テタンジェファミリーのミッションと美学
ピエール・エマニュエル・テタンジェ シャンパーニュ テタンジェ当主
シャンパーニュ・テタンジェ社は現在、多くのシャンパーニュメゾンが巨大資本のグループに属するなか、家族経営を続ける数少ないメゾン。そのルーツは1932年に初代当主ピエール・テタンジェが1734年創業のフルノー社を購入し、テタンジェの名でシャンパーニュの製造販売を始めたことに由来する。
長い歴史を継承する一方、1983年には才気あふれるアーティストを起用した「テタンジェ・コレクション」を発表、1967年からガストロノミーのエベレストと称される「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」を主催するなど、フランスの歴史、芸術、食文化を象徴するシャンパーニュメゾンとして世界中から愛されている。
現在、テタンジェ社を率いる当主ピエール・エマニュエル・テタンジェ氏。氏は自社のみならず、メゾンの枠を超えて、シャンパーニュ全体の意識改革に熱心なことで知られる。また2005年、同社が米系投資会社に買収されるという厳しい状況のなか、翌2006年には、再び会社を買い戻すという偉業を成し遂げたのもテタンジェ氏。
3日間という短い東京滞在中、Faust A.G.のために、経営者としてのフィロソフィー、シャンパーニュと芸術的な観点について、独占インタビューが実現した。
――ピエール・エマニュエル氏にとってシャンパーニュ作りに注ぐ情熱はどこからうまれるのでしょうか。
私は、シャンパーニュは幸福のシンボルであると考えています。皆様に幸せをお届けすること、それが私のミッションです。ですから、皆様の幸せのために、できる限りのことをしなければならないという気持ちが私の情熱です。そしてもう一つ、忘れてはならないことがあります。シャンパーニュ地方は、第一次世界大戦で壊滅的に破壊され、多くの人の命が奪われた土地です。悲しい歴史が刻まれた場所で、幸福のシンボルであるシャンパーニュを作ることは運命的な出来事であり、非常に意義のあることなのです。
――テタンジェ社は、数少ない家族経営のグラン・メゾンですが、ご自身が事業に参加された時はどのような気持ちでしたか?
まず、自分はまだ若かったということです。とにかく、もっと世に出てテタンジェのシャンパーニュを世界に広げたいと思いました。テタンジェは家族経営であるため、独自のエスプリ、つまり家族の結束した力を持っています。このテタンジェのエスプリがもっと発展するように、という気持ちで一杯でした。
同時に、経営面では若いスタッフを採用し、一緒に歩んでゆこうと思いました。
現在も15名の管理職は、他のメゾンに比べて若いメンバーで構成されています。
――長男のクロヴィス氏、長女のヴィタリー氏は、すでにテタンジェ社で輸出部門とマーケティング部門で活躍されていますが、お二人が子供の頃から後継者を育てるという意識はありましたか?
はい、それはもちろん。メゾンの将来を担う二人に、小さい頃から教えてきたことが三つあります。まず一つ目は、品質の高いシャンパーニュを作らなければならないということ。テタンジェという家族の名前がラベルに刻まれる以上、品質に責任を持たなければなりませんから。そして二つ目は、人を大切にするということ。シャンパーニュを作るということは、気候や畑の仕事のような自然の要素を真っ先に考えますが、シャンパーニュ作りに携わる人も重要です。多くの人と接し、その人が生きる世界を知り、いろいろな人を好きになること。どんな人に対しても、差別をしないで付き合うことができるように伝えてきました。最後に、寛容な心を持つということ。これは人を好きになることに似ていますが、他を受け入れることです。それは人だけではなく、異なる文化、風習、考え方も含めてです。私は来日の度に、日本の洗練された文化、そして日本人の奥ゆかしさは素晴らしいものだと感じます。
――「人を大切にする」とのことですが、テタンジェ社がシャンパーニュ業界のなかで、スタッフを大切にするという評価が高いのはそのためでしょうか。ご自身は社長、経営者としてスタッフに対して、どのように接していますか?
