Vol.8
挑戦は3年目へ!
トラブルを耐え抜くガマンの2010年初戦
ファウスト・レーシング・チーム(Faust.RT)の戦いが、再びスタートした。
2010スーパー耐久シリーズ第2戦、菅生。
チームの初戦はここから。スーパー耐久のトップカテゴリー、ST-1クラスに参戦して3年目のシーズンとなる今年は、ルマン挑戦への試金石ともなる1年だ。夢を本気で追い求めるファウストR.T.のエポック・イヤーとなるだろうか?
テスト走行のマシン好調で高まる期待
3月某日、富士スピードウェイで、Faust RTの今季初テストが行なわれた。前日の大雪の影響で、練習走行の開始時間こそ遅れたものの、集まった3名のドライバー達はシーズンインの肩慣らし走行を予定通り終えた。
今年、シリーズを通して戦うマシンは昨年と同じ、ポルシェ996GT3-JGN。サーキットに降ろしてから実に9年目となるマシンだ。昨年のS耐、岡山で走ったままの状態だが、エンジンはオーバーホールをされてフレッシュな状態だ。2010年モデルのポルシェ997に比べれば、まだ馬力が足りないが、アップダウンの厳しいSUGOサーキットで、ドライバー達の背中を押してくれることだろう。
計測されたストレートスピードは、昨年のFISCO決勝比で、プラス5km/hの255km/h。ラップタイムも昨年予選より悪いコンディションながら、1分51秒台を記録。1秒以上詰めることができた。集まったドライバー達の反応も上々だ。エンジンは7000rpm以上で、重たい感触が残っているものの、中低回転域からのピックアップが向上しているとの評価。寒さで水温が上がらない中の結果だけに、初戦に対する期待感は高まった。
5月9日予選‐エンジン不調19位
スーパー耐久第2戦が開催されるのは宮城県のスポーツランド菅生。この日は、遠くに雪を冠した蔵王がクッキリと見えるものの、流れる雲が多く風も強い。日差しはキツイが肌寒いという、申し分のないレース日和となった。耐久レースでは珍しい予選・決勝が同日となるワンデイレースということもあり、大勢の観客がサーキットに集まった。
取材陣とレースクイーンがサーキットに入ったのは、公式予選中。Aドライバーのアタックが終わり、Bドライバーがコースイン、そんな時間帯だ。ピットの中はとくに緊張感もなく、何事もないように思えたが、ピット壁面にあるモニターに次々と表示される予選タイムを見ると、異常な事態であることはすぐにわかった。Faust RT、ゼッケン9番のタイムがまったく伸びていないのだ。トップから約6秒落ちで20番手前後。
メカニックに話を聞けば、「金曜の練習走行の時点で、エンジンの調子が思わしくなく、土曜の朝に予備エンジンに載せ替えたのが要因のようだ。その載せ替えたエンジンは、今まで相当走りこんでいるため、パフォーマンスが悪く、同カテゴリーのトップマシンに比べ、トップスピードで20km/h近く落ちたのでは」とのことだった(これが現場でのメカニックの推測だったが、後日それは誤りだったことが判明している。後述)。その結果がラップタイムの6秒落ち。これはパワーがものをいう菅生では、ST-2クラスのランエボやインップレッサにも軽くパスされるタイムだ。
とは言っても、やるべき手段を講じてしまった今、メカニックも対応する術がない。
チームにとっての救いは、手に入らないものを嘆くメンバーが誰一人いないことだ。
ここまでフル参戦の堀・ロバートは、
「今日は残念、ごっつぅ実力出しとんのになぁ、ルマンへの練習や!」と明るい。
Faust RTのメンバーとして、今回初めて参加する岡本も、
「アンダーならアンダーなり、オーバーならオーバーなり、パワーが出ないなら、出ないなりに走ります」
と、肩の力が抜けている。
予選結果‐28台中19位という成績で、午後の決勝「400kmレース」に挑むことになったFaust RT。好いリザルトは望めないが、レースである以上、手抜きはなし。貴重な「本番」レースをムダにすることはないはずだ。
初メンバー、岡本武之という男
