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Vol.46
祈りの大地に降る雪
東チベット・カム地方/Khams,Eastern Tibet

写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。

 東チベットのカム地方。文化と伝統が色濃い地域と知られているこのエリアにあるラルンガル・ゴンパを訪れた。ここは一万人を越すチベット僧たちが集まり修行を積んでいる場所である。

連なる丘を埋め尽くすように広がる僧坊の数々。木造のその壁は臙脂色に塗られていて、生活感に溢れている。これらがすべて僧房だと伝えられなければ、スラムだといわれても違和感がない。その無数の僧坊は細胞の羅列のように見える。そこに埋もれるようにきらびやかなゴンパ(僧院)が立つ。ゴンパでは次から次へと参拝に訪れる人が現れ、その流れは途切れることはない。教典が納められたマニ車を順番にまわして行く人びと。五体投地で祈りを捧げるもの。すべての人びとが神仏に向かい合い、祈りの言葉を口にしている

雪が降り積もったラルンガル・ゴンパは美しかった

雪が降ったある朝。斜面を登り、対岸の丘に広がる無数の僧房を見下ろす。臙脂色の壁が白い雪で覆われてより色鮮やかに見える。太陽がうっすらと差し込み始め、あたりはキラキラと光り始める。僧たちは足を滑らせながら斜面を降り、ゴンパへと向かう。吐く息は白く、透明感に満ちている。素晴らしい朝である。

まるでここ東チベットが抱える問題なんて、実は全くないのではないかと思いたくなるような清々しい風景。しかし、現実は違う。中国政府のチベット抑圧に抗議して、ここラルンガルゴンパではこれまで大規模な抗議活動が繰り返され、そのたびに中国政府の厳しい弾圧を受けて来ている。多くの僧房が破壊され、そして行方不明者が出ている。そしてそれは現在進行形でもある。

相次ぐ僧侶の焼身自殺。中国政府の抑圧に対する抗議デモ。迫る五年に一度の中国共産党全国代表大会(滞在当時)。東チベットを訪れるには全く適さない時期に旅をした。民族、宗教、独立、弾圧、解放。それらの言葉が、日々、目の前に現実の出来事として現れる。

それでも人びとは、無心に祈りの言葉を口にする。ゴンパでの祈りの時間だけが、心の平穏を得られる大切な時間。そんな印象を受けた。

日が暮れかかるころ、僧坊の群れから湯気が立ち乗り始め、また雪が降り始めた。始めは細かい雪だったが、そのうち吹雪いていきて、僧たちの袈裟にも積もり始めた。降りしきる雪は、まるで彼らの唱える祈りのようである。彼らの祈りは世界の隅々まで降り積もり、いまにも壊れそうなこの世界をつなぎ止めている。

冷たい雪を眺めながらそんなことを考えていた。。

 

写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。

「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま

 

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竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com

著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)

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