Vol.15
スーパー耐久2011第3戦OKAYAMA
ついにFaust.RT、新体制3戦目で
過去最高の総合5位を奪取!
マシンをポルシェからBMWに変更、佐藤・岡本・堀という固定ドライバーで戦うスーパー耐久2011シーズン。大震災でレース数が少なくなり、早くも折り返しとなる第3戦岡山ラウンド。Faust Racing Team(以下Faust.RT)のレースの模様をレポートする。
手ごたえ十分の占有走行
スーパー耐久第3戦の舞台となる岡山国際サーキットは、コース幅が狭く抜きどころの少ないサーキットとして、ドライバー泣かせの舞台だ。6クラス混合で戦うスーパー耐久は参加台数も多く、そのスピード差は大きい。一発勝負の予選はクリアラップを取ること、決勝は周回遅れの抜き方も勝負の行方を左右する。
今回のレースは土曜予選、日曜決勝の2DAYレース。Faust.RTは木曜日から岡山入り、ドライバーでは早めに入った佐藤と、セッティング担当の山野が、スポーツ走行の時間帯を使って走り始める。コースコンディションが恵まれていたとはいえ、初日としては上々の1分39秒台を出し、昨年のFaust.RTの予選タイム(ポルシェ)を抜き、仕上がりが順調であることを確認した。
翌、金曜日のタイムテーブル内に用意されたスーパー耐久の占有走行は3回。公式計時もあるため、各チームの様子もわかる大事なセッションだ。チームに合流した岡本と堀、前日入りした佐藤の3名が、それぞれ約10周ずつ、1年ぶりに走るコースを丹念に確認しながらマシンを走らせる。
午前中の2回のセッションを終え、セッティング調整した最後の3回目、占有走行中の総合4位(クラス3位)タイムを出す。表彰台が現実となってもおかしくない時計に、ドライバーは手ごたえを感じていた。不安があるとすれば、3回目のセッションが終わって降り出した雨だけ。翌日の天気予報は局地的な雨もあると伝えていた。
Aドライバー予選はゲリラ豪雨により赤旗
8月28日、土曜日。スーパー耐久の予選は午後からなので比較的のんびりした午前中のピット内。メカニックもルーティンの作業を行っている。正午から始まったピットウォークは、各チームのレースクイーンが集合してマシンの前に並び、観客を迎え入れるもの。雲が多いものの好天の下で家族連れやカメラマンが大勢ピットロードを歩く。スーパー耐久ではお約束の時間だ。
ところがピットウォーク後半、雲の動きがにわかに激しくなり風が出てきた。予選で最初にアタックする堀は、開始5分前にはマシンに乗り込み出撃体制を整えた。どう考えても一雨あって不思議の無い状況だからだ。そして、コースインする直前、ポツポツと雨が路面を濡らし始めた。
メカニックから「雨だよ。レイン用意」の声が飛ぶ。コース上はまだドライなので準備だけ。13時15分定刻に予選スタート。早々にコースに飛び出した堀からは「雨、けっこうボッタンボッタンきてる」と無線が入る。ピット上を見上げれば空は明るいのだが、灰色の雲が間近に迫る。
堀はアウトラップを終えタイムアタックに。もし本格的に降り始めてしまえば、路面がウエットになるまでの一周勝負。少しでも雨が持ちこたえれば、数周のアタックが可能かもしれない。
アタック1周目、堀のタイムは1分43秒075。クラス3番手で総合5位のタイム。ここで雨は路面を容赦なく激しく叩きはじめた。ゲリラ豪雨だ。もうアタックを続けるどころではない。ピットからドライバーに「無理しないように」と無線、そのまま堀はピットに。レインタイヤを履いて出て行っても危険と判断できるほどの雨。そのまま赤旗中断となり、Aドライバーの予選は終了した。
1周のアタックだった堀は「もう1周あれば…」と悔しがったが、同じBMW Z4Mに乗るトップチーム『ペトロナス』の1台は、コースインが遅れたため10位なのだから上々の結果だ。
さらに波乱を呼ぶBドライバー予選
雨のためタイムスケジュールが20分ほど押し、14時20分スタートとなったBドライバー予選。担当するのは岡本だ。雨は上がったものの、いつまた降り出すかわからない。路面はハーフウエット。Faust.RTは溝のあるレインタイヤを選択したが、乾くと判断したチームはドライ路面用のスリックタイヤを履いて勝負をかける。他チームを見てもレインとスリックに二分されている。
