Enthusiasm for Classic Cars
Vol.1
ヒストリックF1の日本シリーズ開催を目指して
クラシックカー、ヴィンテージカー、ヒストリックF1…
ロードレースに、サーキットレース、そしてコンクール。
ひとくちに「クラシックカー」と言っても、目的も嗜好も百花繚乱で、歴史も伝統も奥深い。このシリーズでは、クラシックカーを愛するファウストな方々にその世界を語っていただき、皆さんを深淵なるクラシックカーワールドへとお連れする。
記念すべき初回は、F1世界選手権で過去に偉業を成し遂げた歴史的マシンを愛し、自らの手で今の時代に走行させる「ヒストリックF1」の日本第一人者、西田旬良をご紹介する。
運命的に訪れたロータス97Tとの出会い
「95年のことだったと思います。米国のラグナ・セカ※で行われたクラシックカーレースに参戦した時、同時開催のサザビーズのオークションを観に行って、せっかくだからと私も参加してみたんですよね。その車には私を入れて3人が手を挙げたんですが、次の瞬間2人が下ろしちゃったものだから、僕が落札することになってしまい(笑)。慌てて日本に帰って送金して、クルマを飛行機で運んでもらいました。まさかロータス97Tが自分の手に入るとは思いませんでした。カラーリングは現役当時のJPS(ジョン・プレイヤー・スペシャル※)のままです。エンジンは1.5リッターターボで1000馬力はあるでしょう……」
ヒストリックF1のロータス97Tとの出会いを楽しそうに話しはじめた西田。“ヒストリック・フォーミュラー 1・ドライバーズクラブ”※を立ち上げ、サーキットで活躍したかつての華をもう一度走らせようと活動しているファウストだ。
ちなみに、現在のクラブ員は4名。入会希望者は受け付けており、体験試乗会なども企画している。
「免許を取ったのは20歳でした。友人たちはすでに3リッターのフェアレディZとかで首都高でタイムを競ってましたね。私もホンキで走るのが好きだったので、そっち系でした(笑)。ただ、ちょうどその頃イタリア文化が入ってきたこともあり、クルマはアルファ・ロメオやフィアットに乗ったり。がんばってフェラーリ328も……。就職はアルファキュービックでアパレルの仕事に就いたのですが、土日はアルファキュービック・レーシングチームのお手伝いでサーキットに入り浸りでしたね(笑)」
20代をレーシングチームの手伝いで明け暮れた西田。30代になるとイタリア車から英国車へと嗜好が変わっていく。
「あるとき、雑誌の編集をしている友人がクルマを買いたいというので一緒に見に行ったんです。そこでジャガーXJのデモカーに乗ってハマりました。なんてスポーティなんだと。英国車のイメージがガラリと変わりましたね。その後は、ロータス、コスワースに興味が向いて、ジネッタの存在を知ったのもその頃です」
同じ時期、西田は筑波サーキットへSCCJ※のレースを観戦に行き、すぐに自分も出場したくなった。そこで、MGブランドの2シーターロードスター、MGB※で耐久レースにエントリー。速さをつきつめ、なんと3年連続チャンピオンに輝く。そして、憧れのジネッタG12※をゲット。まんまミッドシップレイアウトのレーシングカーとなるG12は、英国車にスピードを求めるようになった西田にとってイメージ通りのクルマだった。そして、その日から本格的なサーキットライフがはじまったのである。
クライブ・チャップマンが遊びに来た
「サザビーズでロータスを落札したのは95年だったと思うのですが、それはラグナ・セカ・サーキットに出場するついでにオークションを見に行った時のことです。このレースは毎年8月に行われるモントレー・ヒストリックカー・オートモビルレース※というもので、その後4年連続で出場しました。そしてこの年、ロータスの生みの親、コーリン・チャップマン※の息子さんのクライブ・チャップマンと知り合ったんです。これからはヒストリックF1のオーナーたちとコミュニケーションをとっていくということで、なんと彼が我々のパドックに現れたんですよ」
実は、クライブ・チャップマンがパドックに来たのは偶然ではなかった。彼は前日のサザビーズで、西田がJPSカラーのロータス97Tを落札したのを見ていたのだ。ちなみに、このマシンはアイルトン・セナが乗っていたのと同型車である。
そして、9月。仕事でパリに行ったあと、西田はクライブに会いに英国ノーフォークシャーへと飛ぶ。チーム・ロータス※の本社での出来事はじつに素晴らしかった。なんとヒストリックF1がずらりと並ぶ倉庫へと招かれたのだ。
「クライブが言うんです。どれがいい?って。にわかには信じられない言葉ですよね。いやあ、すごい光景でした。そこには76年のF1で富士スピードウエイを走ったロータス77もありました……」
「クライブ曰く、売ることは出来ないけれど、僕が認めた人、ロータスをわかってくれる人に乗ってもらいたい、と。当時、ヒストリックF1を使ったレースは、権利関係から『F1』の名称は使えず、サラブレット・グランプリと呼ばれていたのですが、ヨーロッパで年間8戦行われていました。そこで、私は出場するためクライブの主催するクラシック・チーム・ロータス※のパトロンのひとりになり、ロータス77を2年間走らせる権利を得たんです。月一度週末にヨーロッパへ飛んで、土曜日の予選と日曜日の本選を走るんです(笑)。で、トンボ帰りして月曜から金曜まではまた仕事、の繰り返し。非常にハードでしたが、すごくいい経験になりました。まわりの人たちが実に良かった。レース歴30年とか40年とかの大先輩たちが気さくに話しかけてくれるんです。私はまだ40歳くらいでしたから、そんな人たちの仲間でいられることが何よりも嬉しかったですね」
ラグナ・セカ、シルバーストーン(英国ノーサンプトンシャー・バッキンガムシャー)、ニュルブルクリンク(ドイツ・ニュルブルク)といった世界のサーキットで行われるヒストリックカーレースに参戦してきた西田。だが、その活動も2007年までとし、現在は国内のヒストリックF1普及活動に力を注いでいる。
ヒストリックF1はフェラーリやランボルギーニよりお値打ち!
