HOME > SOUL > いま、世界一周の途中。 > Vol.4 写真家が愛した街 アンティグア・グアテマラ 写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球” いま、世界一周の途中。

画像

Vol.4
写真家が愛した街
アンティグア・グアテマラ

写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。

 いまから130年ほど前、「ここではない何処か」を求めて日本を旅出った人物がいた。その名は屋須弘平(※)。

グアテマラの古都アンティグアの街中にあるサンペドロ教会の前、屋須が見た景色とほぼ変わらぬ景色を眺めながら、130年前の旅人のことを思った。

 屋須は1846年に岩手県の小さな街の医者の家に生まれ、成人したのち医者として診療所を開くが、弟の急逝により人が持つ人生の時間の短さと脆さを実感し、自分が死ぬまでにできるだけたくさんの世界を見たいと決心する。28歳のとき、ここではない何処かを求めメキシコへ渡り、翌年、グアテマラアンティグアに辿り着く。そして、そのアンティグアで写真館を開き、写真家として生きた人物である。

 アンティグアはスペイン植民地時代のコロニアル様式の街並がその当時のまま残っている小さな街で、屋須がここで亡くなるまで22年間間過ごした。

 屋須の代表作「サンペドロ教会」の前で三脚を立て、カメラを彼の写真と同じ構図でセッティングする。ファインダーの中に写る昔と変わらぬ風景。屋須がそのレンズを通して見た風景がそこにはある。

 130年前「ここではない何処か」を求めて日本を旅立った写真家と、2010年同じく、「ここではない何処か」を求めて日本を旅立った自分。ここアンティグアで同じ風景をファインダーに捉えながら、その心の中はいかように違うのだろうかと思いを馳せる。130年前の人物の心の中を正確に推し量ることはいまや不可能だ。しかし、きっとその心の中には故郷、日本のことがあっただろうと思う。なぜなら、自分自身、世界を旅しながら常に変わらず胸の内にあることといえば、自分の生まれた国のことだからだ。旅人は帰る場所があってこそ旅人である。帰る場所が無い旅は、それはただの流浪にすぎない。

 時代は変わり、街を行く人々は変わり、写真家が持つカメラも変わった。果たしてここにいる僕の心は、彼の時代のそれと比べて豊かになったのか、それとも逆に乏しくなってしまったのか。それは僕にはわからない。ただひとつ言えることは、旅人が故郷を思う気持ちはいつの時代も同じであったであろうということ。その思いに至った時、130年前の写真家が身近に感じられ、そしてその写真家の愛した街が、僕にとっても愛すべき対象へと少しずつ変わっていったのであった。

 

※ [屋須弘平]1846年~1917年。写真家。岩手県藤沢町で医師として診療所を営んでいたが、1874年に横浜で「メキシコ金星科学調査隊」に出会ったことをきっかけにメキシコに渡る。以後グアテマラを終の棲家として撮影活動を行い、建築や宗教をテーマにした写真作品の他、グアテマラ人のポートレイトを多数残す。現地では“グアテマラに生きた写真家”として、いまなお高い評価を得ている。

写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。

「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま

 

画像

竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。
公式サイト www.uruma-photo.com
著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)

Back Number

いま、世界一周の途中。

このカテゴリーのインデックス

Page Top


  • Mail News
  • 画像クリックでイメージムービーがSTART

  • 冒険のクロニクル  Presented by BREITLING
  • Award Archive
  • ファウスト魂