コースイン直後の路面はまだスリッピーな状態。岡本はアタック1周目に1分57秒761(9位)で、「けっこう乾いて来てるよ」と無線を通じて路面状況を伝えてきた。ピットは「もう少し様子を見ましょう」と返す。ここから岡本は53秒、51秒、49秒とタイムを上げていくが、次第にレコードラインはドライに。スリックを選択したチームが、いきおい岡本より上位に食い込んできた。
タイヤを替えたがっていた岡本だが、15分の予選時間内では、履き替えてアタックできるのは1~2周。そのリスクは大きすぎる。ピット内は慌てず騒がず、「もう少しがんばってください」と無線で岡本の背中を押す。スーパー耐久予選はスピード差のあるST-X/1/2クラスとST-3/4/5クラスに分かれて行われるのだが、想定外の波乱はこの後。
雨が完全に上がりST-3/4/5クラスの予選は全車スリック。アタック後半こそ降り出した雨で赤旗予選終了となったが、ST-3/4クラスのマシンが、岡本の前に9台入ってきたため、Bドライバーの予選結果で岡本は17位となってしまった。
岡本は予選後「スリックではタイムが出るけどリスクは伴う。チームとしては正しい判断だよね」とひと言。
予選を振り返れば、Aドライバー予選はコースインの早かったチームに利があり、堀がタイムを貯金した。Bドライバー予選は、レインタイヤのハンデはあったが、最後の数周、岡本がタイムを上げたことで、Aドライバー+Bドライバー2人の合計タイムで競う予選の総合結果は8位となった。気まぐれな天気の中、ベストではないがベターといえる結果に終わった。
今回Cドライバーに回った佐藤の予選は15時05分から。フルウェットの中、レインタイヤでの慣熟走行となった。雨でのランエボ勢(ST-2クラス)の速さは半端ではなく、BMW勢(ST-1クラス)4台を押さえ、AUDI R8に次いで2位のタイムを出していたのには誰もが驚いた。
チームミーティングで決勝のドライブ順は、木曜からサーキットに入っている佐藤をスタートドライバーとし、岡本、堀の順番に。岡本は最終スティントを担当する堀に「チャンス(表彰台)を残しておきますよ」と大胆な発言でボケる。
「その前にとんでかないでね」とミーティングの輪の外からの声で、テント内は大爆笑。
予選終了後には、全日本F3第10戦の決勝が行われた。F3との併催はここ岡山のみ、何度もFaust RTを応援に来てくれている千代選手(NDDP RACING/ニスモ)の走りをチーム全員で応援。ちょうどピット前に停止したF3マシン/千代選手にガンバレサインを送る。
決勝日のフリー走行で高まる期待
心配された天候も朝から快晴。午前中にはVITZのワンメイクレースとF3第11戦の決勝があるため、スーパー耐久のフリー走行は朝一番、8時30分からと早い。レースと同じドライバー順で走行をチェック、合わせてドライバーチェンジ、タイヤ交換などピット作業の確認も行われた。
そのフリー走行の中で堀が、予選目標としていた1分39秒台を出した。フリー走行中では総合4位のタイム。コンディションがいいとは言え、使用済みタイヤでの走行。ピット内は、「今日はいけるんじゃない」と上げ上げのテンション。岡本は、スタートドライバーの佐藤に「前のST-2クラス3台は、1周目の1コーナーと裏のヘアピンで1台ずつ、2周目の1コーナーで1台ね」と気合を注入。そんなに簡単なものではないと誰もが知っているだけに、チーム内はリラックスムードで包まれた。
レース開始の1時30分までは、4時間以上残されている。この間もピット裏のテント内ではドライバー達はデータロガーやインカービデオを見ながら岡山の攻略法を研究。ビジネスに追われる日常から離れた趣味の場でも、そこに賭ける情熱は少しも萎えないようだ。だからといって肩をいからせてピリピリしているわけでもない。応援に来てくれるFaust会員や友人、サーキットで知り合った仲間への対応もホットなものだ。レースとは関係ないゴルフ談義にも気軽に応じている。成功する起業家共通のメンタリティなのだろう、スイッチのオンオフが見事だ。
「3時間耐久」決勝スタート
