Vol.3
リベンジなるか? 新たなる想いで挑む富士!
完走するも悔しさの残った鈴鹿。
梅雨の晴れ間がのぞいた富士スピードウェイでリベンジに挑んだFaust Racing Team。
そこには三者三様の結果が待っていた……。
ドライバーとしてのプライド
2008年6月15日。本戦。富士スピードウェイ(以下、富士)の特別室・クリスタルルームでは、Faustのドライバー3人の友人たちがモニターに映し出されるマシンの一群から、「Faust Racing Team」(以下、Faust RT)のカーナンバー「9」のポルシェを見つけ出そうとしていた。
ローリングスタートから無事に抜け出してこられるのか……?
初参戦となった鈴鹿から約1カ月。Faust RTの「スーパー耐久シリーズ」(以下、S耐)参戦2戦目は、富士で開催されるシリーズ第3戦だった。鈴鹿を無事に走り終えた3人のドライバーは、シリーズ2戦目を見送り、気持ちも新たにして富士へと乗り込んできた。
「完走だけでは物足りない」
出走前に、3人が3人とも口にした言葉である。鈴鹿を完走するも、タイムや順位に納得がいかなかったドライバーたちのプライドが、そう言わせたのだろう。
富士は彼らにとってリベンジの場となった。
ほどなくして、モニターには、第1コーナーの混戦を見事にいなし、コカコーラコーナーを通過していくカーナンバー「9」が映し出された。
固唾を飲んで見守っていた友人やスタッフたちは、安堵のため息を漏らす。
一番手のドライバーは佐藤だった。
佐藤の腕を信じていなかったわけではない。ローリングスタートの難しさを聞かされて心配していたのだ。無事にスタートを切れたことが確認できて、張り詰めていた特別室の空気はわずかに緩んだ。
Faust RTのリベンジが始まったのである。
順位を上げていくカーナンバー「9」
スターティンググリッドは12番手。鈴鹿よりも上位のポジションをゲットできた(鈴鹿は19番手)。参戦2戦目にして、個々のスキルアップが感じられる結果とも言える。
公式予選の結果を受けて、見崎清志監督は佐藤を1番手に据えた。
「富士に来てからは、彼が一番固いんですよ。取りこぼしがあったらいけないので、おそらく事故もなく次に渡せるだろうということです」
事実、佐藤の記録は安定していた。公式予選で唯一、1分51秒台を叩き出している。
スタート前の「アウディ走行会」(Lifestyleにて掲載)でのドライバー紹介のときに、佐藤は友人たちを前にしてこう宣言していた。
「前回、3番手でしたが、今回は努力して3人の中で一番早いタイムを出せるように頑張りたいと思います」
佐藤の言葉に嘘はなかった。周回によってアップダウンがあるものの、9ラップ目に好タイムを叩き出す。
1分51秒724。
コース上でトップ走行をしていた「BMW Z4M」とわずか3秒差まで迫っていた。相手はプロのレーサーである。一瞬とは言え、参戦2戦目にして十分な成果。誰もがそう思ったはずだ。
「いけるね~。順位も10位まで上がってるよ!」
特別室で観戦していた友人たちも、にわかに色めきだつ。
突然のアクシデントに凍りつくピット!
30ラップを越えても、1分53秒から54秒をいったりきたりしながら順調に周回を重ねる佐藤。
2番手となる安藤は、ピットで1stドライバーが戻ってくるのを静かに待ちかまえていた。今回は正確に走ることを目標に掲げている。心なしか鈴鹿よりも緊張しているような印象……。そんな中、34ラップ目に佐藤がピットへと戻ってくる。
プシュッ!!
ピットに入ってきたカーナンバー9にFaust RTのクルーが給油を行おうとした瞬間。まるで炭酸ジュース缶のプルタブを開けたときのような音がした。同時に、クルーのひとりが声を上げる。
「押さえて!」
突然のアクシデント――。
ガソリンが漏れたのだ。ピットは今までにない慌ただしさに襲われた。ガソリンを押さえてふき取るためのペーパーを担ぎ出し、何かの部品を求めてクルーが走り回る。順調かと思われていた雰囲気が一転して、何事かが起きたピット内にはキンッとした空気が張りつめた。しばし時が止まる。
ところが、凍りついたのは運営スタッフや観戦者だけだった。心配そうに見守る人々を尻目に、Faust RTのクルーたちは冷静に、そして素早く対処を施していく。気が付けば、ドライバーは佐藤から安藤に変わり、いまやスタートの合図を待っている状態。
時間にしておよそ5分程度。
いつの間にか処置の終わったカーナンバー9のポルシェは、安藤を乗せてピットを飛び出していく。
原因は、ガソリンの逆流を防ぐワンウェイバルブが何らかの原因で破損したとのこと。何事もなかったかのように、ピット内に散らかった作業の残骸を片づけながらクルーが説明してくれる。
3人のドライバーをサポートするFaust RTのクルーたちは、まさにプロ集団だった。彼らがいることで、ドライバーは安心してレースに集中できるのだ。アクシデントよりも、Faust RTのチーム力に改めて驚かされた。
突耐久レースの難しさ、我慢の中盤戦!
