伝統とモダンをミックスさせた
クラシック回帰ムーヴメントの先駆者
リチャード・ジェームス
「リチャード・ジェームス」デザイナー
メンズ・ファッションの牙城と言えば、英国ロンドンのサヴィル・ロウ。100年以上続く老舗テーラーが軒を連ねるこのストリートの名は、日本においては「背広」の語源ともなり、いつの時代も男が審美眼を磨く、世界最高峰のステージであり続けてきました。ウィンストン・チャーチル、ナポレオン3世などといった歴史的人物からも愛されたテーラーが仕立てたスーツに袖を通し、その着心地の良さや生地の感触にかつての偉人たちを想うのは、紳士の粋で格別な楽しみです。一方、セントラル・セントマーティン美術大学出身のデザイナーたちに象徴されるような、エキセントリックで社会的なメッセージを発する現代の英国人デザイナーたちの存在は、近年この国を「クリエイティブ立国」と世に言わしめるのに十分な煌めきを放っています。
斬新なものと古き良きものが共存しているロンドンファッション。しかしほんの20年ほど前までは、斬新なものを若者が身にまとい、伝統的なものは年齢層の高い人々が着るもの、という方程式が存在していました。ところがそんな流れを覆し、新旧の架け橋を作った人物がいます。それがファッションデザイナーのリチャード・ジェームス氏。あえて老舗が軒を連ねるサヴィル・ロウに店を構え、伝統とモダンをミックスした「ニュービスポーク」スタイルを展開し、1990年代からのクラシック回帰ムーヴメントを作り出しました。
今年3月某日、そんなムーヴメントの先駆者であるリチャード・ジェームス氏が来日しました。2010年秋冬コレクションを発表したばかりの彼に、ブランドの魅力やファウストへ勧める秋冬の着こなしなどを伺いました。
――「リチャード・ジェームス」のスーツは、モヘアやベルベット生地、タイトなシルエット、鮮やかなカラーリングなど、ユニークな工夫が随所に施されています。なぜ伝統的なテーラーに、現代の要素を融合させようとされたのですか?
純粋に英国のテーラーを愛しているからです。私のデザインは、クラシックなものを発展させているものだと捉えていただければと思います。クラシックとモダンの境界線を越え、伝統を現代化しているのです。その結果、スーツから世代の垣根を取り払うことに繋がったのだと思っています。
――伝統的な店が連なるサヴィル・ロウに店をオープンされたのが1992年のことですね。老舗から見れば新参者ということになり、苦労されたのではないですか?
最初の数ヶ月は苦労しましたよ。サヴィル・ロウが今のように活性化されておらず、派手で明るい私の店はなかなか受け入れられなかった。しかし、サヴィル・ロウはロンドンで最も有名な場所のひとつ。私が掲げる“クラシック”というテーマにはピッタリでした。
――しかし、そこからクラシックとモダンの融合した「ニュービスポーク」が発信されたわけですね。
開店当時、コム デ ギャルソンやグッチなど、日本やイタリアのブランドがトレンドであり、若い人がクラシックなものを着るのが難しい時代だったんです。彼らの父親の世代が着るファションに近くなってしまうから。ところが、テーラーの服が若い世代に受け入れられ、若者がクラシックを着る時代が訪れたんです。つまり、ハイファッションからクラシックにシフトした。「見た目(ファッション)は年齢と関係がない」という概念が、幅広く受け入れられるようになったんです。
――では、30代~50代が中心のファウスト会員に対しても、リチャード・ジェームスのスーツで「特にお勧めするスタイル」というのは存在しませんね。
そのとおりです。服はどんな世代の人も必ず着るもの。好きなものを着ていただきたいんです。私は17歳でも70歳でも着こなせるものをデザインしていますから。あえて言うならば、体にフィットするものを選ぶということ。スーツを着て、いい気持ちになれるものが理想的です。年を重ねるごとに、なおさらそう感じてほしいと思っています。
――2010年秋冬のコレクションテーマは「メイフェア・カジノ」だそうですね。実はファウスト A.G.にはポーカーチームもあるんですよ。
彼らには、ぜひ今回のコレクションを着てカジノでプレーしていただきたいですね(笑)。これは1950~60年代、ロンドンのメイフェアにあったカジノからインスパイアされました。戦中の貧困した時代、唯一娯楽と贅沢が許されていたメイフェア地区に、プライベートカジノが存在していたんです。豪華なクリスタルのシャンデリアが施された部屋で、貴族とギャングが同じテーブルでゲームに興ずるという混沌とした世界……。服のデザインだけでなく、アクセサリーもトランプのサインがついたネクタイやチーフなどを展開しているので、プレーする際にはファッションに取り入れていただけたら嬉しいです。
――ファウストには“挑戦”という活動理念があります。最後に、ご自身が挑戦されていることをお聞かせください。
毎回のコレクションこそがチャレンジだと思っています。服を作るということは私の人生の大半を占めており、テーマを考えているときが最も幸せな時間。ファッションは“ファッショナブルだと受け取られること”が本質なのであって、トレンドを追いかけることではないですから。リチャード・ブランソンだったら、もっと明確な目標などを語るのでしょうけど、私はデザイナーなのでこのくらいにしておこうと思います(笑)。
リチャード・ジェームス
Richard James
1953年、英国サウス・ウェールズ生まれ。ブライトン美術大学卒業後、ロンドンの有名セレクトショップ「Browns」に勤務。独立後、1992年にショーン・ディクソンと共にサヴィル・ロウにショップ「リチャード・ジェームス」をオープン。伝統と現代ファッションを融合させた新しいスタイルでサヴィル・ロウを牽引する若いパワーとして注目される。ダニエル・クレイグやヒュー・グラントなどの著名人にも支持され、2007年には海外初進出となる東京店をオープンさせた。
リチャード・ジェームス東京
東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア1F
Tel.03-5413-0054
http://www.richardjames.jp/
掲載商品の問い合わせ:ロンナー株式会社 03-3494-3571
Photo:Kentaro Oshio (portrait)
Text: Megumi Inoue
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