Vol.13
「がんばろう東北!! たちあがろう宮城!!」
スーパー耐久2011第1戦SUGO
“雨のSUGO” 夢をつなぐ粘りの完走劇
東日本大震災の影響で、開幕戦は1ヶ月半ほど遅れ、舞台もツインリンクもてぎからスポーツランドSUGOに移された。そのSUGOは被災地宮城のサーキット。Faust.RTもレースに参加するだけでなく、震災復興支援に何かできることはないかと考えた。
ドライバー有志でサーキットに200名を招待
被災地である宮城県下でレースができること、そのことに感謝し、少しでも被災者を元気づけられればと、サーキットへの招待を決めたFaust Racing Team(以下、Faust.RT)。その呼びかけに、スーパー耐久機構事務局、主催者であるスポーツランドSUGO、両者の協力を得て「S耐震災復興支援活動ドライバー有志の会」が発足。Faust.RTが事務局となり、S耐に参戦するドライバー有志による寄付金で、100名をスーパー耐久に招待することになった。
招待内容はサーキット入場券(28/29日)と決勝当日のお弁当、駐車券をセット。メールの応募に限ったものだったが、予想以上の反響で、急ぎ招待者数を200名に増やすことになった。決勝当日はあいにくの雨だったが、当選した方ほとんど全員が来場。受付テントでは、GT選手権にZENTポルシェで参戦している土屋武士選手が、一人一人にお弁当を手渡すというサプライズ。おおいに盛り上がった。
土曜日のフリー走行はドライ
開催日程の変更があり、昨年同様に1dayイベントとなったスーパー耐久(以下、S耐)第1戦。震災で受けた被害箇所は補修され、走行には全く支障のない開幕戦となった。5月28日(土)は占有走行と公式車検。S耐のコース占有時間は9時、11時、13時30分から1時間ずつの3セッション。金曜日から降っていた雨も上がって、路面はセミウエット。徐々に乾きはじめ、走行ライン上はほぼドライ。いいタイムが期待された。
S耐は今年から新設されたST-X(FIA GT3公認車両)クラスを含め全6クラスが混走する。Faust.RTが参戦するST-1クラスは初戦4台の参加となった。全車BMW Z4M COUPEで、昨年のチャンピオンチームPETRONASのZ4Mが#1と#28。そしてそのPETRONASからZ4Mを購入したFaust.RTの#9、JIMGAINERの#11。順当にいけば、ST-XクラスのAUDI R8を含めた5台が総合上位を争うと考えられた。
9時から行われた最初のセッションが始まって、誰もがAUDI R8のスピードに度肝を抜かれた。アタックに入ってすぐに1分26秒台を掲示、Z4M勢より2秒近く早い。最終的には23秒台まで叩きだすのだから、その速さは並ではない。
ST-Xクラスには、FIA GT3ヨーロッパ選手権同様、プラチナドライバー制度が導入されている。プラチナドライバーと認定されたプロドライバーは、参加車両1台に対し、1名のみの登録に限られ、更に決勝レースでの走行距離(時間)が、当初の決勝レース距離(時間)の三分の一を超えて乗車する事が許されない。トッププロドライバー同士で参加することが制限されているのだ。
他クラスにそのような制限はなく、PETRONASの2台が生粋のプロドライバーのチームで、Faust.RTはドライバー全員が他に仕事を持つアマチュアドライバーのチーム。JIMGAINERのZ4M#11はやはりアマチュアドライバー(とはいっても経験豊富)。プロの集うPETRONASはスピード上位のR8を負かす心積もりだし、アマ達はプロドライバーの一角をくずしたい。それが今年のS耐を走る上位陣の争いだ。
ドライ・セッティングは順調
昨年に引き続きFaust.RTのマシンのセッティング出しとドライバーコーチを務めるのは、ブレーキメーカーであるプロジェクト・ミューの開発を務める山野。昨年からチームに帯同し、ドライバー達に的確な走りのアドバイスを行ってくれる頼りになる存在だ。
