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オールドパーと古典芸能
両者に共通するスピリットとは?

トップ写真左/「羽衣」より、尾上菊之助扮する天女。純白の生地に鳥の刺繍が施された着物も、天女が持つ儚さと空気感を見事に演出していた。トップ写真右/増上寺大殿の外観は、オールドパーのロゴが装飾された特別バージョン。様の東西が融合した、厳かな雰囲気を演出。

幽玄な空気に包まれていたイベントの様子はこちらから(画像をクリックして動 画を再生)。
三解脱門をくぐると、大殿に続く参道は幻想的なライティングで照らされていた。

場所は芝大門・増上寺――。朱色に輝く秋の夕暮れが東京の街を幻想的に染め始めたころ、ひとりのファウストが門前に到着した。徳川将軍家の菩提寺として、400年以上の歴史を見守ってきたこの場所で、今宵催される『ユネスコ世界遺産サポートプロググラム 第五回 伝承の饗宴』に出席するためである。

それは、囃子を通じて能や歌舞伎を現代に伝える『三響會』と、英国のスコッチウイスキー「オールドパー」による盛大なチャリティプログラム。著名な文化人や英国関係者なども含めた約100名が、芳醇な銘酒を味わいながら古典芸能の伝統美を堪能することとなった。

歴史と文化への敬意
という共通点

夕暮れの境内をおもむろに進み受付を済ませると、まずは「オールドパー」をじっくり味わうレセプションタイム。152歳という、英国史上最長寿を全うした人物トーマス・パーに由来するウイスキーをじっくり味わうファウストに、主催者側の一人が今回の主旨を語りかける。
「英国のオールドパーが、なぜ日本の伝統文化の継承活動をサポートするのか疑問に思われるかもしれません。しかし、このウイスキーがトーマス・パーの名前を冠していることには、長い年月をかけて昇華される知恵や経験に対して、敬意を払うという意味が込められています。日本の古典芸能はまさにその対象に値するものなのです」
聞けば、日本に初めてオールドパーが紹介されたのは、岩倉遣欧使節団が明治時代に日本へ持ち帰ったときだという。
この両者は伝統文化や歴史に敬意を払う観点が同じなのだ――沈み行く夕日に目をやりながら、ファウストは古人が紡いできた長い歴史に思いを馳せているようだった。

神聖な大殿を包む
天女の厳かな霊気

すっかり日が落ちた午後6時。舞台を観賞するため、大殿に移動する。10名ほどの僧たちが散華で会場を清めると、大殿はたちまち荘厳で幽玄な空間となった。香の匂いと静寂に包まれた舞台はこの世とはかけ離れた趣を放ち、まさに「天」と「人」が交わる神聖な場に居合わせているかのような感覚を抱かせる。「まるで宇宙を表現しているようだ……」と、ため息を漏らすファウスト。空間に魅了される中、ついに舞台の幕が上がった。

左/今回のイベントは、徳川将軍家の菩提寺である増上寺で開催された。一方、オールドパーは明治新政府樹立に尽力した岩倉具視の遣欧使節団が日本に紹介したとされるもの。両者が21世紀に響宴を共催することになるとは誰が想像しただろう。右/舞台の後の晩餐会では,料亭『金田中』によるオールドパーに合う料理が振舞われた。

最初の演目は、大鼓と謡いのみで構成される「女郎花(おみなめし)」。人間国宝・亀井忠雄(太鼓)と観世喜正(能)による迫真の演奏で夫婦の悲恋話を表現し、続く「江口」では藤間勘十郎(舞)、梅若玄祥(舞)、観世喜正(能)が、優雅な舞で執着の罪と無常を説いた。
そして最後は、今回の目玉というべき演目「羽衣」。天女に扮した歌舞伎役者・尾上菊之助が壇上に現れたとたん、天女の持つ厳かな霊気というべき独特の「気」が会場全体を包み込む。天女というものが存在するならば、まさにこのような女性だろう。そう信じてしまうほど、菊之助の演じる天女は儚げで美しい。
「天女は最後、霞にまぎれて消えてしまう。菊之助は、手に入らないものへの執着や儚さを、見事に表現していた」――演目のすべてが終了したとき、ファウストは夢見心地な表情で語った。

伝統文化を守っていくには、その文化と歴史に敬意を払ったうえで伝承するという、使命にも似た覚悟が必要である――。オールドパーも、日本の古典芸能も、そんな概念のもとに存在している。

「それを鑑賞する者にも責任がある。作り手や表現者の覚悟をしっかり受け止めて鑑賞しなければ、失礼にあたる。今日はそれをひしひしと感じました」
そう感想を述べたファウスト。彼はこのあと、境内での晩餐会に向かう穏やかな秋の参道へと消えていった。

 

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