コース上は佐藤からドライバーチェンジした安藤。
そもそもはミッションリンケージの不具合を確認するためにピットに入ってきたカーナンバー9だったらしいが、マシントラブルに見舞われたために安藤が繰り上げてコースに出ることとなった。
そのことが影響したのか? アクシデントに動揺したのか? 安藤のペースが思うように上がっていかない。
1分55秒~56秒台をキープするものの、そこからタイムを縮めることができない安藤。見崎監督やチームリーダーの志村芳一チーフが首を傾げる。もちろん、コンスタントに周回を重ねることができているのでレースマネージメントとしては問題はない。
応援する友人たちは、安藤がペースアップできないことを気にしてはいない。むしろ、レースが順調に進んでいることに安心しているようだった。
それでもコース上の安藤は、富士スピードウェイの走り方に悩み、苦しめられていた。縮まらないタイムが、その苦悩を物語っている。
手応え十分、次戦につながる走り!
一方で特別室には、スタートを無事に決め、ベストラップを出した佐藤が戻ってきていた。
「お疲れさま~! 速かった速かった!」
拍手とともに、労いの言葉をかける友人たち。その輪の中に、子供とともに応援をしていた佐藤夫人がいた。
「ほっとしました(笑)。何もないとは思っていましたけど。ラリーは何度も見に行ってますが、サーキットは初めてだったのでちょっと心配していました。クルマを壊して皆さんに迷惑をかけたら申し訳ないですし」
夫人は、海外まで応援に駆けつけたこともある。
「ラリーは大勢のギャラリーと追いかけて応援しなければならないですが、サーキットは移動しなくて観られるから楽ですね(笑)」
家族からも和やかに迎えられた佐藤だが、今回の走りについては少々興奮気味に語る。
「前回は、本当に悔しかったから。クルマに慣れることができて本当に良かった。速いクルマを追いかけているうちにだんだんわかってきて、すんなり動かせるようになってきたんです。鈴鹿ではタイヤのグリップが良すぎて使いきれてなかったのが、ココでは最初から使いこなせた気がする。コーナーもね、自分の思うような速いスピードで入れるようになったし」
鈴鹿では、タイヤが減ってきて滑ってくると、得意分野のラリーのような走りでごまかすことができた。しかし、今回は違った。グリップが良い状態からサーキットの走りができたのだ。佐藤は大きな自信を手に入れたと締めくくった。
70ラップ目。滞りなく周回を重ねた安藤がピットへと戻ってくる時間が近づく。
我慢の走りを続けた安藤を迎え入れるために、佐藤と最終ドライバーの堀がピットで待機。カーナンバー9を待つ。
課題も浮き彫りになった試練の富士!
「悪循環にはまった~。苦しかった!」
マシンを降りて、ピット奧のイスに腰掛けてしばらくして安藤が口を開いた。レースを締めくくるべく、堀がコースへと勢いよく飛び出していってから随分と経っていた。
「う~ん。鈴鹿のほうがきつかったはずなんだけど。全然思い通りに走れない感じがしたんですよ。完全にバテた。体力無いのかなぁ」
鈴鹿のときからは想像もつかない弱気な発言。自分なりに原因を探りながらコメントしていく。
「最初の3周くらいはイケそうな気がしたんだけど、そのあとはずっとハマっていた気がする。最終コーナーでタイヤカスを拾っちゃって、そのまま戻ってきて第1コーナーでグリップしないというか、制動距離が伸びちゃうというか……」
走りながら探っても、グリップするラインがなかなか見つからなかったと続ける。
「ダメだ。あまりにも無様だったからチャンネルが切り替わらない。練習しないと……。かなり悔しいですね。課題がたくさん残ってしまった」
反省しきりの安藤。自分の思い描く走りが出来なかった悔しさでいっぱいになっていた。岡山までに修正すると言い、再び口を結んだ。
驚きのタイム、走るほどに速くなる!
