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友情と愛情を分かち合うとき
ポール・ポンタリエ シャトー・マルゴー総支配人兼最高技術責任者

世界一のエレガンスを持つと称される赤ワイン「シャトー・マルゴー」。
文豪ヘミングウエィが孫娘にその名を与え、思想家エンゲルスには「私の幸せはシャトー・マルゴー1848年」と言わしめた官能的な味わい。
そのシャトー・マルゴーの総支配人兼最高技術責任者ポール・ポンタリエ氏が発起人となり、4社のインポーター協力の元、東日本大震災及び福島原発事故の復興支援のため、チャリティのガラディナー及びオークションが東京・代官山「メゾン・ポール・ボキューズ」にて、次に、チャリティガラディナーが福島の「ウエディング・エルティ」にて、それぞれ開催されました。このチャリティオークションのために、シャトーから貴重なヴィンテージを携えて来日したポール・ポンタリエ氏と、同氏の次男で香港在住、マーケティング担当のティボー・ポンタリエ氏に話を聞きました。

チャリティガラディナーとオークションについて

――このような素晴らしいチャリティガラディナーとオークションの開催は、日本のシャトー・マルゴーファンにとってとても大きな喜びです。改めてオークションを開催するお気持ちをお聞かせいただけますか。また、今はまだ日本人でも福島へ行くことを躊躇する人が多いなか、福島行きを決断された最大の理由はなんでしょうか。
まず、第一に長い間、日本の多くのワインファンの方々がシャトー・マルゴーを愛してくださっていることへの感謝の気持ち、そして、東日本大震災及び福島原発事故の復興への強い願いがチャリティオークションをしようと決めた理由です。東日本大震災、福島原発事故以来、私たちに何ができるかを考えました。ボルドーから義援金を寄付することはできますが、それだけでは十分ではないと感じていました。そして、考えた末、私自身が日本に行くことが一番必要なことだとわかりました。それは、私が日本、特に福島に行くことにより、福島が復興に向けて歩み続けていることを、フランスをはじめ、全世界の人々に伝えることができるからです。この大きな災害から復興へ進む過程の証人となることが大切なのです。日本のみなさんを心から信頼しているので、福島に行くことに不安や恐れはまったくありません。



――今回のオークションに出品される1868年のヴィンテージですが、これはシャトーに4本しかないヴィンテージですね。この1868年のヴィンテージについてご紹介いただけますか。
チャリティオークションの開催にあたり、私はぜひこれを持って来なくてはいけないと決めました。その理由は、1868年は日本の明治元年に当たるからです。この年は日本が世界に向けて門戸を開き、新しい一歩を踏み出した記念すべき年です。ですから、復興への第一歩に相応しいと思いました。現存する4本のうち1本をこのチャリティオークションで落札していただくことは、日本とフランス、両国のワインの歴史に刻まれる出来事にもなります。

――オークションへの出品ヴィンテージ、またディナーでサーブされるヴィンテージについて、特に好きだったり思い入れのあるヴィンテージはありますか?
すべてのヴィンテージが好きです。ワインはテロワールが表現するもので、それは年によって異なります。どのヴィンテージの個性も大好きです。例えば、一人の作曲家、モーツァルトは数えきれないほどの名曲を作りましたが、それぞれに魅力があるのと同じです。マルゴーという同じテロワールから、違った年に生まれるヴィンテージは、すべて私にとって深い思い入れがあります。ただし、父親として思い入れのあるヴィンテージは、子供たちが生まれた1983年、86年、96年です。今回のガラディナーでは、飲み頃を迎えたヴィンテージを揃えました。偶然、長男と長女のバースデー・ヴィンテージ83年と96年があります。次男のティボーのバースデー・ヴィンテージ86年はサーブされないので、代わりにティボー本人を連れてきました(笑)。

――ユーモアのエスプリを交えて語るポンタリエさんに、人生とワイン作りにおける冒険について伺わせてください。
人生においての冒険、重要なことであり難しいことですね。私は人生において’L’amour’(愛情)と’L’amitie’(友情)を大切にしています。自分の人生において、周りの人たちにどれほど愛情と友情を与えることができるかどうか、周りの人たちへの興味を持ち続けることができるかどうかが、人生で終わりのない冒険です。このチャリティオークションも、私にとって日本の皆様への愛情と友情を分かち合う冒険の一つです。
次に、ワイン作りにおいての冒険は、毎年ヴィンテージを作ること、これがワインメーカーとしての冒険です。毎年のヴィンテージは、子供と同じです。同じ親から生まれても、それぞれの個性の良いところを最大限に引出し、育てることです。自然や天候は私たちがコントロールできませんが、私たちがコントロールできる技術面などをさらに改善してゆくことが私の冒険です。

ティボー: シャトー・マルゴーの長い歴史、マルゴーの自然や文化が融合したテロワール、つまりマルゴーのエスプリを、アジアの人たちに伝えてゆくことが私の終わりのない冒険です。私は、フランスをはじめ、ヨーロッパの人々は、マルゴーのエスプリを大変理解していると感じていますが、アジアの人たちがヨーロッパの人たちと同様にマルゴーを理解するのに、もう少し時間がかかると思います。アジアの人たちにマルゴーのエスプリを感情的に訴えてゆきたいと思います。このチャリティオークションを通して、アジアの人たちがマルゴーをもっと理解してくれたら嬉しく思います。

