Vol.24
最終戦オートポリス2位。チャンピオンの夢散る!
ランキング1位で最終戦を迎えたFaust Racing Team(以下Faust RT)。2012スーパー耐久第6戦/オートポリス(大分・日田)でのレースは、優勝チームがそのまま2012シーズンのチャンピオンになるという戦い。悪天候の中で行われた決勝は惜しくも2位、僅かながら賜杯には届かなかったが、その波乱のレース模様をレポートする。
シーズン最後の大一番
結成5年目のFaust RTは、シリーズ最終戦で優勝争いという、願ってもないような大一番を迎えることとなった。これまでの5戦で積み上げたポイントは87P。シリーズランキングではライバルの#3フェアレディZを0.5Pリードしている。最終戦では、予選獲得ポイント(1位に2P)にかかわらず、決勝で相手より先にゴールすればチャンピオン、後塵を拝すれば2位という2車による一騎打ちだ。
お互いの能力を出し合うスムーズなレース展開であれば、望むところ。ところが、最終戦はスーパー耐久の全6クラス中、5クラスのチャンピオンがかかっているため、荒れた展開になりセーフティカー(以下SC)が高い確率で入るレースとなった。そうなればピット作戦、ドライバー交代が重要になるのは明らかだ。
いままでのFaust RTのドライバー交代といえば基本一通りだった。例えば、ロードコースでドライバー3人、3時間レースの場合、1時間ずつ均等割というのがお約束。これは3人のアマチュアドライバーがお金を出しあってレースに参加していることと、ドライビング技術の向上が前提にあって、レースを楽しんできたからだ。これまではSCの入るタイミングによっては短いスティント、長いスティントになることはあったが、極端なピット作戦を取ることはなかった。
しかし、目の前にチャンピオンのかかったレースではそれはない。もともと「負けず嫌い」が集まるのがサーキットという場所。ドライバーがこのチャンスを見逃す理由はない。優勝2回という今シーズンの戦いを見れば、勝負権は十分に持っている。「勝ち」にこだわるという意志は早くからまとまっていた。
ピット作戦が重用なのは、今シーズン3戦目、菅生でのレースが象徴的だった。アクシデントのため1周目にSCが導入されたレースで、SCランの間にドライバー交代を行ったチームが各クラスの上位を占めた。一方のFaust RTはコース上にステイ。最終スティントで、ドライバーの千代が追撃するも、失ったタイム差は大きく、優勝に届かなかった。同じ徹は踏まないというのが今回のレースだ。
ライバルとなるのは#3のフェアレディZ。やはりここまでシーズン2勝を挙げている。ドライバーはGT300で逆転優勝を飾った峰尾恭輔をエースに、谷口行規、高木真一と総合力上位は明らか。しかし、前戦の鈴鹿で、堀が高木を数周に渡って押さえ込んだように、Faust RTドライバーのレベルアップも顕著。チャンスは十分にある。
難敵、オートポリス攻略
大分・日田にあるオートポリスはS耐のカレンダーに今年初めて加わったサーキット。阿蘇の外輪地域という自然地形を生かしたアップダウンの多いコースで、そこにコーナーが複雑に組み合わさる。中でも難しいのが、上り勾配+複合コーナーのある最終(第3)セクター。ドライバーの経験、腕が問われる箇所だ。雰囲気はWRC高速ターマック、ワインディングロードに近い。
今回のドライバーはレギュラーメンバーの堀、佐藤、岡本。オートポリスを走った経験があるのは佐藤だけだが、それも10年以上前に1度だけ。全員が初めてといっていい状況だ。鈴鹿から中2週と開催が近いこともあり、コースでの練習はなし。オートポリスに向けての緊急対策として、3人とも東京都内にあるレーシング・シミュレーターで練習した。プロレーサーも使う最新型の本格的なものだ。
ドライバーがコースでタイムを出し始めたのは木曜日から。Faust RTのマシンセッティングを担当する山野直也によると、「クルマはいい方向に仕上がっています。ここは難しいコースなので、タイムを詰めていくのは大変ですね。みんな必死で勉強しています」とのこと。今回、山野は同じスーパー耐久のGT3クラスのフェラーリに乗るため、Faust RTにつきっきりではない。
替わりにコーチ役を務めてくれるのがGT300ドライバーの千代勝正。レギュラードライバーの佐藤が欠けた菅生での第3戦、Faust RTのドライバーとしてBMW Z4を走らせている。ここオートポリスに向け前述のシミュレーター練習でもドライビングの指南をしてくれた。
