Vol.10
雨と霧のFISCO4時間耐久
連続の総合シングル、7位をGET!
2010スーパー耐久シリーズ第4戦、SUPER TEC。ハイスピードコースFISCOが舞台となる4時間耐久レース。鈴鹿で初の総合シングル、6位を獲得したファウスト・レーシング・チーム(以下Faust.RT)は、その勢いのままレースに臨む。昨年は土砂降りの雨の中で、スピンするマシンが続出する中で完走、総合10位という結果を残したが、今年はどんなドラマが待っているのか?
GT-Rの登場で華やぐFISCO
Faust.RTがポルシェ911で参戦するスーパー耐久(略してS耐)は、今から20年前「N1耐久」としてスタートしたもの。当時は参加車両もノーマルに限りなく近かったが、幾度かレギュレーションが大きく変更され、改造範囲が広がり、スリックタイヤやエアロパーツの装着などが認められて、現在のS耐となっている。
最近10年のシリーズチャンピオンマシンを振り返っても、トップカテゴリーのクラスでは、2003シーズンまでが日産GT-R、2006シーズンまではポルシェ911、2007年は日産フェアレディZ、2008年、2009年はBMW Z4と目まぐるしく変わっている。そして、この富士のS耐からGT-Rが7年間の沈黙を破ってサーキットに帰ってきたのだ。サーキットの様子もいつになく賑やか。詰め掛けるマスコミも多く、スタート前から華やいだ開催となった。
Faust.RTが使用するマシンはポルシェ991GT3-JGN。9年落ちモデルだけに、戦闘力では最新モデル達にかなうべくもないが、チャンピオンマシンとして一世を風靡したモデル。ハイスピードコースである富士でドライコンディションなら、クラス下のマシンに対するアドバンテージはある。参戦するドライバーは、堀主知ロバートと、今年3戦目となる岡本武之。加えて、初年度からFaust.RTのレースに参加している佐藤茂の3名。佐藤は今年初めてのレースだが、キッチリと練習をして万全の様子だ。
予選前日の金曜日。ドライコンディションの練習走行では、その佐藤が1分50秒147のタイムを叩き出した。他チームが昨年予選のタイムと、ほぼ同等のタイムを出している中では、出色。佐藤は昨年の予選タイム比で、およそ2秒詰めたことになる。
チームリーダーの志村芳一は「クルマは鈴鹿と同じぐらいの状態を保っている。一昨年のことを考えれば、みんな上手くなったから、いいところまでいくんじゃない」と、練習走行を見て余裕の構えだ。
今回の富士から、導入されたインカー・ビデオもチーム力アップに大きな力になっているようだ。モータースポーツ専用のデータロガー(エンジン回転数やスピード、アクセル開度などをパソコン上に表示)と合わせることで、自分の走りを検討、他ドライバーとの比較ができるのだ。ドライバー達はピットに戻ってくると、パソコンの前に集合し、データと画像から目を離さない。
「言い訳のできないデータが出るしライン取りも見られるから、参考になる」と佐藤。予選、決勝に向けていい材料が増えた。
難しいウェットコンディションの
予選を5位で通過。
6月26日の予選。朝から降り続いた雨は、予選に入る直前に雨足を弱めて、いったん止んだものの、1stドライバーの堀がコースインする頃に、また降り始めた。タイヤは当然、溝の付いたレインだ。
予選開始の5分前、ピット内でAドライバーの堀はシートの中で、静かにスタートを待つ。総監督の見崎はマシンの横でメカと談笑、オフィシャルはピット内を監視するでもなく、ただ、数分後のアタックを待つだけ。時間がゆっくりと過ぎる。
1分前、ピット前にメカがクルマを押し出す、同時にエンジンオン。サーキットの沈黙が破られる。堀の乗るポルシェは、ピットの出口に向かい、そこでコースインまでの数10秒を待つ。他チームのマシンも次々と爆音を上げながらピットロードを走りぬけていく。
計測ラップの1周目と2周目、堀のタイムは2分3秒台。3周目と4周目には2秒台となり、5周目にはベストラップとなる2分1秒193を出す。堂々の予選4位タイムで、雨に強いST-2クラスのランエボやランサー勢を押さえた。
予選Bドライバーを努めるのは岡本。雨はほとんど止んだが、コース上は別物。堀のタイムアタック時よりは路面の水は若干少ないだろうが、難しいコンディションであることに変わりはない。タイヤ選択は他チームも全車ウェット、Faust.RTもレインタイヤだ。1周目は2分5秒台、2~4周目は3秒台、そして5周目にはベストラップとなる2分1秒台を記録。Aドライバー+Bドライバー2人の合計タイムにより、予選5番手を獲得した。