「実は、ヒストリックF1は運転が楽しいばかりか、とても安全なクルマなんです。動かすのは難しいと思っていませんか? それがイメージとはまったく逆。ドライバーはクルマのセンターに座りますから挙動を感じやすくコントロールしやすいんです。サーキットのような高速域では重要ですね。 “箱形”よりも驚くほど扱いやすいんですよ。しかも、ちょっとウィングをイジるとダウンフォースが変わって乗り味も変わる。要するにそれだけダイナミックということ。ナンバー付きと違って飽きないですね! フェラーリやランボルギーニのナンバー付きをサーキットで走らすのもいいですが、それよりもリーズナブルな値段で、それよりもずっと楽しいサーキットライフを送れることは間違いないですよ」
「私が運営するヒストリック・フォーミュラー 1・ドライバーズクラブは、今はまだ4台ですが、いずれ10台集めてヨーイドン!したい。日本でヒストリックF1のレースを開催して、ゆくゆくはそれがヨーロッパやアメリカで行われるシリーズ戦のひとつになったらいいですね。いまはまわりの環境も変わり、僕が交渉を続けてきた末、一昨年から富士スピードウェイのフォーミュラーの練習走行時間帯にF1も走れることになりました。私もロータス77を御殿場のガレージに納め、その日はそこから引っ張り出します。それから去年はフォーミュラーニッポンの前座もつとめました。デモランをしたのですが結構本気モードで走りますから、パドックでの注目度は高かったですね。キャンギャルを上回るくらい(笑)。是非、少しでもご興味のある方は一度サーキットで乗ってみてほしいんです。僕がお手伝いいたしますよ」
ヒストリック・フォーミュラー1・ドライバーズクラブ(HF1DC)
西田主催のクラブで、ヒストリック・フォーミュラーマシンをサーキットで走らせることと、日本における文化の育成と啓蒙活動を目的とする。現在は会員4名で、所属台数は4台。主に富士スピードウェイにてフォーミュラーマシンの練習時間帯に走行。西田は御殿場のガレージに格納するロータス77の他に、ロータス78、同101、March761などで月に1回ほど走行している。
現在、入会者を募集中とのこと。ヒストリックF1マシンを所有していない方でも、購入・走行の関心があればOK。西田が購入から走行まで ノウハウを提供してくれる。また、フォーミュラーマシンによる富士スピードウェイでの試走も調整により可能という、F1愛好家にはまたとないクラブ。
西田の愛すべきヒストリックF1たち
ロータス77
ロータス78
マーチ761
※これら当時のF1マシンは、どのモデルもだいたいエンジン出力は約500馬力、重量550kgで、パワーウエイトレシオがすこぶる良い。また、シャシーは各モデルともにアルミモノコック。
にしだ・しゅんろう
ファッション・デザイン会社(株)西田武生デザイン事務所代表。(株)アルファ・キュービックを経て27歳より現職。 NISHIDA SPORTS and CAR及びプロモーティング クラシック チーム ロータス代表でもある。幼少期よりスーパーカーに強く憧れ、その想いを今に醸成させるひとり。ロータスの創業家チャップマン一家とも親交が深く1997年~2007年まではドライバーとして海外のヒストリカルF1レースに参戦、Bクラス優勝10回以上、2年に一度行われるモナコヒストリックには4回出場し、ロータス49Bを駆ってのAクラス優勝経験も持つ。ヒストリックF1の普及およびヨーロッパのヒストリックカー文化と日本を結びつけることを目的に、ヒストリック・フォーミュラー1・ドライバーズクラブを主宰。同好の士を求め、後進の育成を目指している。
Text:Tatsuya Kushima
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