予選のある土曜日に向けて、コースを走りこむドライバー。その中で際立った走りをしたのが佐藤。特に最終第3セクターのタイムが速く、ライバルチームのマシンと遜色ない時計を出している。このことについて佐藤は、「シミュレーターでイメージを作れたおかげで、オートポリスに入ってすぐにダメな箇所がわかってタイムを詰めていくことができた」と語る。若い時に走った六甲のワインディングに似ているという最終セクター、ラリーで鍛えた佐藤のツボにハマッたのだ。
一方、堀と岡本は、初めてのサーキットにてこずりタイムが伸びない。マシンを降りれば、走行時のデータチェックはもちろん、自分の走行ビデオやGT300のビデオを見ながら千代を囲んで勉強会だ。時折、テントに顔を出すペトロナスチームの谷口信輝からもZ4での攻略アドバイスをもらう。
週末に向け、明日からの天気は下り坂。日曜日は一雨来そうだ。
1日目―予選
予選は無理せずセカンドポジション
11月10日(土)、午前中のウォームアップ走行を終え午後2時からの予選。空をびっしりと雲が覆い肌寒い。気温は9℃、路面温度は13℃。路面はドライ、タイヤはスリックだ。
予選アタックは堀から。計測1周目の第3セクターにかかるところで大粒の雨が降ってきた。2周目に入ったところで赤旗中断。雨は一時的なもので、ピットからは「残り9分で再開予定です。あせらなくてOK」の無線。計測2~3周は可能なはず。
再開後の、計測1周目は1分59秒441、アタックに入った2周目が1分58秒617の自己ベスト。難しいとされる第3セクターのタイムが伸びない。#3の峰尾から3秒落ちだが、そのうち2秒を第3セクターで失っていた。
予選後の堀は、
「ベストラップの周はオイルフラッグとホワイトフラッグ(スローダウン車両)が出ていた上、シフトミス。それでも相手は速すぎ。プロは凄いね」
シフトミスでのタイムロスを考えれば、前日より状態は上がっているようだ。アタック時間の少なかった予選として、割り切るしかない結果だ。
14時55分、Bドライバー予選が始まる。ドライバーは佐藤で、計測3周目に1分57秒771を出す。#3の谷口行規から約1秒落ち。最終セクターを好タイムでまとめ、千代から「いいアタックでした」の声がかかる。
予選を終えた佐藤、
「前後タイヤの暖め方が難しいですね、そこを上手くできたら56秒台でした」
予選はニュータイヤ。タイムを出すには、アタック周にタイヤを性能のフルに発揮できる状態にバランス良くもっていかなければならない。今回は前後の暖め方のバランスが悪かったようだ。考えられるケースはいろいろあるのだが、これは経験でつかみとっていくしかない。
Aドライバー+Bドライバーの合計タイムで競う予選の結果は、#3に及ばずセカンドポジション。初コースで無理する必要はないので、ここは納得の位置。決勝が勝負になる。
続いて、基準タイムをクリアすればよいCドライバー予選。全6クラス混走のため予選時間は長く、時間的には10ラップできる予選。ところが、コースに出た岡本が計測3LAPに入ったところで黄旗、続けて赤旗が出る。予選再開後も、岡本はコースには出ずにそのまま終了。
マシンを降りてきた岡本、
「レコードラインでオイルが出てたので予選はやめました。明日の予報は雨だし、ドライの状態で走っても決勝の参考にならないんで」
予選を終えたFaust RT。明日の雨予報を受け、ミーティングを始める。SCへの対応、燃費、タイヤ、ドライブ順などシミュレートすべき点は多い。ドライバー3名に千代、志村監督、メカニックが入り、話は2時間以上続く。Faust RTの5年の活動の中で、「勝ち」にこだわっての突き詰めた話をするのは、今レースが初めてのことだ。
決勝レースに向けてのコメント
岡本「僕自身は雨だと辛い。ドライでも同じ土俵に上がれてないのに、このコースでの雨は経験ないんでね。ただ、決勝は展開によって、もしかしたらという気持ちはあります」
堀「決勝はSCが入る展開になるから、走りきってゴールすればチャンスはある。無理して自爆でレースを終えたくないですね」
佐藤「ここまできたからには、全員の力を合わせて最高の結果を出したいですね。チームワークは最高ですよ」
2日目―決勝
決勝レースが2時間に短縮!
