Vol.5
真夏の「雨中」激走バトル クラス4位を獲得!
スーパー耐久シリーズ2009第5戦、SUPER TEC。
FISCOを舞台にして争われる、過酷な真夏の4時間耐久レースだ。
昨年の同レースで「Faust.RT」は、完走を果たしただけでなく、チーム全員がトップカテゴリーのクラスでやっていく手ごたえをつかんだ、ゲンのいいレース。さて、今年はどんな結果が待ち受けているのか?
ポルシェの参加増える~ST-1クラスの現状
S耐は、もともと市販車ベースの改造車で競われる耐久レースだが、トップカテゴリーST-1クラスは、いささか事情が違う。排気量3500cc以上、市販価格1200万以下という規定はあるのだが、特別に認可された車両は参加が許される。そのため、現状はレース専用車両として市販されているポルシェ911GT3-JGNと、BMW Z4ベースのレース専用モデルM Coupe Racing、ニスモより販売されているフェアレディZ Version NISMO Type 380RS-Cの3タイプの車両がエントリーされている。
耐久といえば国内外とも長い間「ポルシェ」の独壇場だった。S耐も例にもれず、2005-2006シーズンは、ほぼワンメイク状態だったが、2007年は熟成を重ねてきたフェアレディZにシリーズ優勝をさらわれ、2008年は海外レースでもスピードの違いを見せつけていたBMWが独走で優勝。そのためか、昨年、今年とポルシェのS耐へのエントリー台数は少なかった。
ところが、この第5戦、FISCOの舞台から、新たに2台のポルシェが参戦。ST-1クラスはポルシェ4台、Zが2台、BMWが2台で総勢8台の戦いとなった。戦闘力で勝るBMWに、Zとポルシェが挑む形となったのだ。Faust.RTのポルシェもその1台である。
急遽ドライバー変更-吉か凶か?
今回のドライバーは昨年から全戦走っている堀と、今年は初戦となる佐藤、S耐初参戦の木村の3名。
木村は、車両メンテナンス・チーフである志村の元で、若い頃からレースをしていた歴戦の友。この第5戦では、参加予定だったドライバーの一人が急遽ダメになり、公式練習からの参加。いわばピンチヒッターである。昨年カレラ・カップ(ポルシェ911GT3-JGNのワンメイクレース)に参戦している点は心強い。
このレースで、大きな意味をもつのが木村と志村の関係だ。レースでの勝負はベースマシンの戦闘力がものをいうが、最終的にはセッティングがマシンの出来を左右する。ポルシェ911GT3-JGNという完成されたレースカーでも、その点は変わらない。ドライバーの意思がメカに伝わり、それを反映してセッティングを出さなければ、ドライバーの意のままにクルマは動かない。同じコースを走ることになる堀、佐藤、二人の言葉をドライバー目線で伝えられるのが、木村。マシンセッティングが出ている状況ならばいいが、状況が悪いほど、木村の参加はチームにプラスになるはずだ。
「去年よりタイムが出ない」-予選での苦悩
8月1日-予選。午後12時、気温26.4度、路面温度33.2度。
この時期としては異例とも言える低い温度。
1コーナーに近い28番ピットから、Aドライバーの堀がコースインの合図と同時に、先頭を切って飛び出す。アタックに入った1周目、ていねいに周回を重ね1分52秒4。ここから2周目、3週目と攻めに入るが、タイムは伸びずに逆に53秒代に落ちる。後半はタイムを戻し52秒台。
「1周目がベストラップかぁ、走っている感覚じゃ53秒か54秒なんやけど、とにかく100Rが踏めない」と堀。
続く佐藤もアタック。やはり52秒台から伸びない。ベストは5周目に出した52秒1。
「踏めない。踏みたいところで踏んでいくとアンダーが出て、前に進まない。スピードが乗せられないから去年よりタイム出てないでしょ」 昨年が51秒台だから、その通り。佐藤は、このS耐の始まる直前にポルシェで乗り込んで来ており、それ相当の自信があったのだが、どうもセッティングが合ってないようだ
S耐の予選はAドライバーとBドライバーの合計タイムで決まる。Cドライバー木村の役どころはタイムアタックではない。セッティングに専念、特に今回は。木村は2周目52秒0を出したものの、Aコーナーでスピンしてピットイン。リアショックの減衰力を柔らかめにして出て行ったもののタイムは詰まらず、明日への不安を残したまま予選セッションは終了した。
レースでは恵みの雨になるか-練習走行
一夜明けた日曜日。
朝からの雨模様で、FISCO周辺は霧で覆われた。
午前中のフリー走行は、アンダーセッティングがオーバーにならないように。リアにトラクションがかかるようなセッティング。雨だからといって、やることは多くはない。前後のスタビとショック、バネだけの調整。
ドライバー達も練習走行で無理しても仕方がないので、2分3秒~6秒台で、感触を確かめるだけ。本番前に壊さないように慎重にコースへと出て行った。
雨の中、フリー走行ではあるものの、タイムをあげているのはST-2クラスの新旧ランエボ。ウェット路面での適正の高さを生かして、実に、4台のランエボがST-1クラスに混じって上位タイムを叩きだしている。このまま雨が降り続ければ、今日のライバルはST-1カテゴリ内だけではなく、ランエボやインプレッサといった4WD勢も相手になるだろう。
練習走行を終えて帰ってきた堀は、次の佐藤に伝える。
「コース全部、川! ツーッと滑っていく感じ。遅いクルマを抜く時がヤバイね~。前の車のテールランプがいきなり現れる」
一方、木村は志村チーフに、
「悪くないね」
「じゃ、そのままで」と志村。
朝のセッティング出しがバッチリと決まったようだ。
レースプランは、4時間のレースを堀、佐藤が1時間30分ずつ、残りが木村。スタートはフルタンクの100ℓ、晴れたらギリギリのところだが、雨だから大丈夫、ポルシェの欠点でもある燃費面での心配はいらない。
志村チーフは、
「ドライが上手くいかなかったら、雨降ってラッキーだった。クールスーツもドリンクホルダーも用意したし、ドライバーには楽に走ってもらう。ABSも付いているし、デフロスターも効くし、雨だからって心配ないよ」と、ピットに集まっているレースにさほど詳しくない関係者を安心させる。
1stドライバー、堀。-雨中の激走40ラップ!