その山野とメンテナンスを務めるBBRの出したセッティングが正しい方向を向いているのか、最初フリー走行で貴重な機会を得ることができた。Z4Mをドライブし3年連続チャンピオンになった谷口信輝がマシンチェックに来てくれたのだ。
路面状況のいい中、フレッシュタイヤを履かせてコースに送り出す。アタックは2周の予定だったが、クリアラップが取れなかったらしく無線でプラス1周のオーダー。その1周は1分28秒114と、PETRONASのZ4Mとほぼ同等のタイムとなった。
谷口は「直線は少し遅いかもしれないけど、ブレーキはいい。燃料が入ってるから、最終コーナーで下を擦るけど、軽くなる決勝を考えればいいセッティング」と仕上がりの良さを認める。
マシンの性能が他3台と五分とすれば。あとはドライバーの勝負。シェイクダウンの時に、総監督の見崎が言っていたように、言い訳のきかない状況に追い込まれたことにもなる。
残りのセッションはセッティング調整しながら、ドライバー3名と山野が交互にドライブ。SUGOが初めての佐藤は「大事にいくよ」と1分31秒台だったが、堀、岡本ともに30秒台を出す。まだまだ手探りだが、古タイヤでプロドライバーの2秒落ちなら、悪くない。
今回からサポートメンバーに加わった、元気な女性スタッフが、降りてきた岡本に声をかける。
「#28止まっていたでしょ、1台止まれば3位ですね」
朝の占有走行で駆動系のトラブルが出て、1台のZ4Mが止まっていたのだ。
岡本は「全部元気で3位にならないと意味ないんだよ」と返す。
最初からクラス4位と決めて、白旗を揚げるわけにはいかない。
翌日曜日の天気予報は、予選の行われる午前中が曇りで、決勝は雨予報だ。雨の日のST-2クラスの四駆勢の速さは嫌というほど知っている。アップダウンのあるタイトなコース、雨中の戦いは、厳しいものになるだろう。
パワーを持て余す雨の予選
5月29日(日曜日)。季節はずれの台風2号が前線を刺激し雨。ここSUGOは、まだ小雨だが、場所によっては激しい風雨が襲っているようだ。1dayレースなので予選は9時からと早い。予選順位は今まで同様、Aドライバー+Bドライバーの合計タイムで争う。今回はAドライバーに堀、Bドライバーに岡本、SUGO初レースとなる佐藤はCドライバーという布陣で臨む。
レースはWET宣言が出され、全車ライトオン。もちろんレインタイヤだ。まずAドライバーの堀がコースイン。タイムアタックに入るが、1分48秒台がベストラップでそれ以上は伸びない。PETORNASから6~7秒落ちのタイムだ。
「ポルシェの方がまだ速く走れる、怖くて踏めない」
Bドライバーの岡本も同じく48秒台、
「コーナーの立ち上がりで、まったくアクセルが踏めない」
すべりやすい路面にあり余るパワー、氷の上を走っているようなもの。アクセルを開ければリアが滑り出し、カウンターを当てねばならない。どう工夫してラインを取っても、短いアタックの中では答えは見つからない。SUGOは雨になると他のサーキットに比べグリップのレベルが低く、そのことも追い打ちをかける。初めてのマシンで、しかも経験のないハイテク装備のレーシングカー。リスクマージンをどこまで取っていいかわからない。
二人のタイムを足した予選順位は18位。ランエボやインプレッサの四駆ターボ勢ばかりか、インテグラやシビックのFF勢にも後塵を拝した。
堀は「レースを始めた頃のポジションに逆戻りだな」自嘲気味に笑った。
4年前、最初にS耐に参加した雨の鈴鹿が予選19位。そこから積み重ねた経験が本戦でどう生かせるか、腕の見せ所だ。
決勝も果てしない雨との戦い
レースクイーン達が主役となるピットウォーク。雨の中、多くの観客がピットレーンを歩く。その裏では、車載ビデオをPCで見ながら、コーチ役の山野が懸命にアドバイスする。コースで答えを出すのはドライバー本人。レース中に対応できるよう、話し合いは熱を帯びる。接地感のないタイヤ、微妙なアクセルワーク、ライン取り、ブレーキのかけ方、すべてが今までと違うのだ。