11月11日(日)、9時40分から予定されていた決勝前のフリー走行だったが、ホームストレート上は1コーナーも最終コーナーも濃霧で見えない状況。10分の延期がアナウンスされたものの、全く天候の回復気配がなく、フリー走行は決勝レース直前にシフトされた。このため午前中はテントでのミーティングに。
問題となるのは天候だ。雨でレインタイヤの確率が高いが、レース中盤以降はドライの可能性も残すという変わりやすい天気状況。現時点で大分県で雨が降っているのはオートポリスのある日田周辺だけ。雨雲は西から次々と出現するようなパターン。予報は午後からの回復を示唆しているが、山の天気だけに当てにできない。
当然シミュレートするパターンも多くなる。タイヤ交換は? 燃費は? SCへの対応は? ピットタイミングは? 相手チームの動きは? すべてが複雑にからみあう。相手より上の順位ならチャンピオン、下なら2位。その差は天地ほど違う。「がんばったね」では終わりたくないのだ。
ピット裏のテント内、張りつめた空気の中、ミーティングは進む。結論はSCスタートなら1周目にドライバー交代。その後は幾通りかのシミュレーションに従って、ピット側の千代から無線で判断をドライバーに伝えるという作戦に。ドライバー順は、ドライバー3名の話し合いで決められ、順番は堀、佐藤、岡本となった。
12時20分。10分間のウォームアップ走行は改訂スケジュールどおりに行われた。ところが、そこから霧が急激に立ち込め、12時50分にはかなりの量の雨に。これにより、13時10分からの決勝スタートは見送りとなり、スタートが14時30分に変更、レース時間も3時間から2時間への短縮となった。オフィシャルによる公式通知では、スタートはSC先導によるSCランが2周以上。一人の最大ドライブ時間は80分となっていた。そのため、午前中のシミュレーションは破棄せねばならず、急遽、再度のミーティングが必要となった。
SCスタートによるピット作戦の確認と、レース途中で予想されるSCのタイミング、相手チームの動向を想定して作戦が再度練られる。天候は回復が望めず、最悪の場合はレース途中で赤旗終了の可能性もある。ドライバー順に変更はなく、タイヤはWET、タイヤ交換は基本なし。ドライバー交代のパターンが幾通りか書き出され、ピット壁に貼られた。
霧の中での決勝はセーフティーカースタート
14時30分。霧の中での決勝スタート。SCスタートは追い越し禁止だがフォーメーションラップと違い、グリーンライトが点灯した時点でレース開始(時計が動く)となるため、1周目からのドライバー交代が可能だ。
SCリードのもと隊列を組んだまま最低2周以上のSCランが行われる。その1周目の最終コーナー、コントロールタワーに戻ってくる途中、堀がドライブする#9 Faust RTのBMW Z4が動いた。ピットロードに戻ってくるマシン。目の前を走る#3はコース上にステイだ。
ピットではドライバーが佐藤に交代。続々とピットに入るマシンが横をすり抜けていく。菅生戦同様動くチームが多い。ここで隣のピットとマシンが被ってしまった。佐藤が出ようとしたところに、ちょうど前方ピットのマシンが入ってきたのだ。数十秒ほどロスしたものの失ったものはわずか、#3に対してアドバンテージを築けたことの方が大きい。その理由は、例えば次の周で前を走る#3がドライバー交代しても、SCランの間はピット出口で隊列が過ぎるまでストップがかかるので、Faust RTが前位置となる。交代義務を先に果たしたFaust RTが展開面では優位となったのだ。
ピットを後にし本コースに出て集団に追いついた#9佐藤。前方の#3峰尾との間にいる車両は13台でタイムギャップは23秒。#3は2周目に入ってもピットインせずに周回を続ける。ここでのドライバー交代は意味がない。エースの峰尾がのっているだけに、レース再開後にタイム差を広げる選択をしたのだろう。
マシンを降りてきた堀に対し、千代が一言。
「うち主導のレースになってます」。堀もうなずく。自分の周回はSCランの1周だけだが、自ら望んでの志願。後はバトンを渡した仲間に託すだけだ。
SCランのままスタートから10分経過、霧は残るものの一瞬日射しが覗く空に、強い風がでて視界が開けてきた。20分が経過し6周目、ピットインする車両もあり、#3との間に挟む車両は12台に、タイムギャップは19秒。そして7周目、いよいよSCがピットロードに入る。バトル開始だ。8周目、 #3峰尾とのタイム差は14秒へと一気に詰まる。佐藤はウエット路面の中で2分10秒台というハイラップだ。11周目にはさらに10秒差へと詰まる。佐藤にとってコース、路面状況、マシンコンディションのすべてがプラスしたと言っても、相手はGTドライバー、これは#3チームにとっても想定外に違いない。
明暗を分けたピットイン