正午12時、一般観客のピットウォークは予定通り行なわれたのだが、突然の大雨により自衛隊マーチングバンドの演奏は中止。大雨洪水注意報の予報が的中して、このまま本降りになれば、スタート時間も遅らさざるをえない。ところが12時56分、スタート4分前、奇跡的に雨がピタリと止む。
定刻の13時。グリッドからスタートした各車が、マーシャルカーの先導で1周した後、シグナルがレッドからブルーに変わる。水煙を上げながらのローリングスタート。雨が止んだからといって、まだコース内はフルウェット。もっとも危険な瞬間だが、全車スムーズに1コーナーをクリア。ホッとする瞬間だ。
1周目、予選ポジションと同じ13位で通過。タイムも2分5秒台と悪くない。雨足が止まったせいもあり、路面はドライ方向に。志村からも「ドライタイヤ用意」の声がかかる。すでに水はけの良いストレートはスタンド側が乾いていて、レインタイヤ装着のマシンはタイヤが熱を持ちすぎないように、ピットロード側を走ってタイヤを冷やさなければいけない状態になってしまっている。
ところが、周回も10周目に入る頃、再び雨が。たいした量ではないが、確実に路面を濡らしていく。雨足の不安定さは終始変わらないため、ドライバーには細心の注意が必要になってくる。集中力を切らさないようにピットからは次々と無線をドライバー堀に送る。
「半分超えたんでがんばってください」
「前も5秒台で走ってるんで、雨が降れば食えるかも」
「ホームは右側走ってくださいね」
「ちょっとずつタイム上がってまーす、がんばってくださいね」
トップを走るBMW軍団のタイムから3~5秒落ちながら、堀も相当のがんばり。ポジションも13番手キープのままガッチリと後半戦に繋ぐ。
ピットトラブルも、佐藤が怒涛の挽回!
レースはトラクションコントロールを装備するBMWが、強さを見せて独走。総合13位を走るFaust.RTのポルシェの前にランエボが5台。雨での強さは予想されたこととはいえ、チームにとっては厳しい時間だ。
1時間30分経過、40周。予定通りにピットに戻ってきた堀。そして給油。給油中は規定で一切の作業が禁止となる。じれったい時間だ。給油が終わるとドライバー交代、クールボックスの中身交換、タイヤ交換。秒争いの作業が続く。
ところが、右前輪のホイールロックが外れない。電動インパクトナのソケットの山がナメていたのだ。ロスタイムおよそ20秒。誰も正確に測っていないが、長い時間に感じられたのはドライバーだけではないだろう。
佐藤がコースに戻るとポジションは20番手。そこから佐藤の挽回が始まる。じっくりとポルシェに乗り込んで練習してきたという佐藤は、雨の中、2分7~8秒台をキープ。後で聞けば、フルカウンターを当てながらも、堀のがんばりを、なんとか次に繋ごうと辛抱していたそうだ。
しかしまた、天気は気まぐれ。走り出して30分を立つ頃には完全に雨が止んだのだ。再びピットはスリックを用意する。タイムは2分6秒台。ポジションもジワジワと上がり、55周目には17番手、ピットからは前車とのタイム差が無線で送られる。
…そして再びの雨。
スタートから2時間30分、佐藤にチェンジして1時間のところで、雨足が強まり、各車のラップタイムがみるみる5秒、10秒と遅くなる。70周目のポジションを16位まで挽回した佐藤。この頃から他車にスピンでのコースアウトや、マシントラブルでのピットインが目立ち始め順位はさらに上がる。
Faust.RTも予定の80周目が近づき、準備を進める。他車とのピットインのタイミングの差もあるが、ピットイン直前に順位は11位までに浮上。そして3時間目、ジャスト80周で2回目のピットイン。タイヤはレインそのまま、タイヤ交換もなしだ。
木村の執念か? 鬼気迫るハードアタック
木村はレースのスタート前に、
「FISCOは、最高速の早いポルシェには理想的な条件、雨もポルシェのようなRR車には有利。他のマシンに比べればポテンシャルの低い2002年式のポルシェだけど、シングルを目指す」と宣言してくれていた。
