Vol.19
2012シーズン初戦を3位表彰台で飾る!
スーパー耐久2012シーズン開幕戦となる「SUPER TEC」が富士スピードウェイで開催された。テストデイから好調を維持するファウスト・レーシングチームは、レース中、幾度もマシントラブルに見舞われたものの完走を果たし、クラス3位で表彰台に上がった。その模様をレポートする。
1-2日目―公式練習
フルタイム走り込んだフリー走行
全6戦で争う2012スーパー耐久シリーズ、参戦5年目の初戦の舞台は国内屈指の高速サーキット「富士スピードウェイ」。スーパー耐久の歴史において、富士が初戦となるのは今回が初めて。夏の耐久に比べれば気温も低く、エンジンにとっての条件が良いため、例年以上のハイスピードバトルが期待される一戦となった。
今年のスーパー耐久は全6クラス。Faust Racing Team(以下Faust RT)が競うST-1クラスは、昨年までのトップチーム「ペトロナス」がGT3クラスに移行したため、シリーズの年間優勝も視野に入れた戦いとなる。レース2週間前に行われたテストデイでは、マシンの仕上がり状態も良く、ドライバー達の感触も上々だった。
レースは日曜に予選、決勝が行われる1デイレース。2デイレースに比べれば、日曜のタイムテーブルはきつくなるが、金曜・土曜の3本の公式練習が、時間に余裕のあるスケジュールとなる。アマチュアドライバーが集うFaust RTにとっては、スキルアップに繋がるドライバー同士のコミュニケーション時間がたっぷり取れるのはありがたい。
その公式練習、金曜午後の1本目は雨で路面はフルウェット。土曜日午前中の2本目はウェットからセミウェット、午後の3本目はセミウェットからドライへと変わるコンディション。予選・決勝のある日曜日の予報が「晴れ」のため、1本目、2本目のウェット走行を手控えるチームがある中、Faust RTのドライバーは、走行時間は無駄にできないと、フルタイムで走りこみを行った。
その土曜午後の最終3本目の練習走行。翌日予想されるドライコンディションを見据えれば、最も大事なセッションとなる。1時間の走行枠、まず最初に乗った佐藤が、まだ小雨がポツポツと落ちる中、1分51秒台のタイム。雨がやみ路面が完全ドライ方向へと変わる途中、続く岡本が1分50秒台、最後の堀も49秒台へとタイムを上げていった。
ところが、走行を終えて帰ってきたドライバーからは、2週間前のテストデイに比べストレートが伸びないという指摘。コーナーでもギア選択に迷うほど感触が違うようだ。タイムもテストデイほど出ていない。翌日の予選・決勝に向けたミーティングの中で、車高を落とすなどして調整が行われることとなった。
レース当日―予選
走りこみ成果の出た予選アタック
3月25日、日曜。天気予報通りの晴天。進行の詰まった1デイレースのため、予選は8時40分からと朝早い。富士スピードウェイ周辺の畑では霜が降りるほどの寒さだ。外気温は5℃、路面温度1℃(8時)と身体も凍える。メカニックはマシンのラジエターにガムテープを貼り、予選アタックに備える。
スーパー耐久の予選は3人のドライバー(A/B/C)のうち、Aドライバー+Bドライバーの合計タイムで競われる。今予選ではAドライバー堀、Bドライバー岡本、Cドライバー佐藤の布陣となった。
AドライバーとBドライバーの予選は各15分。計測は最大でも6~7周となる。トップバッターの堀はアタック1周目に1分51秒台、2~4周目に1分48秒台とタイムを上げる。練習走行で懸念されていた「高速域が伸びない」点は解決され、ストレートでもリミッターにあたっている。5周目には1分47秒471の自己ベストをマーク。テストデイの速さが「一発」ではないことを証明した。
昨年の予選で、同じマシン/BMW Z4 Coupeを使う、ペトロナスチームのプロドライバーの最高タイムが1分47秒237であったことを考えれば、気象条件、路面条件、マシンの性能(リアタイヤのサイズアップ)の差があったとしても、胸を張れるものだ。
ピットに戻ってきた堀は、ドライバーコーチである山野の頬にキス。設定タイムをクリアした場合の謝礼を、昨晩、約束したからだ。男同士の戯言にピット内は爆笑する。
Bドライバーの岡本も2周目で1分49秒台を出し、3~4周目で1分48秒台とスムーズにタイムアップし自己ベスト。5周目には1分47秒855と、さらにベストを更新。昨年、ここ富士でコースアウトして以来、スランプとも言える不振に陥っていた岡本はこれで立ち直った。予選後、本人も「もう富士に対するトラウマはない」と復活宣言。「堀さんから1秒以内」と、自ら設けたハードルもクリアした。