まず、当社のスタッフは私の、つまりテタンジェの大切なファミリーです。ですから、スタッフが社長の私に尽くすのではなく、私がスタッフ全員の役に立ちたいと思っています。何事であっても人が関わることには、一番心を砕いています。つまり、私は一番謙虚な人間でいたいと思っています。例えば、社長は会社のトップで上から下を見るイメージがあります。いわばヒーローのように思われがちですが、私はヒーローというのはスタッフの上にいる社長ではなく、自分の仕事を忠実にする人だと思っています。我が社では、ボーナスを支給するときに、どの部署に属しているスタッフにも同じ金額を支給します。それはスタッフ全員が私にとっての大切なファミリーであり、職種による差別がないことをわかってもらいたいという思いがあるからです。社長として常に心に留めていること、それはスタッフ全員の幸せが私の幸せであり、テタンジェを召し上がるお客様の幸せが私をはじめとするテタンジェファミリーの幸せであるということです。
――テタンジェには、アーティストがボトルをデザインした「テタンジェ・コレクション」があり、「プレリュード」、「ノクターン」といった音楽にちなんだ名前を付けるなど、芸術と深く関わりがありますが、ご自身の感性や精神性の高さはどのように培われたものですか?
私の母は、アーティストでした。詩を書き、絵を描いていました。私は小さい頃から母の影響で感性が磨かれたのだと思います。母はシャンパーニュ地方の東、アルデンヌ出身ですが、私は、その同じアルデンヌ出身の詩人アルチュール・ランボオ(Jean Nicolas Arthur Rimbaud)が大好きです。彼の作品はもちろんですが、ある一定の期間だけ詩を書き、筆を折った後は、武器商人としてアフリカに渡るという、波乱に富む人生にも魅了されました。ランボオがとても好きだったので、彼の母と妹の名前、ヴィタリー(Vitalie)にちなんで、娘にも同じ名前をつけたのです。ヴィタリーという名前は珍しい名前なのですよ。(笑)
――ランボオの他に好きなアーティストはいらっしゃいますか?
ニコラ・ド・スタール (Nicolas de Staël) が好きです。それは、画家としての本能が体の中から沸き立つような力強さを感じるからです。作品から炎が出ているような感覚です。彼は41歳で自殺しましたが、自分の絵の中の炎に燃やされて亡くなったのではないかと思うほどです。他にも、バスキア、ヴィヤール、ルオー、モーリス・ドニなどが好きです。
――テタンジェ・コレクションの次のアーティストについて教えていただけますか。
現時点では、まだ誰と特定はしておりませんが、これまでに登場していないアーティストの起用を考えています。例えば、イタリア、イギリス、インドのアーティストです。
――では、これまでのテタンジェ・コレクションで、特に思い出に残るコレクションはありますか?
それはもちろん全部です。ただ、第6作目のハンス・ハルトゥンク(Hans Hartung)の生き方に共感します。ハルトゥンクは、ナチに対して抵抗し戦った政治的意識の高い人でした。アーティストでありながら、政治に関わった人は珍しく、ランボオと同じ、彼の生き方というものを忘れてはならないと思います。また、最新のコレクションはアフリカのアーティスト、アマドウ・ソウ(Amadou Sow)のものですが、私自身アフリカを心から愛しています。なぜなら、アフリカには詩の題材になるもの、どこまでも続く大地、流れる河、地上を包み込むような空と風、そこに宿る魂があるからです。新たな大陸へのオーバーチュア、アフリカへの冒険とテタンジェ社の未来を黒いボトルに託して、「宇宙の真珠」と名付けたボトルが、昨年コレクションに加わりました。
――最後に、テタンジェ氏にとって「冒険、挑戦、貢献」とはどのようなものでしょうか?
まず冒険についてですが、それは6年前に一旦売却されたテタンジェ社を買い戻したことです。それはつまり、私たちテタンジェファミリーだけではなく、当社で働くスタッフやお客様といった、シャンパーニュ・テタンジェ社に関わる全世界の人に責任を持つことであり、今も続いている私の冒険です。そして、挑戦については、やはりテタンジェ社を大きくしてゆくことが私の挑戦です。最後に貢献については、ミッションという言葉に変えて述べたいと思います。最初にお話しました、シャンパーニュを通して幸福を運ぶこと、それが私のミッションであり、結果、社会貢献につながることだと信じています。
ピエール・エマニュエル・テタンジェ
Pierre-Emmanuel TAITTINGER
シャンパーニュ・テタンジェ当主。初代当主ピエール・テタンジェの孫にあたる。父は元ランス市長で法務大臣、母はアーティストという家庭に育ち、ランスの大学を卒業後、パリの大学院でMBA取得。1976年に事業に参加。絵画、文学、詩、音楽など芸術全般に造詣が深い。
Brut Reserve
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Prélude Grand Cru
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Nocturne Sec
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Comtes de Champagne Rosé 2004
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他にブリュットロゼ、ミレジムがある。
日本リカー株式会社
http://www.nlwine.com/
Text:Harumi Kono
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