新たにFaust RTからエントリー、このSUGOと次戦の鈴鹿と第4戦の富士を走るドライバー、岡本武之(41)について紹介しよう。
大学時代に始めたカートが、レースに関わるきっかけ。そのカートレースで同じ日にデビューした中学生が、現役プロレーサー柳田真孝だ。岡本は、「永遠の憧れです」と柳田のことを言うが、年齢でいえば10歳下の柳田の存在が、彼にとってはヒーローなのだろう。モータースポーツへの強い原動力となっている。
その後、 大学を卒業し、証券会社のサラリーマンとなった岡本は、再びカートに参戦した時期もあったが、資金的な問題で長くは続かずレース界から遠ざかってしまう。しかし、それでも夢を捨て切れず柳田真孝の動向だけは追っていた。高校2年の時に全日本カート選手権に参加した柳田は、同年スカラシップを獲得し渡仏、帰国後も活躍を続ける。岡本は「いつか、あいつと同じフィールドで戦いたい」と思い続け、それが、十数年後実現することになる。
証券会社を退社、自ら起業し、投資会社の社長として成功をおさめた岡本は、サーキットに戻った。もちろんFaust RTの他ドライバーと同じく、仕事を続けながらの参戦だが、学生や、サラリーマンだった時の「趣味レベル」から大きな軌道修正を行なった。
まず2007年にフォーミュラ・トヨタにフル参戦。マシンはトヨタ製4A-GE・1.6ℓエンジン、ヒューランドのミッション、ブレーキアシストなし、パワステなしの、レース専用フォーミュラーカー。トップカテゴリーを目指すドライバー達のためにトヨタが主催したレースに、30代後半の社会人が、平均年齢21歳の若手たちに交じりながら、本人も「無謀」という挑戦を始めたのだ。もう半端はしない。
成績こそ、常にドン尻。まったくといっていいほど振るわなかったが、そこで、「走る」テクニックと、レース界の人脈を築いていったのだろう。2008年にはスーパー耐久にTEAM TETSUYAからCドライバーとして参戦する。主戦ドライバーは田中哲也と星野一樹だから、驚くべきことだろう。そして、その時、柳田真孝もトップチームのペトロナスでBMWをドライブしていたのだ。
ピットでの岡本は明るく、周りに人が絶えない。
Faust RTともサーキットで知り合い、今回の参戦となった。岡本は、「僕が加わることでチームと僕のどちらにもプラスになればいいですね」と前向きだ。また一人、頼もしいメンバーが加わった。
スターティング・グリッドでのアクシデント
耐久レースは長丁場。トラブルが無いことにこしたことはないが、その対応力を身に付けるのはチームにとってもドライバーにとっても重要だ。目標とするルマンは24時間、プライベートチームがトラブル無く完走するなど、想像することも難しい。今回のようにエンジンの良くない状態でも、完走に繋がれば、ドライバー、チームにとってはプラスに働くだろう。
エンジントラブルを抱えたもののスタートラインに付いたFaust RTのポルシェ。ところがコースインする直前に、レース中、ドライバーの上半身を冷やすクールスーツの不調が発覚。いかに外は涼しいとは言え、クールスーツが無ければドライバーの負担は極限に達する。
すでにコースインが始まっているため、ピットでの修理は諦め、スターティング・グリッドに付いてから対応することになった。他チームが余裕でスタートを迎える中、観客の揃うグランドスタンド前での作業はカッコのいいものではないが、これもレース。メカ達の手際のいい作業で、何とかスタート時間には間に合った。不安顔のレースクイーン達も明るさを取り戻した。
「SUGO400km耐久」は先頭が108周に達したところでチェッカーとなる、スタートドライバーは岡本、次いで堀、山野の順で、それぞれ40周、50周、残り周回で各スティントを受け持つ。
サードドライバーの山野は、ブレーキパッドのプロジェクトμの開発担当で、プロドライバー。実は、Faust RTのポルシェ996に乗って過去レースをしていた経験があり、今回は特別参加だ。練習走行から乗ってもらって、意見交換しながら、マシンのセットアップとドライバーのスキル向上に繋げようという考えあってのことだ。
