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ショパン生誕200周年
麗しき武村八重子のピアノと語りに魅せられて
ファウストラウンジ第4回「男の嗜み、ショパンの調べ」
2010年はフレデリック・ショパンの生誕200周年となるメモリアルイヤー。彼の祖国ポーランドのワルシャワでは、マルタ・アルゲリッチ、ユンディ・リなど世界的に著名な音楽家によるショパンコンサートをはじめ、世界各地で関連イベントや演奏会が開催されている。
去る2月某日の宵。東京・恵比寿、緩やかな長い坂を登りきった閑静な場所に建つ「ロビンズ・クラブ」に、続々とファウストとその友人たちが到着した。ピアニスト・武村八重子による美しいショパンの調べを聞くためである。ショパンの音色を堪能するにはまたとないタイミングだ。
「小さな頃にピアノを習っていたので今日の演奏が楽しみ」「クラシックには詳しくないけれど、本物を極めるファウストA.G.のイベントなので勉強したい」――ウェルカムドリンクと、美しく並べられたフィンガーフードを楽しみながら、ファウストたちの会話が軽やかに交差する。また、ファウストA.G.とは縁が深く、昨年の「Faust Gala Party 2009」でも協賛企業として参加した「グランドコリアレジャー」のCEO・権五南(クォン・ナオム)氏も、この日のために韓国から来日し、ファウストたちとの挨拶や歓談に花を咲かせた。
ショパンの魅力を効果的に伝える
講義と演奏のミックススタイル
「皆様、こんばんは。今回、ピアノ奏者と講師を仰せつかりました武村八重子です。本日はショパンの人生や音楽にまつわる蘊蓄を学んでいただきたいと存じます。明日から聴くショパンが皆様にとってこれまでと違ったものになりますように」
武村女史はスタインウェイ社製のヴィンテージピアノの前に立つと、すぐ演奏の体制には入らずに心の籠った挨拶から始めた。普通の演奏会なら、パフォーマーが冒頭からオーディエンスに向けて挨拶をするのは珍しい。これは今回、武村女史が特別な演奏会にするための真心を込めたもてなしであると同時に、ショパンの生涯や人間性、時代背景などを解説しながらパフォーマンスを披露するという珍しいスタイルを採用したからだ。その理由を彼女はこう述べる。
「もともとピアニストになるよりショパンの研究家になりたかったんです。ですから、彼の人生を話しながら演奏するというのは、私が以前からやりたいと思っていた演奏スタイルで、今回初めての試みです。その曲の時代背景や作曲家の人生を知ることで、もっと音楽を身近に感じて頂けたらと思います」
ファウストたちの前で挨拶をした彼女は、やや緊張の面持ちでピアノの前に腰を下ろした。
ガールフレンドがいなかったら
あの名曲は生まれなかった!?