ピットウォークが終わり、いよいよコースイン、決勝のグリッドに付く。雨は相変わらずで、強くなりこそしないものの、やむ気配もなし。路面はウエットでレインタイヤを装着。参加車両はゼッケンに復興支援ステッカーを貼り、スタートを待つ。
エンジンに火が入り、シグナルグリーン。マーシャルカー先導のまま1周、そのまま停止せずにスタートするローリングスタート。S耐ではおなじみの光景だが、ピット側から見ると先頭車両から2~3台は見えても、後続は水煙の中、爆音だけが聞こえる。
1周目17番手で戻って来た堀、2ポジションアップだ。ところがコース上ではタイトコーナーの立ち上がりカウンターを当てまくっている。タイムも最初の10数周は伸びずに1分50秒台。それでもスティント中盤からしだいにタイムを上げ始め、17周目には45秒台を出す。順位はこの時点で15位。その後も45秒台を連発し、11位までポジションを上げ、35周目にドライバー交代と給油のためにピットに戻ってきた。
SUGOでは、給油とドライバー交代で、およそ1周分のタイムがかかる。岡本がコースに戻った時点で23位。路面状態は少し回復したもののコース上にはオイルがところどころ出ている。ラップは45秒台を出す時もあれば、時折ドカンとタイムが悪くなる。無線によるとコースを飛び出しダート走行しているようだ。フリー走行の時から、ダート走行の多い岡本だったが、ピット内をヒヤリとさせ、そしてホッとさせる。
スタート後1時間30分、徐々にコースを霧が覆いだす。49周目には15位まで順位を戻したが、52周目、ついにセーフティーカーがコースイン、2周ほど追い越し禁止、頭を押さえての周回となった。
ここでトップチームは一斉にドライバー交代。Faust.RTはチェンジなし。まだ半分スティントが残っているからだ。勝負がかりなら交代も考えられるが、またいつセーフティーカーが入るかわからないような状況。決められた周回をこなすことになった。
66周目、予定周回を終えた岡本が戻ってくる。タイヤ交換せずにドライバーを佐藤にチェンジ、最後を任せた。残り約1時間で16位からの追い上げだ。
エピローグ
3時間耐久レースの残り40分。佐藤が10数周したところで雨脚が突然強くなり、スピン、コースアウトする車が続出、濃霧と雨のため再びセーフティーカーが導入された。そのまま20分間、セーフティーカー先導でラップを重ね、残り20分を残して赤旗中断、そのまま終了した。最終順位は総合12位となった。
レース後、今回のレースの感想を聞いた。
堀「最初の10周はまったくの空回り、間違えたことをやっていたのに気づくのが遅かった」
岡本「雨レベルは確実に上がったね、ひのきの棒が銅のつるぎぐらいにね(注:ドラクエ)」
佐藤「コントロールが難しい。レースはすぐに終わったし、不完全燃焼です」
雨とオイルでの難しいコースコンディションの中、予選18位→決勝12位。昨年後半の勢いある戦いからすれば満足できない結果かもしれない。ところが実は、予選が不調の時、決勝で大きく順位を上げたというのは今回が初めてなのだ。過去3年を振り返れば、決勝結果が予選を上回ったのは2回、それも19位→17位と12位→10位。だから今回は相当に粘った上での完走だ。
「踏めない」と言いながら、ドライバーズシートの中で全神経を集中、マシンをコントロールし続けた結果だ。その経験は確実に生きるだろう。
堀「次の富士は大丈夫!」
次戦はホームグランドと言えるFISCO。
雨でも結果を残した場所、ドライならさらに期待は膨らむ。
SUGO INTERNATIONAL RACINGCOURSE
2011.05.29/Course Length:3.704256Km
Weather:Rain/Course:Wet
Faust Racing BMW Z4M COUPE
Driver:堀 主知ロバート/岡本 武之/佐藤 茂
2h39'18.210 82LAP
総合12位/ST1クラス4位
Text:Yuji Takahashi
Photos:Hiroshi Kodaira
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