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Vol.21
岩窟教会と祈りの意味
Lalibela , Ethiopia/ラリベラ・エチオピアの北部

写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。

エチオピアの北部の小さな街、ラリベラ。いくつもの山が重なり合い、急峻な崖が道を分断するこの地域には、巨大な岩山をくり抜いて作られた教会がいくつも点在している。岩窟教会と呼ばれるエチオピア正教の教会である。エチオピア正教は原始キリスト教のひとつ。エチオピアがこれを国教に定めたのは4世紀。それ以来、東アフリカ唯一のキリスト教国家としてエチオピアはその歴史を歩んで来た。ラリベラの街は聖なる信仰の街として知られている。

ラリベラの街を出て崖の頂上付近に位置する修道院を目指す。大半の人はロバで行くらしいが、地元の人はみな歩いている。なので歩けない訳はないと考え、歩くことにしたのだが、街を出てから15分もしないうちに後悔し始めた。急な斜面、滑りやすい道、それに加えて標高の高さ。目指すアシェトン・マリア修道院は標高3000m付近にある。眼前にそびえる切り立つ崖の頂上付近に、それは静かに建っている。それにしてもなぜこんな場所に建てる必要があるのか。しかも岩をくり抜いて。より空に近く、より大地に近い場所で祈りを捧げるための静かな場所が必要だったのだろうか。そこで神に近づくことを目的にしていたのだろうか。眼の前に崖は迫っているものの、なかなか足が動かない。はぁはぁぜぇぜぇ言って情けない限りである。苦労の末、2時間かけて崖を登りきった。中に足を踏み入れると、岩から伝わる冷たく淀んだ空気が身を包む。汗ばみ火照る身体が冷やされて心地よい。明かりはなく、小さな明かり取りの穴からわずかな光が差し込むばかり。白い布に身を包んだ司祭が現れ、訪れたボクのために祈りを捧げてくれた。深い皺に覆われた彼の表情は、この隔絶された世界での生活の長さを物語るようであった。彼は奥の部屋から古いテンペラ画を持ち出して来てみせてくれた。そこには顔の両側から羽が生えたエチオピア正教独特の天使が描かれていた。

エチオピアはコーヒーの原産国である

人はなぜ祈るのだろうか。これまで数々の国でそれぞれの祈りを見て来た。彼らはその祈りの対象となる神の形は違えど、みな一様に無心に神なる存在に身を委ね、救いを求め手を伸ばし、その存在に近づこうとしていた。感謝、救済、忘我、精進。祈りとはそのような言葉に置き換えることができそうで、そのいかなる言葉にも当てはまらないような気がする。祈りとはなんなのだろうか。天に近い岩の奥底で考えてみたものの、信仰を持たない僕にはその答えはわからなかった。

教会からの帰り、崖下にあるアシェトンの小さな村を通り抜けた。エチオピアでの主食であるテフの畑が広がり、収穫を間近に控えたその重そうに穂をもたげる畑の中で、子供たちが何やら叫びながら遊んでいる。村人が粗末な小屋から顔を覗かせ、笑顔で手招きをする。小屋の中からは香ばしいコーヒーの香りがする。ボクは急に空腹と乾きをおぼえ、彼らの小屋の中に入りコーヒーセレモニーを受けた。そのコーヒーは風の香りがし、大地の味がした。身体の隅々までエチオピアの大地を受け入れているような心持ちになった。僕は眼を閉じ、エチオピアの大地に感謝し、小屋をあとにして山を下りたのであった。

写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。

「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま

 

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竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com

著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)

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いま、世界一周の途中。

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