「では、皆様にお配りしたテキストに沿って進めていきたいと思います」――いよいよ武村女史による講義&演奏会がスタートした。ファウストたちも、ショパンの一生を綴った彼女お手製のテキストを広げながら、興味津々の趣でその声に耳を傾ける。
このリサイタル中、会場の聴衆が最も興味を示したのは、『プレリュード 作品28-15 雨だれ』であった。これは1838年、ショパンが28歳の頃、持病の肺結核の静養のため恋人のジョルジュ・サンドとマジョルカ島へ行ったときに作られた曲だと武村女史は解説する。
「体の弱かったショパンは、マジョルカ滞在中にずっと雨に降られて余計に体調を悪化させてしまいました。しかし、雨に降られなかったら、雨音からインスパイアされたこの名曲はこの世に誕生しませんでした。もし彼の人生にサンドがいなかったら、現代まで愛される音楽を作ることはできなかったと思います。なぜなら、サンドと出会っていなかったらマジョルカに一緒に行くこともなく、『雨だれ』を作曲することもなかったかもしれないからです」
後に39歳で夭折するショパンだが、これはサンドと別れてしまったことによるショックが引き金だったと武村女史は付け加える。つまり、サンドがいなかったら、長生きしていたかもしれないというのだ。しかし、彼女の存在がショパンの才能を刺激しなければ、名作も生まれ得なかったかもしれない。この歴史に名を残す名作曲家は、女性と恋に落ち、その幸せと喜びを曲に表現しながら生きていったのだ。ファウストたちは、こういったショパンの人生と名曲とのつながりに、終始心から感銘を受けた様子だった。
抱いていた夢がひとつ叶った
忘れがたい夜
武村女史は最後に、「長調なのに物悲しさがあるという点で、ショパンとサザン・オールスターズは共通しているんです」と、『いとしのエリー』のピアノアレンジをチョイス。ショパンとサザンという組み合わせの意外性のなかにも、日本人に愛される楽曲の共通点を解説した。
そして全8曲、1時間30分に渡る講義&演奏会は、ファウストたちの大きな拍手のもとに閉幕した。終了後、権五南氏は全員の前で「このようなファウストA.G.の素晴らしい活動が世界に広がり、発展することを祈ります」とコメント。ファウストとその友人たちも、「武村さんの解説と演奏により理解が深まり、刺激を受けた」、「生誕200年という記念すべき時期にショパンの音楽・生い立ちを素晴らしいシチュエーションで聴くことができ、大変有意義だった」、「純粋にもっと聴いていたいと思った」と、互いに満足した表情で感想を述べ合っていた。
そしてもちろん、武村女史にとっても忘れがたい夜となったようだ。自身が敬愛するショパンの人生と音楽を今回のようなスタイルで人々に伝えるという初めての試みを、成功させることができたのだから。
「緊張しましたが、私の夢がひとつ叶った素敵な一夜になりました。ありがとうございました」――イベント終了後も、感謝の気持ちを周囲へ伝えつづけていた彼女。ショパンだけでなく、クラシック音楽の魅力を今後もユニークなスタイルで伝えてくれることだろう。
武村八重子
Yaeko Takemura
国立音楽大学ピアノ科卒業、日本大学大学院芸術学部博士課程前期修了。2000年にウィーン国立音楽大学夏季セミナーでディプイロマ取得。その後、ウィーンを拠点に音楽活動を開始する。帰国後の2005年、若手音楽家を支援するシャネル・ピグマリオン・デイズに参加し、初代シャネル・ジャパン・アーティストに選出。同年、第21回ショパン国際フェスティバルに日本人ソリストとして出場を果たす。現在はコンサートのほか、ラジオパーソナリティや、CM曲を手掛けるなど幅広いジャンルで活躍。ソロアルバムに『夢見』、『NON-STOP CHOPIN』、『アミューズ・クラシカル・ピアノ・セレクション“BIGIN”』『アミューズ・クラシカル・ピアノ・セレクション“PORNO GRAFITY”』がある。ショパンに魅了されたきっかけは、小学校4年生のときに神野明氏が演奏する『革命エチュード』に感銘を受けてから。
オフィシャルブログ
http://yaplog.jp/yaekotakemura
フレデリック・ショパン(1810-1849)……作曲家・ピアニスト。ポーランドのワルシャワに生まれ、7歳よりピアノを始める。19歳でワルシャワ音楽院を首席で卒業後、ウィーンに移住。しかし、貴族社会のシステムに失望したことと、この時期に起きたワルシャワ蜂起で反ポーランドの風潮が高まったことから1年足らずでパリへ。その後、音楽活動をしながら39歳の若さで息を引き取るまで生涯をパリで過ごすが、祖国ポーランドを忘れる日はなかったという。彼が生み出した、明るく悲しい曲調は、祖国への思いが込められているためと評される。日本では、情緒性に溢れた音楽が多くの人々に受け入れられ、最もポピュラーなクラシック音楽家のひとりとして愛され続けている。
Text:Megumi Inoue
Photos:Kenta Suzuki
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