予選走行3組目は佐藤。雨も止みタイムアタック時には、路面はレコードラインだけが半乾きというリスキーな状態だ。チームは迷った結果ドライ用スリックタイヤを選択、8周目に1分57秒台を出す。タイヤ選択は正しかったようだ。ここで、日産GT-R/星野一樹が、やはりスリックタイヤを使い、シリーズチャンピオンを狙うBMW勢を3秒以上も引き離す48秒台を記録。その潜在能力を明らかにし、観客のドギモを抜いた。
予選は完全ウェットの状態からセミ・ウェットへと、刻々と変化する難しい状況。各ドライバーは前半慎重に攻めながら、後半タイムを出していくという、チームとしては完璧なトライで、2戦連続で絶好のポジションを獲得することとなった。
雨と霧の決勝、快走するFaust.RT
決勝のレースプランは4時間を佐藤が80分、堀が80分、岡本が残り約80分と3分割。ドライバーが資金を出し合っているアマチュア・チームならではの配分。「全員がレースを楽しむ」-これがFaust.RTだ。
1stドライバーとなった佐藤は「何が起こるかわからないね」と笑いながらシートに身を沈める。「3分前~」の声がかかり、ピット内には「がんばってください~」の声援が応援団からとぶ。今日はFaust会員のためのAudi体験走行がサーキットで開催され、ゲストの数も普段より多い。
12時25分コースイン。決勝のスタートまでは約30分。スターティンググリッドに付いても雨は相変わらず降り続き、スタートが近づくにつれ霧も出てきたため、結局、セーフティーカーが先導する、セーフティーカー(SC)スタートとなった。
全車ライトオンでのフォーメーションラップ。霧はますますひどくなりストレートを覆う。マシン達は右へ左へと蛇行しながらタイヤに熱を入れている。各コーナーのポストではイエローフラッグが振られ、まずは1周。
最終コーナーを立ち上がり、ストレートに戻ってきても、そのままセーフティーカーが先頭。フォーメーションラップは2周目へと入る。ウェットコンディションではタイヤを暖めるのにも時間がかかる。
そして3周目、セーフティーカーがピットロードに入り、スタート。立ち上る水しぶきで直線は見通しが利かない。排気音だけがその水しぶきの後から聞こえてくる。
気まぐれな天気は、スタート後も変わらない。雨がいったん止んだため、ドライタイヤへチェンジするチームも出てきた。予選5番手のST-2クラスのランエボが3位に上がるなど、波乱は続く。ところが雨が止んでから数周も経たないうちに、再び雨足が強くなり、さらに深い霧がコース上を覆い出した。霧はストレート上だけのようだが、これがひどくなれば、レースが行える状況ではない。
スタート後数週で、車重が軽いST-2クラスの四駆勢、ランエボとインプレッサが上位に進出し始めた。佐藤はその中、10位のポジションをキープするも、しだいに順位を落とし始め10周目には14位に。佐藤は無線でマシンの不調を訴える。「2、3速の加速時にガス欠のような状態になる」
タイムも2分7秒~10秒台と上がらない。スピードを生かせない完全なウェットコンディションの場合、上位進出も可能だが、下のクラスから食われる可能性もまた大きい。それよりも4時間の耐久というレースの中、バトンを繋ぐことがまず優先される。慎重にアタックを続ける佐藤だったが、序盤のマシントラブルの症状も途中から何故か出なくなり、佐藤はスティントの中盤~後半にかけてタイムを4秒台に詰め、順位も12番手まで挽回する。プリウスコーナーでのスピンと1コーナーでのオーバーランこそ1度ずつあったものの、最後までペースを落とすことなく、2番手の堀にバトンタッチ。
佐藤は、スティントの中盤~後半にかけてタイムを4秒台に詰め、順位も12番手まで挽回する。1コーナーでのオーバーランこそ1度あったものの、最後までペースを落とすことなく、2番手の堀にバトンタッチ。
ところが、堀がコースインする10分前頃から、霧がコース上の広範囲を覆いはじめた。路面は変わらずヘビーウェット。堀はそれでも周回ごとに少しずつタイムを上げ、5秒台、4秒台へとタイムを詰めていく。ピットインで落とした順位も上がりはじめ43周目には20位、53周目には13位、62周目には2分3秒台のチーム・ベストラップを記録し、順位を10位に押し上げた。
このタイムはトップのBMW Z4からは2秒落ち、ST-2クラスのランエボ勢より速いタイムで、陣頭指揮を執る総監督の見崎も「速いね~」と一言。
