Vol.18
手ごたえ有り! 5シーズン目のテストデイ
「Road to Le Mans―ル・マン24時間を走ること」を目標としてスタートしたFaust Racing Team (以下Faust RT)のチャレンジ。スーパー耐久に参戦して5年目、2012年シーズン開幕直前に行われた「テストデイ」の模様をレポートする。
午前―フリーラン
リアタイヤの迫力に驚く!
スーパー耐久のST-1クラスに参戦するFaust RTのマシンは、昨年に引き続きBMW Z4M Coupe。ドライバーはキャプテンの堀と佐藤、岡本の3名。例年通りマシンメンテナンスはBBRで、セッティング&ドライバーコーチはプロジェクト・ミューの山野となる。マシンがポルシェからBMWに変わり、ドライバーが固定された2年目。体制の継続する今シーズンは、レース結果だけでなく、ドライバー技量アップのチャンスでもある。
テストデイは3月11日で、東京は早朝から雪模様。富士スピードウェイのある小山町は静岡県の北東の端で、富士山へと連なるため標高も高い。不安定な天気はレース本番でも関係者を悩ますが、この日も例外ではなかった。テストデイとしての走行時間枠は午後からだが、午前中のスポーツ走行時間枠を使ったセッティングは雨の中となってしまった。
マシンに大きな変更はないが、レギュレーションによりリアタイヤがワンサイズアップした。加えてギヤ比が若干変わり、ドライバーにとっては、ドライブする感覚が昨年と比べて異なることになる。本番前のテストデイで手ごたえをつかみたいところだ。
280/680R18から280/710R18になったリアタイヤは、外径で27mm、幅で2mmほど大きくなり、マシン外観の印象は迫力を増した。ドライバー達も今日初めてその容姿を見るのだが、ボリュームアップしたリアタイヤを見て、でかいなあと驚いていた。
リアタイヤのパフォーマンスアップにより、マシンはアンダーステア(曲がりにくくなる)が強まると予想されたため、午前中のフリーセッションで走った山野はその点をアジャスト。雨が続く中で、ウェット路面+溝のあるウェットタイヤでのセッティング出しを行った。
午後―テストラン
密度の濃い3時間のテスト走行
「テストデイ」の走行時間帯は午後1時から4時までの3時間。スーパー耐久に参加する6クラス34台のマシンが富士に集合、セッションが始まった。まずは、山野がスリックタイヤ+ドライ路面の状況下でコースイン。午前中に確認できなかった部分だ。
途中、赤旗中断をはさんだ4周目、山野はST-1クラスのレコードタイムとなる1分46秒217を記録。レースではないため公式のコースレコードとはならないが、2007年に同じBMW Z4Mをドライブする柳田真孝のタイム(1分46秒304)をあっさりと抜いた。リアタイヤの性能アップがタイムに反映しているようだが、昨年のもてぎ、Faust RTのドライバーとして、コースレコードを塗り替えた山野の走りは健在だ。
その山野がピットに戻ってきて、リアの足回りのセッティングを微調整、堀、佐藤、岡本の順で、1本目の走行に飛び出していく。一人7周なので計測は5周だ。
堀のベストタイムはアタック4周目で1分49秒台。佐藤、岡本も同じくアタック4周目に50秒の前半を掲示する。
「マシンが違うね、慣れないといけない」という堀、「タイヤの力は偉大、楽に走れるからタイムはまだ伸びる」という佐藤。
それぞれ感じるところを持ち寄り、インカービデオやデータロガーを見ながら走りを検討する。
堀、志願のアタックでベストタイム
続いて2本目の走行。車高を下げるなどセッティングの調整を行い、山野がコースイン。ところが、そこで雨が振り出し始めた。ウェットタイヤに履き変えるほどの量ではないが、路面はスリッピィな状況になってしまった。
天候状況を見て走行を中断するチームもある中で、堀は2本目の走行を開始。コース内は走る車も減り、クリアラップは取りやすいもののタイムが出ない。最終アタックで1分53秒台にいれるのが一杯となった。
ところが、佐藤のアタックでは雨が完全に上がり路面状況は一変する。ほぼドライになった最終周には1分49秒326を叩きだす。続く岡本も1分49秒120と、揃って49秒台に入れてきた。これは昨年、富士のレースで予選目標タイムとしていただけに、ピット内でタイム掲示を見ているスタッフの間にも歓声が上がる。
マシンを降りてきた佐藤は
「フロントタイヤの食いつきがよくなった。低速コーナーはアンダーだけど、高速コーナーはいいですね、まだ踏める」
ここで走行開始から2時間30分が経過、残りは30分だ。タイヤを使いこんだ状態でのマシンチェックをするために再び山野がコースに出る。そして1分46秒台のラップを3周続けた。タイムを見て岡本は、「3秒差か」とひと言。依然としてあるプロとアマの壁、技量差にショックを隠しきれないようだ。
3名のドライバーの中で、2本目のアタックが唯一人、濡れた路面になってしまった堀。「乾いた路面で走りたい」と、残された時間を走ることになった。昨年終盤、赤旗中断などのレースアクシデントが続き、リズムに乗り切れなかった堀だけに、天気の回復したここは、なんとしても…の志願。
すでに70周近く走っているため、タイヤのグリップは落ちているが、車高をさらに数mm落としてアタックを始める。すると、気合の乗った堀は1分48秒台の自己ベストを記録、数周後には1分47秒910とさらにベストを更新する。直前に走った山野から1秒落ちなら、文句なしに素晴らしいタイムだ。
ピットに戻ってきた堀はピットクルーとハイタッチ。
堀「最高、気持ちいい。スカッとしたね。いいシーズンインになったよ」
ちょうど着替えで個室に入っていた佐藤、岡本にもそのタイムは届く。開幕戦までわずかだが、いい刺激になることは間違いないだろう。ライバルの存在や闘争心はスポーツのメンタリティに欠かせないもの。その面からも有意義な一日となった。
エピローグ
それぞれのドライバーにテストデイの感想と、シーズンイン直前の心境を聞いた。
佐藤「タイヤ外径が大きくなって、マシンコントロールでピーキーさがなくなり、怖くなく踏めるようになった。レースではもっとがんばれると思います。今年の課題はブレーキの使い方ですね、タイムに直結するところなんで」
岡本「1本目はタイヤとギヤが変わってとまどいムードでした。課題はタイムが上がらないことですね。タイムを出す作業ができてない。初戦までは2週間しかないので、今日のビデオを穴のあくほど見て、データとつき合わせて検討します。今シーズンは成長の手ごたえを感じられるような走りをしたいですね」
堀「カートでの練習は無駄じゃありませんでした。走行1本目はアンダーに感じたけど、カートのクセでステアリングを切ってないからで、それじゃ曲がらないですよね。2本目は雨だったのでもう1本行かせてもらいました。タイム(1分47秒台)については、成せば成る、努力に勝るものなし!です」
それぞれが課題や期待を織り交ぜて望む初戦は、2週間後の富士。ペトロナスがGT3に移行し、ST-1クラスには新チームが参加、激しいバトルが予想される。手ごたえをつかんだテストデイだったが、本番の走りとは直結するのか? 期待は膨らむ。
Fuji Speedway
2012.03.10/Course Length:4,563Km
Weather:Cloudy with rain/Course:Dry
Faust Racing BMW Z4M COUPE
Driver堀 主知ロバート/佐藤 茂/岡本 武之
スーパー耐久シリーズ公式サイト
http://supertaikyu.com/
Text:Yuji Takahashi
Photos:Hiroshi Kodaira
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