モンブラン・プレゼンツ ファウストラウンジ 第6回
〈最新クロノグラフ「二コラ・リューセック」お披露目パーティ〉
放送作家・小山薫堂さんが語る、珠玉の話。
クロノグラフに刻まれた「刹那のミルフィーユ」
晩秋の夕闇せまる時刻、「モンブラン・プレゼンツ ファウストラウンジ 第6回」と冠されたプライベートパーティが銀座で行われた。トークのゲストは、放送作家の小山薫堂さん。また、今宵のパーティは、モンブランの最新クロノグラフ「二コラ・リューセック」が、ファウスト会員限定でお披露目されるスペシャルナイトでもあった。
「時間」とはこの世に生まれし万物に与えられた、大切な贈り物。そして時間を刻む数字もまた万国共通の記号である。時間にロマンを抱き、また絶望するのが人間なら、私たちの日々はその繰り返しなのかもしれない。昨年アカデミー賞外国語映画賞で最優秀作品賞を受賞した映画『おくりびと』は、人間にとっての普遍のテーマとも言うべき「死生観」を題材としながら、主人公の周りで起こるさまざまな喜びや葛藤を、静かな「時間」の流れとともに表現した作品だった。
この映画の脚本を手掛けたのが、放送作家としてこれまでテレビのヒット番組を数多く手掛けてきた小山薫堂さんだ。いまやこの人の活躍はテレビだけにとどまらない。旅館のプロデュース、脚本家、ラジオ番組のパーソナリティ、そして大学教授などと挙げればじつに幅広い。まさにマルチを地でいく、いまもっとも多忙を極める才人だ。
そんな小山さんが、今回の「モンブラン・プレゼンツ ファウストラウンジ」のゲストとして駆けつけてくれた。ファウスト会員限定による新作クロノグラフのお披露目という趣旨もあり、会場である「モンブラン銀座本店」には紳士淑女たちがこぞって集結。噂の「二コラ・リューセック」についても熱心に質問をしながら、実物を手に取り、その感触を確かめていた——。
モンブランの腕時計が極めた
クラフツマンシップの真骨頂
「モンブランはつねに、サクセス、カルチャー、クラフツマンシップをテーマに、モノづくりをしてきました。それはファウストのみなさんが大切に思っている事と同じですよね。この出会いを光栄に思います」
トークショーの冒頭、そう挨拶したのはモンブラン・ジャパン代表のニック・ワディントン氏。
モンブランと言えば、物書きを志す人なら誰もが憧れる筆記具のマスターピース。そのペン先から、どれだけの名作が執筆されてきたかは、名ブランドと謳われるモンブランの歴史そのものを表すかのように重厚で多彩だ。
創業100年以上の歴史に刻まれた、ものづくりへの想い。ニック氏が言う「クラフツマンシップ」を大切にするDNAは、いまや筆記用具にとどまらず、腕時計にも継承されている。
その象徴とも言えるのが新作「二コラ・リューセック」である。ネーミングは、クロノグラフの発明者二コラ・リューセックから付けられたものであり、彼こそが、1821年のパリで、競馬のタイム計測に使われたクロノグラフの原型を作った人物。まさにクロノグラフの生みの親だ。
「二コラ・リューセック」は、その原型をモチーフにデザインされ、またモンブラン初の自社製ムーヴメントを搭載。会場には当時のクロノグラフの原型もあわせて展示され、ファウストたちも興味津々で見入っていた。
楽しいトークに
思わず時の経つのを忘れそう
ニック氏の挨拶のあと、拍手とともに迎えられた、小山薫堂さん。
席に着くや開口一番、「じつは僕もファウストの会員でして――」と少し照れながら話し出した。
いったいどんな話が飛び出すのだろう。
――今夜はどうぞよろしくお願いします。ところで、小山さんは、モンブランとファウストには、ちょっとした縁があるようで?
じつは僕もファウストの会員でして、最初に送られてきた案内状が「首狩り族の家にホームステイしましょう」という旅のお誘いでした。その時はさすがに腰が引けて断ったものの、他のラインナップを見ても、かなりハイレベルで、本気の冒険だなあと感心したのを覚えています。今日は趣向が違いますが、ファウストに参加できてうれしく思います。
モンブランについては、万年筆が僕の愛用品です。ここ銀座本店には、このイベントの打ち合わせで初めて訪れたんですが、立場としては僕がクライアントの話を聞きにいくという格好ですよね。けれど、モンブランの担当者と話しているうちに、なぜかこの万年筆が欲しくなって、結局買い物をしに行ったみたいな状況になってしまって。帰りには僕のほうがクライアントのような顔をして、立場が逆転してましたね(笑)。
――その時の万年筆が小山さんのマストアイテムになっているようですね。でも一般的には最近は万年筆などの手書き原稿は少なくなりましたよね?
いまテレビ業界の台本は完全にパソコンで打ってます。僕の場合、映画の脚本など長めの原稿はパソコン、短かめのときは万年筆と、それぞれ使い分けています。パソコンよりも万年筆のほうが、書き手のパッションが伝わる気がします。自分の中にある「想い」とかが形になって表れる気がするんですね。
――小山さんは放送作家であり、自ら会社の経営者でもあるんですが、会社では何か心掛けていることはありますか?
