲むと汗が吹き出した。両脚には心地よい疲労感が残っていた。

目指すべき次なるステージ

中川たちのチ-ム、BRIEFING TEAM 2は、リレ-(オリンピックディスタンス男子の部:参加14チーム)で2時間23分04秒で3位入賞を果たした。
他のブリ-フィングチームは、BRIEFING:4位、BRIEFING TEAM 3:5位、BRIEFING TEAM 5:8位、BRIEFING TEAM 4:10位、BRIEFING TEAM 6:11位という結果を出したのである。
「トップ2チームはやれるけど、あとは大丈夫かなって不安だったんです。でも、一番心配だったスイムをみんな完泳して、事故もなく無事終えることができた。できないと思ったことができた。それが僕にとっても社員にとっても、すごく大きな財産になりましたね。
ただ、リレ-で3位になったのはうれしかったんですけど、それは良介と大西を立てて僕はズルして得たようなもの。タイムを残せたけど正直、これでいいのかなって思ってしまったんです。
トライスロンは、ひとりで3種目やることに意味があるわけじゃないですか。良介は一人で全種目をこなしてるし、みんなには『まだ、お前、全部やっていないじゃん』と言われた。そう言われると悔しいし、やってやろうと思ったんです。で、新たなファッションクリエイティブチームを設立し、オリンピックディスタンスで九十九里トライアスロンへの個人参加を決めました」

レースを終えたBRIEFINGチームの面々。それぞれに満足感を讃えた笑顔がさわやかだ。

 

中川は、成績には満足したが、個人的には物足りなかったのだろう。得意のゴルフは年間130ラウンドと練習を続けて上達し、70と いうレベルに達した。それは相当の努力をして、自分の手で掴み取ったものである。
トライアスロンも同じだ。
仲間が作ってくれた道をバントをつないで走るのは楽しい。だが、トライアスロンは自分との闘いである。自分で道を切り開き、自分の力で挑戦したいと思ったのだ。
すでに準備は始めている。
中川は足首変形関節症の持病を持ち、コンクリ-ト上を長く歩くと痛みが出た。だが、臀部周囲の筋肉を鍛えることで足首に負担がかからないようにした。すると、痛みがなくなり、ランの可能性が見えた。
また、社内にトライアスロンチ-ムを本格的に立ち上げ、今後はスポ-ツ関連の商品開発や大会協賛なども考えていくという。
ハワイの蒼い空の下で初めて経験したトライアスロンは、中川に多くの刺激を与えてくれた。新たに挑戦し、己を打破し、次のステ-ジに進むという決意も、である。

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Yuji Nakagawa
中川有司

株式会社ユニオンゲートグループ 代表取締役&グループCEO
株式会社セルツリミテッド 代表取締役


昭和44年3月9日生まれ。
ブリーフィング、ダニエル&ボブ、ファーロ、オットガッティなどのラゲッジブランド及びレザーブランドを展開するセルツリミテッドを擁するユニオンゲートグループの代表取締役。

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