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Vol.43
パミール高原を越える
The Pamir, Tajikistan /タジキスタン・パミール高原
写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。
標高5000mを越す山々が連なるパミール高原を越える。この山々を越えれば、日本へと向かう旅路はぐっと近くなる。
まずはタジキスタンの首都ドゥシャンベから、アフガニスタン国境付近にある西部パミールの小さな街ホーローグに向かう。始めはなだらかな丘が続き順調に走り出したのだが、次第に険しい山々が行く手を阻むかのように連なり始め、断崖絶壁にへばりつくように蛇行する未舗装の道になっていく。
険しい山を越えると、その先に両側が荒々しい岩山に挟まれた渓谷が続いている。谷底には河が流れていて、その対岸はアフガニスタン。その景色の美しさ、雄大さ。ここからいわゆるパミール高原が始まるのだけれども、その景色をみると心が浮き足立つ。あれがアフガニスタンか、これがパミールか。情勢不安定のためこの数ヶ月ほど入域が許可されていなかったので実際に来られるとは思っておらず、感慨ひとしおである。
それから日が暮れるまでの数時間は、最高の景色の連続であった。切り立つ岩山に挟まれた渓谷の底を流れる激流の側を走る未舗装の道路をジープは飛ばす。こちら側はタジキスタン。そして対岸はアフガニスタン、という状態がこのままホーローグまで続く。対岸まではたったの50mほどである。向こう岸の岩山の斜面に点在する岩と泥で固めた茶色い質素な家、その周りに広がる畑。藁を背負って歩く人、ロバに乗って移動する人、風を利用して籾殻を取る作業をしている人、川辺で何やらしている子供たち。アフガニスタンの生活が間近に見て取れる。その様子が興味深くて、いつまでもずっとながめていたけれども、飽きることはなかった。
その後、パミール高原で過ごした日々は、忘れ難い。
険しい山々に埋もれるように点在する村を訪れては民家に滞在し、周辺の山を歩き回った。パミール高原東部は標高が5000m近いところが大半で、まだ9月だというのに雪がちらつくこともあった。そんななか山道を何十キロも歩き辿り着いた雪山の麓。そこでは夏の間だけ放牧をして過ごす人々が住む伝統的天幕のユルタがあり、温かいヤクのミルクで優しく出迎えてもらい、幾晩か日々をともにした。
パミールの険しく、人を受け付けないような景観とは対照的に、そこに住む人びとは常に優しく、笑顔を絶やすことがなかった。過酷な自然環境は、人を優しくするのかもしれない。そんなふうに感じた日々であった。
写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。
「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま
竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com
著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)
いま、世界一周の途中。
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