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Vol.28
砂漠に生きるウェルウィッチア
Namibia/ナミビア
写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。
ナミビアの国土は広大である。どこまでも行っても平らなサバンナが続いている。その大地を縦横無尽にオフロードを東へ西へ、南へ北へと走り回る。変化に乏しい車窓の風景に飽きを感じる時もあるが、時折、象やキリンが遠くに歩いているのが見え、そのたびにナミビアの自然の豊かさを感じる。
夜明け前のナミブ砂漠。あたりはまだ薄い紫色の光で満たされていて、砂漠は夜の闇の中に冷たくひっそりと佇んでいる。両側を小高い砂丘に挟まれた道路を走り、砂丘に突き当たる行き止まりで車を降りる。そして砂丘を裸足で登る。足の裏からは砂漠の砂に蓄積された夜の冷たさが伝わって来る。ようやくの思いで砂丘の頂上に立つと、その向こうから朝陽が顔を覗かせた。
滑らかなシルクがたなびくようにさらさらとした砂漠の起伏が、朝の光が太陽から放射された瞬間に、赤く輝き始め、それはまるで赤い大波が打ち寄せてくるような迫力を持ち始める。その移り変わりの美しさ。それはほんの数秒、たった一瞬の間に起こる。砂は煮えたぎるように光り、砂漠を吹き抜ける風は太陽の香りを内包し、そして青い空はどこまでも高くなる。砂漠ほど夜と昼との世界の差が激しいところはないのではないだろうか。
ナミビアにはこの夜と昼の世界の違いを利用して生きている植物がある。ウェルウィッチアと呼ばれるその植物はおよそ2000年生きると言われている。一年を通してほとんど雨が降らない砂漠地帯に生息するウェルウィッチアは、夜と朝の寒暖の差によって得られるわずかな朝露に頼って生き延びる。
ウェルウィッチアが生息する大地は荒涼としている。そこを歩いて見て回ると、その静けさに驚く。何の音もない。完全なる静寂。風の音も無く、聞こえるのは自身の足音だけ。あまりにも音がなさすぎて、時が止まってしまったのではないだろうかと不安になって来る。
この無音の中にこの植物は2000年も生きて来たのか。どうやってこのずしんとした重みのある沈黙に耐えることができるのだろうか。2000年の沈黙。一体この植物の中にはどれだけの記憶が積み重ねられているのだろうか。
僕はナミビアの広大な砂漠とウェルウィッチアを前に、ただ自分自身の存在の小ささを感じ続けることしかできなかった。
写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。
「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま
竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com
著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)
2012/02/02
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