Cドライバー予選は基準タイムをクリアすればよいので、通常は全力アタックは行わない。佐藤はアウトラップと計測1周目のタイムアップを課題として臨んだ。これは今までの本番レースで序盤のペースが思うように上がらなかったことの対策だ。結果、計測1周目に1分50秒台をマーク(3人の中で最速)。課題を見事にクリアしてみせた。ベストラップも全クラス混走でクリアラップの取りにくい中、1分48秒台の自己ベストを出して見せた。
決勝のスタート順位を決めるAドライバー+Bドライバーの予選合計タイムは、クラス2位のフェアレディZにわずか0.1秒及ばなかったが、勝つにせよ、負けるにせよ、緊張感のある決勝レースになることが判明した予選結果となった。
チーム監督の志村は、
「みんな早くなったね。今シーズンは戦えるね」と3人のドライバーの走りに感想をもらした。5年目のシーズンといっても、一番レース数の多い堀ですらスーパー耐久17戦目、まだ数えられるほどのレース数なのだ。
レース当日―決勝
序盤で緊急ピットイン
快晴の決勝。ドライバー順はスタートが佐藤、2 ndが岡本、最後は堀となった。ここのところスタートドライバーを任されることが多い佐藤は、ソツなくスタートをきめ、予選ポジションをキープ、総合5番手の位置を守る。
佐藤はペースの上がらないクラス上位の#25ポルシェを抜こうとするが、コーナーで追いついて、直線で離されるの繰り返し。頭を抑えられため自身のペースも上がらない。その間隙をつかれ、後続のST-2クラスのマシン2台に前に入られてしまった。スティント中盤まで、その4台が2~3秒差にひしめく大混戦となった。
レースは4時間の長丁場、ラップタイムから換算すると周回数は120周後半。順調なら一人42~43周のスティントとなる。ところが、それにはるか及ばない28周目に緊急事態を告げる無線がドライバーの佐藤から入ってきた。水温異常を示すウォーニングランプが点灯したらしい。
緊急ピットイン。ピットの中にマシンが頭から滑り込んでくる。ということは手当ての必要なメカトラブル発生だ。水温は120℃、オーバーヒート。即座にマシンがリフトされ、ボンネットが開く。ここからはメカニックの出番だ。
オーバーヒートは冷却水のエアかみ(空気が入ること)のようだ。水をいったん抜いて入れ替える。ドライバーは岡本にチェンジ。マシンをピットレーンに戻し給油を行う。そして発進。
マシンを降りた佐藤にオーバーヒートの様子を聞くと、
「なんの前兆もなくいきなり警告ランプが付いたので、急いで戻った」とのこと。
自身のレースについては、
「前を走る#25ポルシェのペースが上がらないレース序盤、抜くチャンスでいかなきゃね。悔しい思いのまま走っていた」と反省しきり。
抜きたいという気持ちと、レース序盤でリスクは冒せないという気持ちとのせめぎ合い。経験値を上げるまでは、必要な悔しさというしかないだろう。
チーム一丸となった決勝レース
コースに出た岡本は、各部のチェックをしながら慎重な走りで周回を重ねる。エアかみの原因がハッキリとしたわけではないからだ。いつまたオーバーヒートになるかわからない。
マシンの調子を確認した岡本は徐々にペースを上げ、53周目には1分49秒台を出し、その後も50秒台ペースで走る。ラップにバラつきもなくマシンは無事のようだ。
その頃、他チームでもトラブルを抱え始めた。ST-1クラスのトップを走っていた#3のZ33(フェアレディZ)が、59周目にピットに入ったまま出てこない。あっという間に周回差が詰まる。
クラス2位まであと1周と迫ったFaust.RT岡本。その58周目、スタートから2時間経過したレース半ばで再びトラブルに見舞われた。水温は問題なかったがコンピューターのエラーによるノッキングが出たのだ。一昨年の富士の決勝中にポルシェで起きたものと同じ現象だ。ピットに戻りコンピューターをリセットしたが、原因不明の為この処置でトラブルが解消できる確証はない。冷却水を入れ替え、タイヤ交換と給油を行い、ここでドライバーも岡本から堀に交代する。
ピットは岡本に再度コースインを指示したが岡本自身の判断で堀にドライバーをチェンジ。岡本がそのまま乗ってマシンが壊れてしまえば、最終ドライバーの堀が決勝を走れなくなってしまうという考えがあってのことだ。アマチュアチームならではのドライバー同士の配慮である。
アタックを終えた岡本は、
