最終回
旅の終わりに思うこと
日本・沖縄/Okinawa,Japan
写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。
2012年12月21日、雨の釜山から船に乗り込み福岡港に到着した。1,011日、訪問国が90ヶ国を越える旅を終え、ついに日本に到着した。
三連休前日の金曜日の夜。福岡の街は多くの人で賑わい、クリスマスのイルミネーションで街中が煌めいていた。その中をバックパックを担いで、まるで異国の地を訪れた旅人のような心持ちで歩いた。
これが日本か。これが自分が生まれ育ってきた国か。少し大げさかも知れないけれども、それが正直な実感だった。3年弱もの期間、ずっといろんな国々を見て来たけれども、日本に着いた時が一番異国感を感じた。あまりに旅と密接に関わり過ぎて来て、もはや日本という国を海の向こう側からの視点でしか捉えられなくなっていた自分がそこにはいた。
街行く人びとの幸せそうな表情、立ち並ぶビルの数々の威圧感、色とりどりのネオンの眩しさ。ものに溢れ、光に溢れ、人に溢れる街。それらすべてが僕に何故か寂しさを感じさせた。それは旅が終わってしまうという寂しさなのか、もっと別のものだったのか、わからなかったけれどもとにかくすべてがもの悲しく見えた。
福岡のあと、沖縄まで旅をした。陸路で鹿児島まで向かい、そこから沖縄へ向かう船に乗り込んだ。慣れない日本での旅は新鮮で、福岡の街で感じたような寂しさはその後あまり感じることはなかった。
海の色が段々と青くなり始め、潮のかおりが温もりを孕み始めた頃、水平線の先に沖縄の島影が見え始めた。
その島影を見た時、ようやく旅が終わるということを実感した。福岡に着いたときはあまり感じなかったのだけれども、18歳のときに初めて沖縄を訪れてから旅をするようになった自分にとって、沖縄の島々は旅の原点であり、また「うるま(沖縄の方言でサンゴの島という意)」という名を持つひとりの旅人として、この地は旅の最後にふさわしい場所であり、そのことを自分自身の心がよく理解していたのだと思う。僕は船の上から飽きもせず、いつまでも潮風にその身を包まれながら、その島々を眺めていた。
この3年間の旅は自分にとってなんだったのだろうかと思う。汗をかき、足を棒にして、時には涙も流し、さまざまな国を歩いて来た。そこで僕は一体何を見て来て、何を知ったのだろうかと思う。いろいろ考えてみるけれども、そこには答えらしきものは何も浮かばない。
世界を見て、感じて、旅して、そして無事に帰って来た。旅を続けながら自分の中に世界を取り入れ、自分だけの世界を心の中に構築して来た。ただそれだけ。答えなんて始めからないのかも知れない。もし明確でわかりやすい一言でこの旅のことを表現できるのであれば、きっとそんな旅なんて、する必要なんてないのかもしれない。
旅立ちの時、それはまるで地平線の先に広がる暁光を目指して、期待と不安を胸に闇の中を恐る恐る一歩ずつ進むようなものだった。
その時のことが、いまとても懐かしく思える。
世界は広い。 僕らが思っているより遥かに大きく、そして深い。
それを知れただけで充分である。
写真家・竹沢うるまの1011日に渡る旅は一端終わりを告げ、現在は東京にて旅の協力者への面会や個展、書籍出版の準備中だ。今回の旅は、2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと至る道程。各地から届くうるまからの便りは、徐々に深化し、写真表現にも様々な変容が見られた。ファウストA.G.はうるまの世界一周の旅を共にできたこと、そして彼の帰還を心より嬉しく思う。今後の活動予定が明らかになり次第、ファウストでは随時掲載していく予定だ。
竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com
著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)
2013/02/07
いま、世界一周の途中。
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