その木村、実は雨のレースに苦い想い出をもっていた。1999年、東北ミラージュカップにフル参戦していた時だ。本格参戦最初のシーズン。チャンプを取れば、次の年のレース活動も約束されていたが、雨の中のノーポイントレースが響き、シーズン終了時は2位、夢を取り逃がした。ノーポイントレースは、ピットからのペースダウンのサインを無視してスピン、コースアウト。ぶっち切りで勝ちたいという、若さゆえの失敗。取り戻せない失敗は自分の「糧」とするしかなかった。
あれから10年、雨のFISCO。リベンジするにもちょうどいい時間が経っている。
木村がコースに入り、ピットイン後の各車のポジションが落ち着くと、総合12位であることが判明した。チームの頑張りに木村も答えなければならない。今日、一番強い雨の中、木村は11秒台のペースで走っていく。もうガリガリにツッぱる意志はない。チームと自分のために走るだけだ。少しでも路面が乾けば7秒台、6秒台へとタイムは上がっていく。後ろとのタイム差を開きながら、前との差を確実に詰めている。
すると、上位陣の中の1台、同じポルシェを使用するチームがタイムを落としていく、なんらかのトラブルを抱えていることは明らかだ。残り30分の時点でこのポルシェをパスし、ポジションは11位。
さらにドラマチックな展開は続く、残り12分のところで、20秒ほど前を走っていたNSXに、黄旗追い越しによるペナルティ10秒が課せられた。ピットロードに入ってくる時間も加えれば、さらに45秒のプラス。これでポジションは10位。
そして、耐久レースの残り時間が0:00を示すと同時にさらに信じられないことが起こる。
バケツをひっくり返したような雨とはよく言うが、まさにそれ。土砂降りになったのだ。
もう「走る」という状況ではないのだが、赤旗は出ない。チェッカー目前であれば仕方のない判断だが、アツくなる最終周だけにアクシデントは起こる。
場内放送がスピンするマシン名を告げる中、ST-3クラスではクラストップのマシンがスピン、1-2位が逆転した。Faust.RTのポルシェはというと、先頭がチェッカーを受けた時に直前を走っていたため、ゴールまでは相当に長い距離を走らなければならない。
果たして逆転があるのか?ないのか?
「無事に帰って来てくれ」ピットにいる誰もがそう思っていた。
そして3分後、木村の乗ったポルシェは無事にチェッカーを受けた。
エピローグ
総合順位は10位、クラス4位。 最後の1周では、順位を上げることも、落とすこともなく、そのままのポジションでフィニッシュ。結果は木村の望んだシングル着順でこそなかったが、達成感はチーム全員が共有していた。Faust.RTが参戦したS耐の中では、クラス順位も総合順位も最高のものだった。
毎レース優勝を目指すBMWやZ、新型も混じるポルシェ勢、雨に強いST-2の4WD車に混じって、Faust.RTのドライバー達は毎周回、神経をすり減らしながら走り、耐えて、次に繋いだ。マシントラブルやコースアウトでリタイアするマシンも多く、恵まれた点もあったが、それもレース。アマチュアにとっては、フィニッシュラインを切ることが大切だ。
ピットでは戻ってきた木村に、ドライバーやメカニックがガッチリと握手。そして回りからの大きな拍手。
佐藤「サイコー、よかった、よかった」
堀「無事に帰ってきたら、いいことあったよ」
木村「やらないと、次がないですから」
耐久レースではドライバーもメカも、ゲストも様々な人達が集まる。木村の「次がない」という言葉の重みは、本人だけのもの。言葉も、夢も、資金も、政治力も、すべてが絡み合い、糸になり、織になり、モータースポーツというストーリーは進んでいく。さらに「次」のステージを目指して。
次戦は第6戦、岡山スーパー耐久レース(9月5日/6日)。
ドライバーは未定だが、Faust.RTの新たな戦いが待っている。
スーパー耐久レースのオフィシャルサイト
http://www.so-net.ne.jp/s-taikyu/
現在発売中の「GOETHE」(幻冬舎)にてドライバー堀の挑戦を掲載中!
2009/02/05
ファウスト・レーシング・チームのオフィシャルスポンサー
「PIUBELLO」(ピュウ・ベッロ)
Text:Yuji Takahashi
Photo:Hiroshi Kodaira
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