ピット内の温度は30℃ながら、日なたの温度計は32℃。過酷な夏の3時間耐久レースが始まる。
スタートはスーパー耐久恒例のローリングスタート。先導車が1周隊列をひっぱり、ストレートに戻ってくればヨーイドンだ。レース序盤の数周は、各クラス上位陣のポジション争いによるコースアウトも多く、気の抜けない場面が続くはずだ。
スタート直後の1コーナーを予選順位ままの8番手で手堅く抜けたFaust.RTの佐藤は、2周目1コーナー出口でスピンする直接のライバル#11のBMWを交わし、ST-2クラスのマシンを裏のストレートで1台抜くものの、#11に再び交わされ7番手となる。出入りの激しい緊迫したレースだ。
3周目にはさらにST-2クラスを1台抜いてポジションは6番手。下のクラスのマシンとはいえ上位陣は速く、簡単には抜かせてくれないのだが、今日の佐藤は気合十分だ。5週目には最後に残ったST-2クラスのマシンをキッチリ抜いて帰ってきた。これで前を行くのは直接の目標#11の1台となった。その差は4秒、佐藤はラップを1分41秒台まで上げ追撃する。
スティント中盤、周回遅れも絡みだす頃、#11のラップは40秒台、毎周1秒離される。プロレーサーではないがベテラン揃いのチームだけに、アグレッシブに周回遅れを交わしていく。スティント終盤の30周目には、その差は30秒と広がっていた。
ちょうど1時間、34周目。他チームより先にFaust.RTはドライバー交代のためピットイン。タイヤ交換と燃料給油、ドライバーチェンジを行う。ストップタイムは1分15秒。第2ドライバーの岡本は13番手でコースに復帰する。
岡本は最初の数周こそ1分44秒台だったものの、すぐにラップを42秒台まで上げ、42周目には10位に、43周目には9位と着実に順位を上げていった。
その時、レースモニターを見ていたピット内がざわついた。
画面には「#11#76の接触について審議中」「#11#19の接触について審議中」と二つが表示されていた。#11は表彰台へのライバルとなるBMWだ
数周後『危険行為による20秒のペナルティストップ』が#11に課された。20秒停止+ピットスルー時間およそ50秒で、70秒が一期に詰まる計算になる。
49周目、#11のペナルティに加え、岡本はST-2クラスも交わし、順位は一気に総合4位(クラス3位)に跳ね上がる。過去最高のレースポジションにピット内は沸く。最終スティントはチームで一番安定感のある走りとスピードを見せていた堀だけに、周囲の期待が高まるのも当然だ。
ところが52周目、岡本は再び追い上げてきた#11にロックオンされた。背後にピタリと付かれた岡本はWヘアピンの入口で痛恨のスピン。掲示では『#9と#11の接触審議中』と出たが、無線で岡本は単独スピンと言っている。マシンにダメージはなかったものの後続車両を避けながらの復帰で25秒を失う、ポジションも7位に落とした。
ST-2クラスの上位はシリーズチャンプをかけた争い、一切の妥協はない。レースラップはこちらが明らかに速いのだが簡単には抜かさせてくれない。岡本は残り周回で6位まで押し上げたものの、最終スティントを堀に託すため予定通りの周回でピットに戻ってきた。
ピットタイムは1分05秒、ドライバーチェンジも速い。燃料補給・タイヤ交換を済ませてコースに復帰する。堀はインラップの翌周には43秒台、すぐに41秒台へとタイムを上げる。ラスト1時間、順位は8番手だが、ST-2クラスの3台は十分に射程圏内だ。
もちろん目標となるのは、その前を行くST-1クラス3位の#11。表彰台を目指すからにはターゲットはそこだ。#11がピットに戻ってきたのは80周目でタイヤ交換はなし、そのためピットでのストップ時間はわずか45秒。最初のスティントを長めに取ることで、最終スティントはタイヤ交換なしという作戦だ。
堀は82周目、ST-2クラスの1台を交わして6位に。
ドライバーの佐藤は「レースらしくなってきたなぁ」と堀のアタックを見守る。
85周目、さらに1台抜いて5位に。ラップも41秒台と変わらない。これで前を行くのは#11。そのタイム差は約80秒。耐久レースだけに何かあれば逆転圏内といえる差だ。
セーフティーカー導入で最後の波乱か?