苦労しながらの激走、そして完走
1周のフォーメーションラップの後、ローリングスタート。19番手という後方からのレースだけに、前後に並ぶのはST-3、ST-4クラス。レースラップも1分34秒台~35秒台と予選位置なりのもの。
ピットからは「厳しいな~」との声が漏れる。4月のSUGOでのテスト時には29秒台が出ていただけに落差は激しい。ストレートは上りの急勾配なのだが、その坂でカテゴリー下のマシンに抜かれるのだ。ストレートで抜かれ、コーナーで詰める。その繰り返し。順位も20位前後で上下を繰り返す。
スタートから数周で、ラップがさらに落ち始める。単純にタイヤのタレではないようだ。岡本からピットに無線が入る。
「7000rpmから上が加速しない!」
さらに数周後には「加速しないばかりか、回転すら上がらない!」と悲痛な無線が飛び込んできた。打つ手のないピットからは「仕方がないので7000rpmキープで走って下さい」の無線がとぶ。マシン状態そのものは落ち着いているのだが、高回転域を使って周回を重ねれば悪い方向に向かいそうだ、排気音もコモっていて普通ではない。完走のためにはリスクは避けたい。
これは後日判明したことだが、エンジントラブルではなく排気系のトラブルだった。触媒が溶けてマフラーが詰まっていたのだ。
レースはまさに「耐久」レースの展開。マシンだけでなく、ドライバー側にもミスが起こる。
25周目、岡本が黄旗区間の追い越し違反で10秒のペナルティストップ。
90週目、堀がピットイン時に、ホワイトラインカットでドライブスルーペナルティ。
周回中はST-3、ST-4のマシンとバトルしているが、彼らの戦っている相手は、実はFaust RTではなく、同カテゴリーのマシン。こちらサイドが原因のレースアクシデントは間違っても起こせない。その中でのバトルとなれば、余計な緊張間も生まれる。だから、戦いとは関係のないところ、張り詰めた空気の解けた場所で一瞬のスキが生じた。そう考えるしかないだろう。これもいい経験になるはずだ。
レースを終えて
岡本は走り終え、落ち着いた後でFaust RTでの初レースを振り返った。
「メーカー系チームにあるピリピリさはないですね。それはアマチュアだからなのか、元々チームのもっている雰囲気なのかはボクにはわからないけど、次の鈴鹿に向けて、チームの雰囲気とレースの進め具合がわかってよかった」と、
さらに、Faust RTがルマンを目標にしていることについても語ってくれた。
「堀さんも、佐藤さん(SUGOは不参加)も、今はレース・スキルを上げることに集中している。この積み上げがあれば、ルマンを走ることは夢でない気がします」と。
結果だけを見れば、2010初戦は総合21位と惨たんたるものだったが、誰もその結果にガッカリはしていない。ドライバー成長の手ごたえをチームが共有しているからだろう。堀が50周という長丁場のスティントを終えた後、 「オレは戦ったぞ~!」と言って、笑いながらレーシングスーツを脱いだ時、ピットの中は爆笑に包まれた。もう昨年のS耐岡山のようにギスギスとすることはないだろう。次戦、鈴鹿は、チーム結成年から参加しているレース、また違ったドラマを期待しよう。
スーパー耐久レースのオフィシャルサイト
http://www.so-net.ne.jp/s-taikyu/
ファウスト・レーシングチームのオフィシャルスポンサー
株式会社BRAINGROUP
http://www.braingroup.jp/
F1 PIT STOP CAFE
http://www.f1pitstopcafe.co.jp/
セインツシンフォニー
http://www.thesaintssinphony.jp/
Text:Yuji Takahashi
Photo:Hiroshi Kodaira
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