レースはすでに終盤。終了時間までわずか30分ほどになっていた頃。モニタに映る堀のタイムに目を疑った。タイヤはヘタり、残りラップ数を考えながらタイムを維持するのがベターなはず。ところが、タイムが伸びている。
110ラップ目。1分51秒467と表示される。公式予選のベストラップよりも1秒以上速い。レース前に堀が友人たちに言っていたことを思い出す。
「ハンドルは、わずかに切るものやと思っていたら、かなり切らなあかんかったということが昨日やっとわかりまして、タイムがあがりました(笑)。オレは、何年クルマに乗ってるんやろな……」
当日朝のフリー走行はオイル漏れで堀だけ走れずに不安を感じていたようだが、どこ吹く風だ。1コーナーでのブレーキングは、3ドライバーの中で誰よりも深い。しかも、前後に他のマシンがいるときほどアグレッシブである。
ますます堀の走りがキレてくるかと思われたとき、ワンウェイバルブ破損のアクシデントの悪影響が出てしまう。
堀のマシンのエンプティランプが点いてしまった。大事をとって給油を少な目にしたために、ガソリンがわずかに足りなくなってしまったのだ。
レース終了わずか10分前にして、急遽ピットイン。カーナンバー9は、給油をあっと言う間に終えてすぐさまコースへ。
しかし、その5ラップ後、トップを走っていた「BMW Z4M」にチェッカーが振られた。
結果としては、今回も見事に完走だったが……。
走りに進化! 岡山へ向けてリスタート!
きっちりと走り遂げた堀を出迎えるFaust RTのクルーと友人たち。耐久レースにトラブルはつきものだが、「アクシデントさえ無ければ、もっと上位に迫れたはず」と口を揃える。それほど、今回の堀の走りは進化した。
ピットで熱くなった体を冷やしながら、堀が走りを冷静に振り返る。
「もともと走りが完璧じゃないから、走っている間に『あ! 今の良かった!』っていうのが何度もあって、もう一回それをやってみようと試して。いろいろやっているうちに、だんだんそれが全部のコーナーでできるようになってた。最後の1分51秒台が出たときは、全部のコーナーでそれができたんですよね」
終盤にも関わらず、タイムが伸びた秘密はそこにあった。
「でもね、今まで思っていたことと全然違ったから、今までやっていたことはなんやったんやろうって(笑)。鈴鹿はなんだったんでしょう(笑)。全然違う。まったく違う。違う乗り物に乗っているくらい違う」
走りの進化に手応えを感じながら、喜びをみんなで分かち合う堀。
そして、佐藤と安藤とがっちりと握手を交わし、3人のドライバーはすでに次の岡山へと想いを馳せる。
そんな3人に向けて、志村チーフはある提案をする。
「9月の岡山までちょっと間が空いちゃうでしょ。今回の富士で得たことをおさらいするためにも、1、2週間後にもう一度、富士で走ってもらいたい。3人とも忙しいから時間を作るのは大変かと思うけど、岡山を前にぜひやっておきたい。どうでしょう?」
「やりましょう。でも、次に来たら55秒台に戻ってたらどうしよう(笑)」
堀の言葉に笑いながら賛同する佐藤と安藤。Faust RTは、富士でもうワンステップ踏んで、シリーズ第5戦となる「岡山500kmレース」へと参戦する。
次の舞台は9月7日の岡山国際サーキット。2カ月後、ST-1の上位を脅かすための走りを目指す。……第4話につづく。
スーパー耐久レースのオフィシャルサイト
http://www.so-net.ne.jp/s-taikyu/
もてぎテスト走行のリザルト
http://www.so-net.ne.jp/s-taikyu/2008/testday/result/
堀主知ロバート(IT企業グループ会長兼CEO)
20代から5年ほどカートレースにのめりこむも資金難で引退。会社経営者となったその後は、事業に邁進するかたわらウェイクボードの選手としても活躍し、数々の大会での優勝経験を持つ。30代でクラシックカーレースに参戦し、カーレースの世界に復帰。
佐藤茂(某企業の要職)
大手企業の要職に就いている。かつては、海外のラリーレースに精力的に参戦し、ラリードライバーとしてのキャリアを積んできた。歴代のランサーエボリューションを乗りつなぎ、砂道や雪道を得意としている。
安藤琢弥(医療法人グループ理事長)
中京地区にある医療法人グループの理事長。自動車免許を取ってすぐに、自動車レースの面白さにハマり、しばらくはいくつものワンメイクレースに参戦して腕を磨く。臨床家の医師として、また経営者としても忙しくなり一度レースから離れるも、ここ数年、再びレース場へ顔を出すようになる。
現在発売中の「GOETHE」(幻冬舎)にてドライバー堀の挑戦を掲載中!
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ファウスト・レーシング・チームのオフィシャルスポンサー
「PIUBELLO」(ピュウ・ベッロ)
Text:Faust A.G.
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