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Vol.47
迫る終結の時
ラオス・ムアンシン/Muan Sing, Laos
写真家・竹沢うるまが切り撮る“現在の地球”
いま、世界一周の途中。
中国を抜け、東南アジアに入った。当初、この地域は訪れる予定ではなかったが、中国の旅ではチベット文化圏を訪れていた関係で何度か公安に尋問されたり、写真のチェックをされたりと、何かとピリピリと緊張した旅が続いていたので、ふと東南アジアのあののんびりした空気が恋しくなり、そのまま中国を南に抜け、ラオス、ベトナムへと国境を越えた。
国境を越えるたびに毎回、がらっと変わるその国の雰囲気に驚き、新鮮な気持になるのだけれども、このときの開放感と言ったらなかった。温かい空気、緩く流れる時間、人びとの優しい笑顔、目に優しいしっとりとした南国の森。自分がいかに中国の旅で疲弊していたのかを知らされた。
しかし、緊張の糸が切れたのかラオスに入ってすぐ体調を崩してしまった。あまりに高熱が続くので病院に行くとインフルエンザにかかっていた。一週間寝込み、ようやく回復したかと思えば、今度はデング熱と腰痛。ふらふらする頭で、日本まであともう少しなのになんで??と思うのだけれども、日本まであともう少しだからこそ気が緩み、そこから隙が生まれたのだと思う。
その後、なんとか回復し、ラオスやベトナム北部の民族の村々を訪れた。奥深い山々に埋もれるようにさまざまな民族の村が点在する。モン族、アカ族、ザオ族、ヤオ族など。どの民族も特徴的な伝統的衣装を身にまとっている。そんな彼らが自然のなかで農耕を営み、昔と変わらぬ生活をしている。絶好の被写体である。
でもなぜか撮る気がしない。全くしない。自分の中で、撮らなくていいのか?という声が聞こえて来る。でも撮れない。それどころか、撮ることがつらい。
このとき、僕はもう緊張の糸が切れて、何を見ても心が動かされない状況になっていた。それでもなんとか撮るのだけれども、心がそんな状態だから、対象との精神的な距離を縮めることができない。向こうが拒否するのではなく、僕の心が拒否している。
僕の中で、この旅が終わった瞬間が確かにあった。その時点で、もうこの旅の中で写真を撮れなくなってしまっていた。というよりか、撮る必要がなくなったと自分の中で納得してしまっていたのである。だから撮れなくなった。それ以降の旅は単なる惰性でしかなかったのである。そのことにこのとき初めて気付かされた。
そしてこの瞬間、僕はもうこの旅で写真を撮らないと決め、日本へとまっすぐ帰ることにした。長かった旅も、ここでようやく終わりが明確に見えたのであった。
写真家・竹沢うるまは今現在、陸路での世界一周の空の下にいる。2010年3月に東京を出発し、アメリカからスタート。中米、南米、アフリカ、ヨーロッパ、中近東、アジアを巡り、日本へと帰る旅。帰国は2011年、場合によると2012年になるという。
目的は“現在の地球の姿”を、その若く瑞々しい感性で写真で記録すること。この連載は、地球のどこかを旅するうるまから届く、生の写真とエッセイをお届けするものだ。 さらに、うるまが本当のゴールとするものは、30年後に再び同じルートで世界を撮影して巡り、写真を比べること。そして、ひとりの人間の半生の間に、地球はどこに向かったのかを映し出すこと。
「私たち人間は、この地球という星のことを、一体どれだけ自分の言葉で語れるでしょうか。“ボクらが生まれた星”はいったい今どんな姿なのか、ひとりでも多くの人に伝えたいと思います」――竹沢うるま
竹沢 うるま
1977 年生まれ。写真家。「うるま」とは沖縄の方言でサンゴに囲まれた島の意。出版社のスタッフフォトグラファーを経て、2004 年独立、URUMA Photo Officeを設立し活動開始。雑誌、広告の分野で活躍し、海外取材は通算100回を超す。世界中の自然を主なフィールドにする自然写真家。現在、世界一周の旅を敢行しながら作品を寄稿中。立ち寄った国はすでに10カ国を超えた。
公式サイト www.uruma-photo.com
著作物
写真集「URUMA –okinawa graphic booklet-」(マリン企画)、「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(小学館から2010年7月20日に発売)。その他ポストカード、カレンダー等。
個展暦
2005年「TWILIGHT ISLAND」(DIGZ原宿)、2007年「Rainbow's End」(Palau Pacific Resort)、2007年「URUMA -日本の異次元空間を旅する-」(丸善・丸の内本店)、2008年「Tahiti ~タンガロアが創った島々~」(PENTAX FORUM)、「Tio's Island」(大手町カフェ) 、2009年「Tio's Island ~南の島のティオの世界~」(KONICA MINOLTA PLAZA)
2013/01/17
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