レース残り25分を切ったところで、オイル処理のためにセーフティーカーが導入された。#11とは同一周回、タイム差が詰まることで表彰台を争うバトルを見ることができるのか?とピット内は盛り上がる。ところが、両車の間に入っているマシンを確認すると21台あった。残り15分で、たとえ全部を交わすことができたとしても、#11は前方がクリアでタイムロスすることなく逃げてしまう。
ピットから「再スタートは、フライング注意してください」と無線で堀に。
セーフティカーが最終コーナーからピットロードに入れば再スタート。ゴールライン前に前走車を追い越してはペナルティとなってしまう。
そしてレース再開後の93周目。各クラスの詰まった隊列の中で、堀の直後を走っていたST-2クラスのトップ争いに巻き込まれ、順位をひとつ落とし6位に。残りは10分しかない。96周目には順位を5位に戻すものの97周目、オイル処理のされたはずのコーナーで、コースアウト。一挙に7位に。残りは数周だ。
ここで堀のハートに火が付いたのだろう。下のクラスには負けられない=『ゆずれないポジション』を挽回するため、99周目に1台。ラストラップとなる102周目には最終コーナーで狙いすましてストレートで残る1台をパス、総合5位へと順位を戻した。時計にしてわずか0.258秒の僅差だった。
エピローグ
過去最高の総合5位という結果を得たドライバー達に、今回のレースを振り返ってもらった。
早々とサーキット入り、自前のポルシェでもスポーツ走行をした佐藤
「車の性能をまだまだ生かしきれていない、イマイチ走れていなかった。表彰台に上がるという目標は達成できなかったけど、自分も、チームも、レースらしいレースをしたと思います。後はサーキットへの慣れが必要ですね、もっと練習して乗り込みます」
前回の予選クラッシュにも外見は凹んだそぶりは見せなかった岡本
「スピンはWヘアピンの1個目で、リアが滑り出してハーフスピン。堀さんから『抜かせるなよ』の無線で、いくつかコーナーはブロックできたけど…残念、経験不足です。富士のクラッシュでリスクが取れずリズムも崩れていたので、次の鈴鹿では走りはもちろん、メンタル面も修正します」
前回の富士では体調を崩したものの今回は万全の体調だった堀
「レース再開後にコースを飛び出したのはオイルに乗ったため。側壁まで0.1mmぐらいでした(笑)。ラストは立ち上がり重視のラインが取れたので抜くことができたけど、直線は、軽くなって前に進むように車の中で跳ねてましたね。全く変わらないと思うけど、気持ちで」
次戦は10月22/23日の鈴鹿。念願の表彰台はあるのか?
OKAYAMA International Circuit
2011.08.28/Course Length:3,703Km
Weather:Sunny/Course:Dry
Faust Racing BMW Z4M COUPE
Driver佐藤 茂/岡本 武之/堀 主知ロバート
3h01'56.817 102LAP
総合5位/ST-1クラス4位
Text:Yuji Takahashi
Photos:Hiroshi Kodaira
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