「この状況下でドライバーに求められているのはマシンの状態を確認しながら乗ること、そして無理はしないこと。やるべきことはやったけど、無線が接触不良で、会話できないのがきつかった」。ピットからの無線が届かず、岡本→ピットへの一方的送信だったのだ。
度重なるトラブルで28位と順位を大きく落としたため、総合成績での表彰台は圏外。このレースの焦点は完走とクラス内での順位争いとなった。前を行く#3フェアレディZとは約1分差。逆転は十分に可能だ。荒れ始めた路面の中、堀はベスト49秒台、レースラップを50秒~51秒台でプッシュする。
ところが走りだしてすぐ、71周目でブレーキトラブルによるピットイン。フロントのブレーキパッド交換だ。メカニックは素早い交換でマシンをコースに戻す。
すると83周目には、2回目のオーバーヒート。その間隔が短くなっていることから、冷却系に深刻なトラブルを抱えているのは明らか。といっても早急にできることは冷却水の交換だけ。対処して再びコースへ送り出す。
「完走か?否か?」最後の30分
残り30分を切ったところで#9 Faust RTに対し、「黄線区間追い越し違反」のペナルティが課せられた。コースサイドに停車中の車両があり、その黄旗区間での違反。今シーズンから改訂された規定で、ルール適用が厳しくなったのだ。スピード上位のチームが、たて続けにペナルティを受けた。
終了16分前、あと数周でゴールという96周目。3度目のオーバーヒートでピットイン。場内放送では「#9から白煙」。完走危うしか!? とピット内が騒然とする。
スーパー耐久では、いかなる車両もチェッカーを受けなければ完走扱いにならない。しかも各クラス先頭車両の周回数の70%以上であることが必要条件。クラストップのゴール時点での周回数を計算すると、Faust RTは基準70%はクリア、後は再スタートしてチェッカーを受けるだけだ。
今やれることは冷却水を交換することだけ。そしてコースに飛び出す堀。ゴールまで繋ぐだけの抑えた走りで数周をこなすが、最後の周回となった101周目だけはフルアタックを敢行、1分49秒台に入れてチェッカーフラッグ、フィニッシュラインを切った。
ゆっくりと1周した後、マシンをコース上に置いた堀がピットに戻ってくる。メカニックとハイタッチ、そして握手。もちろん佐藤、岡本も。泣き出す女子にはハグで応え、カメラを抱えたゲストには記念撮影。歓喜の輪のセンターは最終ランナーの特権だが、最高の瞬間はチーム全員が共有できる。
4時間のタフな戦いが終わり、クラス3位で立つ表彰台も格別だ。昨年末、もてぎオーバル優勝の表彰台では、岡本が欠けていた上、堀は走っていなかった。今回は3人揃って走り、そして表彰台に上ることができた。高く掲げるトロフィーも誇らしげだ。
From Faust A.G. Channel on [YouTube]
表彰式が終わり堀は、
「シゲちゃん(佐藤)が入ってきた段階であかんなって思ったけど、よく辛抱してみんなで繋いだ。完走できて、ポイントも取れてよかった」と、素直な気持ちを話した。オーバーヒート=終わりでしょ…が一般的であって、そこからの信じられないがんばりに驚き、自らもその流れに乗ったのだ。
5年間ずっとレースを見てきた監督の志村はレース後、
「公開テスト、フリー走行、予選とトラブルなし。それでも決勝で問題が起きるのがレース。今回は決勝前に1レース分は走ったから、マシンへの負担があったんだろう。人間は我慢しても機械は我慢しないから。苦しいレースだったけど、メカニックはよく対応したし、ドライバーもがんばった。みんなあきらめなかったからハッピーになれた。次は決勝でいいレースをしよう!」と締めくくった。
出走42台中、完走はわずか27台。Faust RTはトラブルを抱えながらなんとか完走を果たした。ハードワークから得た経験が、もてぎロードコースで弾けるのか? 次戦が待ち遠しい。
スーパー耐久2012シーズン開幕戦
Fuji Speedway
2012.03.25/Course Length:4,563Km
Weather:Sunny/Course:Dry
Faust Racing BMW Z4M COUPE
Driver堀 主知ロバート/佐藤 茂/岡本 武之
4h01’43.894 101LAP
ST-1クラス3位
スーパー耐久シリーズ公式サイト
http://supertaikyu.com/
Text:Yuji Takahashi
Photos:Hiroshi Kodaira
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