僕の会社は、バースデーサプライズを毎年社員の一人ひとりに必ずやることにしてます。例えば架空のトークショーをセッティングして、本番で急に照明が暗くなり、次に点灯したときは、座っていた客が全員社員になっている、なんていうサプライズを平気でやりますからね。今日のトークショーも、もし僕の誕生月の6月にとオファーされていたら、間違いなく警戒していたでしょう(笑)。そもそも、どうしてそんなことをするのかと言えば、企画というのは誕生日プレゼントのようなものだと僕は思うからです。つまり、その人にどうやったら喜んでもらえるか、どうやったら感動してもらえるか、つねに、その姿を想像しながら企画を考えてほしいということ。バースデーサプライズとは、あくまでその練習なんです。
――楽しい会社ですね。すこし小山さん自身のお話をうかがいたいのですが、とても時計好きだと聞きましたが、機械式にこだわりがあるようですね?
「こだわり」というより、結果として機械式を選んでしまうんですよね。時計って正確な時間を知るために、職人さんの技術と知恵の結集がこの小さなケースに詰まっていると思うんです。だから僕にとって時計とは「クリエイティブのお守り」みたいなもの。
数年前に『恋する日本語』という書籍を出版したとき、そのきっかけになったのが「刹那」という言葉でした。刹那ってそもそもどういう意味なのかと思い、辞書を引いたところ「10-18(10のマイナス18乗=100京分の1)」とか、「意識が起こる瞬間」というような非常に小さな僅かな時間を表すことが書かれていました。例えば誰かを好きになる瞬間って、きっと一瞬のきっかけですよね。それこそが刹那かもって思いました。
時計についても、当たり前の日常の中で、腕時計だけは一生懸命に時を刻み続けています。時計の裏を見たときに歯車のひとつひとつが重なり合い、まるでその一秒一秒は「刹那のミルフィーユ」のように見えてきたんです。小さな時間が重なって今が動いている。つまり「時間を大切にするお手本」がこんな身近にあることに気付いたんですね。僕が時計が好きな理由は、じつはそこなんです。
――そうだったんですねえ。小山さんは、これまでもさまざま分野でご活躍ですが、最近は、また新たに絵本も出版されたようですね?
これは、僕が文章を書いて、パリ在住のセルジュ・ブロッグというアーティストに絵を描いてもらいました。ひとりの女の子が生れてから出産するまでのいろんな出来事を数字で表した内容です。例えば、「毎日22万人の赤ちゃんが生まれていて、生れた時は9万9千キロ地球2周半分の長さの毛細血管がある」とか、「ハイハイでは120キロ移動する」とか。人間って何かを数えた時に初めて有限であること、限りがあることを知るんだと思います。そして、その数字が愛しくなる。僕はこの絵本を読んで、数えることの大切さを知ってほしいと思っています。
――最近、数えたのは何でしたか?
72歳の親父と旅行した回数ですかね。まだ2回しか行ったことがないので、これをせめてあと3回か4回にしたいと考えています。
――プライベートでは海外旅行にもよく行かれるようですが、ちなみに、今夜、身につけてらっしゃる「二コラ・リューセック」は、先日の海外旅行にもお持ちになられたとか?
はい、地中海を船で移動したんですが、イタリアのリボルノから乗りまして、ポルトフィーノ、モナコ、マルセイユ、バルセロナという順路でした。夜のうちに船が動いて、翌朝起きるとホテルのあるモナコに着く。旅のスタイルとしては素晴らしいと思いました。そして、僕は旅にはいつもクロノグラフを身に着けることにしてます。旅先で原稿を書くことも多く、台本って、秒数と読み合わせしながら書かなければなりません。そんな時にクロノグラフの機能が重宝するんです。でも、クロノグラフって普通は針が動きますけど、「二コラ・リューセック」は文字盤が動くのでかなり驚きましたね。
旅の途中のパリではヴァドームのパークハイアットに泊まったんですが、そこにはモンブランのお店があるんです。ショーケースを見ると僕と同じ「二コラ・リューセック」で、ステンレスモデルのものが飾られているのを発見。でも僕の腕にはレッドゴールドがあったので、一瞬優越感というか、ちょっと自己満足ですが、うれしかったですね。
クロノグラフとはギリシャ語で、「時を書く」という意味なのだそうだ。それは多忙な時間を縫い、原稿を書き続ける小山さんの姿とも重なる。
さて、笑いの絶えなかったトークも終了予定の時刻を迎えていた。「小山薫堂さん、今夜は本当にありがとうございました」。司会者の閉めの声が会場に響き渡る。
今宵、モンブラン銀座本店にてお披露目された新作クロノグラフ「ニコラ・リューセック」の針が、正確にそして優雅に時を刻んでいたように、小山さんの珠玉のトークもまた、ファウスト諸氏の心に深く刻まれていたに違いない——。
モンブラン銀座本店 |
小山薫堂(こやまくんどう)
放送作家、脚本家。脚本を手がけた2008年公開の映画『おくりびと』による第81回米アカデミー賞外国語部門賞受賞は記憶に新しい。『カノッサの屈辱』『東京ワンダーホテル』『ニューデザインパラダイス』など斬新なテレビ番組を数多く企画し、『料理の鉄人』『トリセツ』は国際エミー賞に入賞。現在の担当番組は、『プレミアムスイッチ』(日本テレビ)、『小山薫堂 東京会議』(BSフジ)など。映画では、構成を担当した3D作品『FURUSATO~宇宙から見た世界遺産』(2010年4月公開)、総合プロデューサーをつとめた『みつばちハッチ~勇気のメロディ』(同7月公開)。新作絵本「いのちのかぞえかた」が10月16日千倉書房より発売。
Text:Faust.A.G.
Photos:Kenta Suzuki
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