Vol.33
滲むロンドンの雨
London, United Kingdom/ロンドン
写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。
アフリカの旅を終え、ロンドンに辿り着いた時の印象をどうまとめたものかと思う。深夜に到着し、ダブルデッカーのバスに乗り込み市内を走る。しとしとと冷たい雨が降り、バスの窓に滲んだ水滴が、鮮やかに光り輝く街のネオンの色を反射している。とりどりのその色は、そのまま自分の胸の中で複雑に絡まり合う安堵、戸惑い、疲労、不安、歓喜などのいろんな思いのようである。
夜中なのにも関わらず、街中はまだ多くの通行人が歩き、バーから漏れる光の中ではグラス片手に何やら楽しそうに笑顔を浮かべる人々がいる。めまぐるしく走る車のどれを見ても、パンクしているものもなければ、窓が割れているものもない。荷物をめいっぱい積んで、何人もの人々が押し合いへし合いして車内で苦しんでいることもない。早くもアフリカが懐かしい。
この旅の間、さまざまな文化や環境の世界に足を踏み入れて来たけれども、ロンドンに到着した時以上の戸惑いの瞬間はなかったかもしれない。かつては自分も日本という先進国に住み、いわゆる都会という環境の中で生活をし、文明社会というものに属していたはずなのに、この2年間ずっと途上国ばかりを旅して来たので、久しぶりに足を踏み入れた文明社会は違和感の固まりであった。つい数日前まで、ラクダの背に乗り広大な砂漠を渡っていたのに、一体この差は何だろうか。
ロンドンを訪れた理由は二つある。まずはカメラ機材の不調。長きに渡るアフリカ滞在は、予想以上に機材にダメージを与えていたようで、カメラ、レンズにカメラバッグまで、何ひとつ修理が必要でないものはなかった。そして、それだけ大きな損傷を機材に与えた旅は、この体にも等しくダメージを与えていたようで休息も必要であった。
そして、もうひとつの理由は、ただ単純に16年振りにこの街を見てみたかったこと。高校卒業を控えた18歳の時、日本から飛行機に乗り込み、ロンドンに来たことがある。その時は1ヶ月ほどこの街に滞在した。自分で決意して行き先を決めて日本を飛び出したのはこのときが初めてであった。その後、大学に入り沖縄に通うようになり、それが海外へと視点が移って行き、写真家としての道につながって行く。振り返ってみれば、ロンドンが始まりだったのである。
あれから16年。いくつもの国を訪れ、多くの人に出会って来た。ロンドンの雨を眺めながら、そのひとつひとつの記憶を思い浮かべては、寒い夜を過ごした。
写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。
「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま
竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com
著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)
2012/05/24
いま、世界一周の途中。
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