ところが13周目、再び激しい雨が降り出し、コースは黄旗、追い越し禁止に。SCが再び入る。残りは1時間15分、ワンドライバーで走りきってもよい時間帯へと突入した。14周目、#3はピットインでドライバー交代。Faust RTの作戦では「相手が入ったら即入る」だったのだが、ドライバーに余計な負担をかけないため、その指示はピットからの無線指示となっていた。ここで致命的な1周ロスが生まれた。ピットから無線で指示を出した時は、#9 BMW Z4はストレートを駆け抜けていたのだ。
これにより絶対的優位なポジションを吐き出してしまったものの、1回ずつのドライバー交代を終え、#9 Faust RTが前方にいる以上、まだ優位。#3のドライバー谷口行規はピットを出て本コース上で隊列の後ろにつく。15周目、#9 Faust RTはドライバーを岡本に交代のためピットイン。続けてビハインドの#3チームもピットロードに入ってきた。#3は連続ピットインし、2ndドライバーを1周のみでチェンジしたのだ。これには驚かされた。
ピットでは岡本が運転席に入り、クルーは給油作業に集中する。今回は斜め駐車で隣のチームが入ってきても出やすいはず。給油とドライバー交代で1分40秒。ピットクルーがマシンをいったん後ろに押し下げ、発進する。
ここで逆転が起こった。クラス違いのマシンが数多くピットに入るSC間のドライバーチェンジでは、ピット出口に近い方がスムーズに進入できる分、有利なのだ。ピット入口に近い場合はどうしても混雑したピットロードを出て行かなければいけない。本コース上に戻ると位置関係がハッキリした。1台挟んで#3が前にいる。雨は強いままだ。このままSCランが続き赤旗中止となれば負けとなる。レース再開を願って岡本の走りに賭けるしかない。相手は#3高木真一、キツイ状況だが、雨中のレースでは何が起こるかはわからない。
千代が無線で岡本に伝える。「佐藤さんのレースペースは#3より速かったんでマシンはいい状態です。落ち着いて走ってください」。SC先導のまま時間だけが過ぎていく。18…19…20周。強い風で霧が散っていく。山の天候は気まぐれだ。
21周目、SCがピットロードに入りレース再スタート。#3とのギャップはわずか3秒。22周目ラップは#3高木が2分15秒、#9岡本は2分20秒。23周目ラップは#3が2分12秒、#9は2分16秒。その差は開くが、岡本もタイムを上げ始めたところ。残り37分ある。
ところが、走り出してたった2周、これからという時に、無情にも再び強い雨がコースを襲う。イエローフラッグで追い越し禁止。嵐のような土砂降りの中、3度目のSCカー先導……。
そして赤旗が振られレースは終わった。
From Faust A.G. Channel on [YouTube]
レース後のコメント
岡本「目の前にいたのに抜けなかった。最終セクターでは見る見る離されてしまって残念」
佐藤「マシンは良かったですよ、路面ウエットなのに信じられないくらいタイヤがグリップしてました、勝てたレースでしたね、不完全燃焼。もっとレースしたかった」
堀「勝利への気持ちがあと一歩足りなかった。本当に悔しい」
ピットから指示を出していた千代は敗因を整理した。
「2度目のSCランの時は、SCが入った時点でこちらもピットインの指示を出すべきでした。相手は必ずドライバー交代するから、動きを見る必要はありませんでした」
ピット位置や、隣チームとの兼ね合いは、運も左右すること。1周目のドライバー交代で得たアドバンテージを逸したのは、わずかな作戦面のツメの甘さ。堀の言う「一歩足りなかった」点だったのかもしれない。今まで、ピット作戦で「勝ち」にいくレースをしてこなかったFaust RT。このレースでは「勝ち」にこだわり、最終判断をドライバー同士の話し合いで決め、回りがそれをサポートした。チームワークという面ではさらに結束できたし、新たな戦い方もできた。プロチームの凄さ、したたかさを改めて思い知った一戦でもある。
ジェントルマンチームに足りないものは何か? それをどう埋めるのか? 来年はクラス再編成が予定されているスーパー耐久。Faust RT の2013シーズンはいかに?
Autopolis International Racing Course
2012.11.11/Course Length:4.674Km
Weather:Rain/Course:Wet
Faust Racing BMW Z4M COUPE
Driver堀 主知ロバート/佐藤 茂/岡本 武之
ST-1クラス 2位
1:24’33.293 24LAP
スーパー耐久2012シリーズ
ST-1クラス/ランキング2位
Text:Yuji Takahashi
Photos:Hiroshi Kodaira
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