――シャトー・マルゴーのみならず、ポンタリエ氏はチリの「アキタニア」、「ポール・ブルーノ」、日本の「シャトー・メルシャン」など世界各地のワインのコンサルティング業務に携わっています。それはシャトー・マルゴーの、そしてポンタリエさんのワインメーカーとしての技術を他に伝えたいという思いがあるからですか。
コンサルティング業務は、私の技術を伝えるのはもちろん、一番の理由は、学ぶことを止めたくなかったからです。私は、ワイン作りは終わりのない挑戦だと捉えています。ですから今でも学ぶことがたくさんあります。違うテロワールや他のワインメーカーに接することにより、マルゴーと違う環境で学びたかったのです。その結果、新しいアイデアや知識を吸収し、それをマルゴーに活かすことができます。
ワインはみんなで分けて飲むものです。ワイン作りにおいては、そのノウハウを共有することが大切です。それぞれのテロワールが表現するエスプリを世界中のワインメーカーが持つ情熱と分かち合う、その経験がマルゴーに還元されてゆくのです。
ただ、最近は体力的なこともあり、以前に比べるとコンサルティング業務に携わる時間は少なくなりました。健康な体でワインを作ること、家族と過ごす時間を優先しています。健康でいるためには、美味しいワインを飲むことです。そして日本、特に沖縄は長寿の人が多いと聞きましたので、沖縄の文化について知りたいと思っています。

――シャトー・マルゴーは言うまでもなく、長い歴史を守り続けていますが、今年から新しい醸造責任者、トーマス・ド・チ・ナム氏を迎えたことにより、シャトー・マルゴーに新しい風が吹くように思います。伝統のなかで新しい人や考え方を受け入れることについてはどのように考えていますか?
そうですね。前任者のフィリップ・バスコールはカリフォルニアへ渡りましたので、トーマス・ド・チ・ナムを迎えました。彼はマルゴーのエスプリをよく理解しています。そしてポイヤックの「シャトー・ピション・コンテス・ド・ラランド」での20年近い経験をもとにした、彼の考え方を取り入れたいと思います。ワインの神髄であるテロワールは変えることができませんが、私たちは、テロワール以外のもの、人、技術、作り方は、変化を受け入れる柔軟な姿勢を持っています。

――プリムールの価格やサザビーズやクリスティーズといった世界的なオークションでシャトー・マルゴーに高い値段がつくことに関してはどのように思われますか。
満足と不安を感じます。まず高い値段がつくことは、世界でシャトー・マルゴーが認められた証拠です。一方で、あまりにも高い値段がついてしまうと、シャトー・マルゴーを本当に愛してくださるお客様全員が、買うことができなくなるのではないかという不安もあります。いづれにしても、シャトーが価格に介入できないので、見守るしかありません。

――1997年以降、グランヴァンのマルゴーと、特にセカンドワインのPavillon(パヴィヨン)が、飛躍的に品質が向上したと言われますが、そのことについて何か特別なことをされましたか。

97年以降に特化しているわけではありません。それは80年代から少しずつ品質が良くなっていることの結果です。あるときから急に激変するということはありません。例えば、私がマルゴーで働き始めた頃は、全生産量のうち、マルゴーが3分の2(約66パーセント)、パヴィヨンが3分の1(約33パーセント)という割合でしたが、90年にはマルゴーが40パーセント、パヴィヨンが60パーセントとなりました。その理由は、原材料のブドウを低収穫量化し、さらにブドウを厳しく選果したことにより、グランヴァン・マルゴーの生産の割合を抑えると同時にクオリティが上がり、グランヴァンに使われていた良質のブドウが、セカンドのパヴィヨンに多く用いられることになりました。また、97年にはサードワインが登場し、グランヴァンとパヴィヨンのクオリティがさらに上がったので、1997年というヴィンテージがクローズアップされたのかもしれません。グレート・ヴィンテージと言われる2009年ヴィンテージからは、サードワインが商品化されます。そして今はフォースワインが樽に入っています。これはサードワインを良くするためのワインで、年を追うごとに、パヴィヨン、マルゴー共に全体の品質が上がっています。

長い歴史と伝統、テロワールを尊重するシャトー・マルゴー。そのスタッフを束ねるポンタリエ氏は、総支配人として特別な経営手段はないと言います。「シャトー・マルゴーで働くスタッフ一人一人から、マルゴーに対する深い愛情と情熱を感じるからです。私は、彼らのマルゴーへの愛情と情熱を尊敬しています」。ポンタリエ氏をはじめとする、スタッフ全員の愛情がテロワールと融合し、この先もシャトー・マルゴーのエスプリを守り続けてゆくことでしょう。

 

ポール・ポンタリエ
Paul Pontallier

1956年ボルドー生まれ。パリ国立農業大学、モンペリエ高等農業学院を経て、ボルドー大学にてワイン醸造学の博士号取得。チリでのワイン作りを牽引、1983年よりシャトー・マルゴーにワインメーカーとして着任。現在、シャトー・マルゴー総支配人兼最高技術責任者。二男一女の父。

 

チャリティ・オークションの結果

シャトー・マルゴー、オーナー、コリーヌ・メンツエル氏、
(または)ポンタリエ氏とのシャトー・マルゴーでの試飲とディナーへの招待
 210万円
 Château Margaux 1868   230万円
 Château Margaux 1926  80万円
 Château Margaux 1919  90万円
 Château Margaux 1961(マグナムボトル)  110万円
 Château Margaux 1959 2本   90万円
 Château Margaux 1978 6本  110万円
 Château Margaux 1982  6本  120万円
 Pavillon Rouge 1982    12本   40万円
 Pavillon Blanc 2009
(ダブルマグナムボトル・日本発リリース)
 26万円

東京でのオークションの売り上げ1106万円と、ガラディナー代の収益の合計1400万円が、東北地方太平洋沖地震の義援金として日本赤十字社に寄付されました。

Data

協賛会社 (五十音順)
エノテカ株式会社、サントリーワインインターナショナル株式会社、株式会社ファインズ、株式会社徳岡、株式会社ひらまつ、RSN(リーデル)JAPAN株式会社

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