Vol.29
大地に生きる美しさ
Niger/ニジェール
写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。
写真家セバスチャン・サルガドの、ある写真を初めて見たとき、目も心もすっかりその写真に奪われたのを覚えている。そこには牛と少年が佇んでいる。ただそれだけの写真である。しかしその牛の角が異様に大きくて目を引く。体に対してアンバランスなほど大きい。砂嵐の壁を突き破るかのように伸びるそれは、写真に不思議な力を与えている。この角を一目見てみたい。ここ数年、ずっと思い続けていた。
この種の牛がスーダンの南部に多いらしいと聞くと、45度の酷暑のなか荒野を行き、ウガンダ北部にいると聞けばバスを乗り継いで探しに出かけた。確かにそこには大きな角を持つ牛がいた。しかし何か違う。ファインダー越しにその姿を捉えつつもその違和感はなくならなかった。何が違うのだろうか。
ニジェールを訪れたとき、内戦を終えたばかりの隣国リビアの不安定な情勢の影響を受けていた北部は、この数年国際テロ組織の拠点になっている関係もあり、ピリピリとした緊張感があった。また同時に隣国のマリの砂漠地帯では、外国人が誘拐される事件も起きていた。そのためどこへ行くにも軍の許可が必要で、それは煩雑であり、また安全とはいいがたい状況であった。
それでもニジェールの地平線の果てまで続くブッシュを進み、道無き道を行く。一体どこをどう進んでいるのかわからなくなった頃、その牛が姿を現し始めた。ニジェールではボロロ牛と呼ばれている。その姿の美しさはこれまでアフリカ各地で見てきたものとは明らかに違う。輝いている。存在自体が眩しく、そして美しい。そのフォルムは大地に生きる美しさを体現しているかのようである。
ボロロ牛を遊牧しているのはウォダベ族だ。彼らは美意識がとても高く、男性が化粧をして女性の気を引くというサヘル地帯の遊牧民である。彼らが遊牧するのはこのボロロ牛のみだという。数百頭を越すボロロ牛を連れ、広大な大地を旅する。この地のボロロ牛が美しく輝いて見えたのは、ウォダベ族の存在が大きいのかもしれない。大地に根ざし、大地とともに生きる。過酷で美しい大地で、美を求めて生きるその姿が、見る者の心へ強い力を投げかけて来る。
彼らとボロロ牛たちはまさに大地の一部として生きていた。その美しさはアフリカ大陸の最深部にふさわしい輝きを持っていた。
写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。
「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま
竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com
著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)
2012/03/08
いま、世界一周の途中。
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