Vol.41
優しさとの出会い
Kang Village, Iran / イラン・カング村
写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。
時々、これまでの旅の途中で出会った人びとのことを振り返って考えることがある。ニジェールで深夜に知らない街に着き、泊まる宿がなく困っていた時にバイクの後ろに乗せてくれて一緒に探してくれたアフリカ人のこと、トルコの田舎の村をぶらぶらと歩いていた時に、農作業をしていた農夫が手招きをして熟れて甘くなったメロンを食べさせてくれた時のこと、ブータンで雨宿りをさせてもらった民家で出された温かいバター茶の味や、グルジアで民泊した時、愛のこもったもてなしをしてくれた仲の良い老夫婦のこと。
一体どれだけの人びととすれ違い、またその優しさを受け取ってきただろうか。どこか遠い国からやって来た、見ず知らずの旅人をどこの国でもみな笑顔をもって快く受け入れてきてくれた。
その優しさを受けるたびに、なぜこんなに良く接してしてくれるのだろうかと、旅を始めた頃は戸惑った時もあったけれど、いまとなってはそこには理由なんてものは無く、ただ単純に多くの人びとが旅人を見かけるとそうせずにいられないだけだということを感じている。
トルコのあと、グルジア、アルメニアと抜け、イラン各地を旅してまわった。その間に受けた優しさの数々は、一言で語り難い。その中からひとつ印象深かった出会いをあげるとすれば、イランの聖地マシュハド郊外にあるカングという小さな山奥の村を訪れた時のこと。行きのバスで一緒になった青年が、彼の家族の家へと招いてくれた。
山の斜面の中腹にある家にお邪魔し、昼食をご馳走になった。羊の干し肉をトマトとレンズ豆で煮込んだシチューにライスやヨーグルト、庭で取れた葉野菜が並ぶ。それを家族と一緒に輪になって食べる。お腹いっぱい食べるとすかさずチャイと自家製のドライフルーツが出される。
言葉は通じず、コミュケーションを取ることはできない。でもその優しさは言葉を越えて知ることができ、そこにいることに違和感を感じることも無い。
今日は泊まって行けと手振りで言ってきてくれたけれども、日が暮れる前に街に戻りたかったのでお礼を言ってその家をあとにした。別れ際、家族みんなが出て来て手を振ってくれる。お母さんはどこかへ消えてしばらくのちに何やら手にもって現れたかと思うと、袋一杯のドライフルーツを持たせてくれた。
帰りのバスでそのドライフルーツを噛み締めるとその村で感じた優しさが蘇り、カング村の山のかおりがふわっと口の中で広がったのだった。
写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。
「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま
竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com
著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)
2012/09/26
いま、世界一周の途中。
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