スタート後、2時間30分になろうとする頃、レインタイヤとのマッチングの悪いGT-Rに対し、堀が果敢に攻める。100Rでアウトからかぶせて、次のヘアピンでインからパス。「GT-R抜いたど~」と無線でピットに報告。その気合はハンパではない。67周目には9位、70周目には2分2秒517と自らのベストラップを更新する。
そしてスタート後、2時間40分、ついに濃霧のためセーフティーカーが入る。
直後の74周目、予定通りのスティントを終えた、堀がピットイン。
堀「こんな天気でよく走ったよ、コースイン後は霧で何もわからない状態」
志村「凄かったね~、2秒台」
堀「今日は戦った~、GT-R抜いたし~」(笑)
志村「いつも戦ってるでしょ」(笑)
ピット内が笑いに包まれる中、最終スティントを受け持つ岡本がコースに入る。セーフティーカーがコントロールするまま12ラップの間、辛抱の走りとなった。霧が上がったのは、残り約40分となった15時15分過ぎ、隊列が整いレースが再開された。
レース終盤は、昨年同様壮絶な戦いとなった。ピットインで落とした順位はわずかで、11位。十分にシングルを狙える位置だ。コースアウトするクルマも続出する悪コンディションの中、岡本は2分3秒~4秒台のタイムをコンスタントに刻む。88周目には9位、89周目には8位とポジションをアップ。97周目には7位となった。残り時間から見るとあと6周。ところが1コーナーを立ち上がったところで岡本が突然のスローダウン。ピットに無線が入る。
「車がおかしい、1コーナーで縁石乗った後アクセル踏んだら突然ノッキングした」
さらに無線が入る。
「ダメだ、2速だけじゃなく3速と4速もノッキングする。佐藤さんと同じ症状かも。これじゃ危ないからピットインしますか?」
この時点でのピットインはリタイアを意味する。動揺するメカニックからの指示は「取り敢えずこのまま何とか走って下さい」。
岡本の直後には堀がパスしたGT-Rが、路面の乾く中、驚異的なペースで迫ってきていた。
エピローグ
GT-Rの追撃を最終的には14秒押さえ、総合7位。あと数周あれば逆転されていただろう。参加初戦のGT-Rは、さすがに順位など気にはしていないだろうが、こちらは参戦して3年目。毎回が勝負で、目いっぱい耐久レースを楽しんでいる。順位を上げるための戦う意思がなくては、レースはできない。その点でも7位という結果には大満足だ。
後日判ったことだが、佐藤と岡本のスティントでのトラブルは雨が引き起こした接触不良による電気系トラブルだったようだ。
岡本「2~4速は突然リミッターに当たってつんのめるような感覚、300R全開でノッキングしたら死んじゃうよ、でもいい経験になった。」
最終スティント担当となると、マシンに色々と不具合が出るのも耐久レース。フィニッシュラインまでもってくるには辛抱強い走りも要求される。
佐藤「このコンディションでクラッシュなく終われたのはよかった、満足」
堀「GT-R抜いたど~」(笑)
終始ドライバーの成長に感心していた総監督の見崎だが、最後は課題をひとこと。
「スローなドライブというのはストレスがたまるものだが、これもレース。みなさん押しなべてペースを掴むのが遅いことと、追い抜きの際ラップが落ちすぎるので、平均してラップを刻めるようになって欲しい。ヘアピンで見ていたけど、コースを使い切ってないし、まだまだクルマの限界をつかんでいない。それとドライバーチェンジが遅いから練習した方がいいですね」
まだまだ課題はありそうだが、2戦続けてのシングル着順は、ドライバーの成長を確実に示している。次回は、昨年トラブル続きで苦杯をなめた岡山だ。今の調子なら、また好結果が望めそうだ。
スーパー耐久レースのオフィシャルサイト
http://www.so-net.ne.jp/s-taikyu/
ファウスト・レーシングチームのオフィシャルスポンサー
株式会社BRAINGROUP
http://www.braingroup.jp/
F1 PIT STOP CAFE
http://www.f1pitstopcafe.co.jp/
セインツシンフォニー
http://www.thesaintssinphony.jp/
Text:Yuji Takahashi
Photos:Hiroshi Kodaira
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