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Vol.20
国が生まれる瞬間
Juba, Republic of South Sudan /ジュバ・南スーダン共和国

写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。

日本を旅出って、知らないうちに15ヶ月も経った。月日は流れに流れ、留まることを知らず、その時の濁流の中でいくつもの国境を越えてきた。川を渡り、森を越え、二分された街を越え、まだ見ぬ世界を求めて新たな未知の国へと足を踏み入れた。

眼に見えない国境という境界線を越えるたびに、何度も驚いて来た。たった一歩、その境界線を越えるだけで、国が変わるのである。それはその地域の呼び名が変わるということだけでなく、話す言葉が変わり、食べるものが変わり、建物が変わり、人々も変わり、そして風景が変わった。

距離でいうとたったの数メートル。それだけである。なのに、国境のこちら側とあちら側では、明らかに違う世界が存在している。それが不思議でならなかった。国境を越えて、その変化に驚き、国境からその国の主要都市へと走るバスに乗り込んで、その車窓の風景を眺めながら、国って何なんだろうかと、何度も考えて来た。

歓喜の瞬間。式典会場には数えきれない国民が押しかけた。

2011年7月9日。アフリカ大陸に第54番目の国が誕生した。スーダンより分離独立した南スーダン共和国。僕はその首都ジュバでその誕生の瞬間に居合わせた。

各国の国賓が訪れ新大統領のもと、この地の有史以来、一度として行われたことのない慣れない独立式典が試行錯誤を繰り返し緩慢に進行して行く。人々は照りつける容赦ない太陽の光にさらされ、その瞬間をまだかと異様な密度の群衆となって見守る。やがて新しい国歌が流れ、国旗が静かにゆっくりと青い空へと吸い込まれるように揚がって行く。人々は涙を眼に浮かべ、固唾を飲んでその瞬間を眺めている。20数年に及ぶ内戦で多くの血が流れ、数えきれない涙が流された。それらの積み重ねがいま、国家独立という形で成し遂げられようとしている。

それまで動きのなかった空気がかすかに揺れ始めたかと思った瞬間、力強い風が何処からともなく巻き起こり、自由と民族を象徴する国旗を天空高く舞い上がらせた。その瞬間、それまで人々の体や心の中に押さえ込めてきた歓喜のエネルギーが爆発した。

その力の強大さについて、どんな言葉や写真を通じても、表現しきることはできないだろう。その場に居合わせた人間だけが感じることができるエネルギーの集合体。まばゆい今、みなぎる未来。渦巻く強大なエネルギーの中、すべての国民が過去ではなく未来を見据えている。そして、写真家という歴史の記録者として、その場に立ち会うことができた喜び。

この経験はこの旅に、そしてまた僕自信に何をもたらすのだろうか。いまはまだその体験した出来事の大きさのために自分のなかで処理がしきれていない。いつかこの経験の本当の意味を知り、自分の中にきちんと思い出として蓄積できたとき、僕は本当の国の意味を知ることができるのかもしれない。

これだから旅はやめられない。僕の旅はまだまだ続く。

写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。

「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま

 

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竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com

著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)

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いま、世界一周の途中。

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