Vol.26
アフリカの夜の闇
Malealea, Lesotho/レソト・マレアレア
写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。
南部アフリカの小国レソト。標高2000~3000mの山岳地帯が小さな国土の大半を占め、国民の大半がその山の中で暮らしている。マレアレアというソト族の小さな村から馬にまたがり、さらに山奥を目指した。
丘をいくつも登り、切り立った崖を行き、川を渡り、谷を越え、道無き道を進み、丸一日かけて小さな集落に辿り着いた。そこはヤギの放牧をして暮らす人々が住むたった10軒ほどの家しかない小さな集落である。その村に名前がついているのかどうかさえ定かではない。途中、似たような集落をいくつか越えて来たけれども、この村がこのあたりで一番奥に位置する村のようである。ゴツゴツとした岩を粘土を使って組み合わせて作った小さな小屋が並ぶ。今日はここで眠る。
レソトの空は底抜けに澄み、夕方になると空を満たす黄金の光は、何事にも代えがたく美しい。やがて太陽が山の稜線にかかると、それまでの輝かしい世界は一変し、のっぺりとしたコントラストの淡い光が険しい山々を闇の中へと包み込む。と同時に、気温は劇的に下がり始める。
夜、寒さで目が覚め、そのまま眠れなくなった。粗末な小屋の窓に外から淡く滲んだ青白い星明かりが差している。軋むドアを開け外に出ると、そこには空を覆い尽くす無数の星があった。僕は寒いのも忘れて、しばらくその満天の星空を眺めていた。
中東シリアから始めたアフリカ縦断の旅もこれで7ヶ月が経った。その間、何回夜空を見上げ、瞬く星の輝きを眺めて来ただろうか。アフリカの夜は暗い。街から少し離れれば電気がないところが大半で、都市部でも停電ばかりで街灯もない。夜になると重みのある闇がアフリカ大陸全体をこの世界から覆い隠してしまう。まるでこの大陸を誰の眼にも触れさせまいとするかのように。
どうかこの貧しい人々を、どうかこの紛争の耐えない国々を、どうかせめて夜の間だけでもそっとしておいてあげてくれないだろうか。闇に身を包まれるたびに、アフリカの夜がそう言っているかのように感じられた。
この闇を感じるのも、今日が最後になるだろう。明日、朝陽とともにこの村を発ち、山を下りる。そして間もなくして僕はアフリカ縦断における最後の一歩を踏むことになるだろう。
レソトの夜に輝く星は、まるでこれまで歩んで来た旅の日々の思い出が、無数にアフリカの夜にちりばめられて輝いているように見えた。
そして僕は喜望峰へと向かった。
写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。
「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま
竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com
著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)
2011/12/22
いま、世界一周の途中。
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