レストラン創りこそが趣味の集大成
株式会社スティルフーズ 代表取締役
Stillfoods inc. - President
鈴木 成和
六本木けやき坂にある「37 Steakhouse & Bar」。21日間かけて、じっくり熟成させたオーストラリア和牛のポーターハウスステーキや、赤身と脂身のバランスが絶妙なリブステーキなどがリーズナブルな価格で楽しめる本格ステーキハウス。「東京で最も美味しい肉を食べさせてくれる店」と、著名人たちの呼び声も高い。ポップでスタイリッシュな内装と、炭火で焼ける肉の豊潤な香り……全てが遊び心を感じさせ、居心地の良い空間を演出している。
この店のオーナーは、スティルフーズ代表取締役、鈴木成和氏。彼はこれまで、東京を始め関西、東北に数多くの本格リストランテ、ジェラートショップ、アメリカンダイナーを手がけ、レストランシーンを牽引してきた人物だ。彼は自らの脚で世界中の美味しいと言われる店を見て回り、現在も自身のこだわりを追求した20軒を展開。本場を知る美食家たちを魅了しつづけている。
-━━今回の「37 Steakhouse & Bar」を創る上でのこだわりは?
ステーキハウスですから、やはり肉にはこだわりました。今、東京で「肉を食べる」というと、大抵、鉄板焼きや焼き肉で、サシの入った柔らかい和牛を料理するのがメジャーですよね。でも、あれは言わば脂の味。私は肉本来の味をかみ締めて味わう赤身にこだわりたかった。
これまで私は、世界中の名だたる店を食べ歩いて来ましたが、なかでも最も美味い肉を食べさせる店が、全米No1と言われるNYのステーキハウス「ピータールーガー」です。今回、私はこの「ピータールーガー」を越える店を目指して、まずは肉から探し始めました。
輸入元を自分で片端から当たって、ラックアンガス牛と21日間熟成のオーストラリア和牛をリーズナブルに提供してくれるところをついに見つけたんです。ブラックアンガス牛は、元はイギリス・スコットランド原産で、ここでは特に、牧草で肥育された後、150~180日間の中期穀物肥育によって育てられた「ミドルフェッド(中期穀物肥育)」の牛を使用しています。赤身と脂身のバランスが絶妙ですね。オーストラリア和牛とは、日本からオーストラリアに輸出された純血和牛などが、アンガス種など現地の牛と交雑された牛でブラックアンガス牛より日本人に好まれる上品な味です。 現地での21日熟成に加え、さらにお店で約2週間熟成させるので、旨みがより凝縮され、本来の「肉」らしい味がします。そしてそれを炭火で一気に焼く。すると、外側はしっかり焼けて香ばしく、中は赤いまま仕上がり、肉本来の旨味を存分に味わえるのです。 嬉しいことに、お忍びで来店される著名人の方々にも「東京で一番おいしいステーキですね!」と言っていただけているんです。そんなことがあるから、レストラン創りは何事よりも楽しいですね!
━━日ごろからほとんどの食事を外でされるそうですが、レストラン巡りはいつごろからされているんですか?
高校生のころからですね。当時、芸能人や一流の文化人たちが集まっていた「キャンティ」や、幻の名店と言われる「アリタリア」などを渡り歩いていました。そのころから、自分でレストランを創ることを考え始めていました。
自分でレストランを経営するようになっても、ほとんどの食事をレストランで楽しんでいます。客として訪れながらも、料理はもちろん、接客、ワインの値段、内装に至るまで、ついつい観察してしまう。そして「自分の店だったら…」と、考えるのがすごく楽しいんです。自分自身が、最も厳しい目を持つ客であること。それが、お客様に満足してもらえる店創りにつながっていると思います。
━━仕事以外の趣味というのは?
ゴルフもするし、旅行に行けばビーチでも遊ぶ。あとは、アートも好きですね。
今回、この店に飾っている牛のイラストのポスターは、私自身がデザインしました。アンディ・ウォーホルのような鮮やかな色が、この店に似合うと思って。色の組み合わせにも試行錯誤を繰り返して、ベストなデザインになりました。
アートを買うのも楽しいですよね。以前、パリに出かけた時に、のみの市の一角で売っている作品が気に入ったので、その女性アーティストに声をかけて、その場にあるものを全て買い占めました。彼女、Helene Richardとは現在でも付き合いがあり、今回のお店のためにも、作品を提供してもらっています。
でもやっぱり、一番の趣味はレストランを創ること(笑)。幸せなことに「仕事=趣味」なんです。人から見たら、ワーカホリックな印象かもしれませんが、私にしてみれば、ずっと趣味を楽しんでいたら、いつのまにか仕事になっていた……みたいな感覚です。
ファッションや音楽、アートやインテリアなど、どれも楽しい趣味ではあります。でも、何に触れている時も、「これはあの店のイメージに合う、これはこの店に…」と、ついつい考えて、アイディアを膨らませている。「レストランを創る」というテーマがあるからこそ、色んなことを楽しめていると言えるかもしれません。
今回の「37」のような大きな店舗を、コンセプトから決めて一から創るのは、そうした趣味の集大成でもあるので、楽しくて仕方ないんですよ。
━━人生の目標、これから先のことで思い描いていることはありますか?
目標は持たないことにしているんです。夢や目標を先に立てると、それに縛られてしまうし、それができた瞬間に人生が終わってしまうでしょう。
そう思ったきっかけの一つが一昨年の出来事なんですよ。ハワイから帰ってきたときに、突然、物を飲み込めなくなってしまったことがあったんですよ。プリンすら食べられなくて、ジュースだけ飲んで過ごした。「これは食道がんだ」と思いこんで、「あと三カ月の命か…人生大したことなかったな…」なんて一人で悩みました。
まあ、三日後に食べられるようになったし、検査の結果はただの逆流性食道炎だったんで、今では笑い話になっているんですが。
だからいつも、「今、やりたいと思うことをやる」。そして、今、最もやりたいことは、来てほしいと思う人たちが、来てくれる店を創ることです。
常に「今」が一番ですよ。そうじゃないと、楽しくないですから。
鈴木成和(すずきしげかず)
株式会社スティルフーズ 代表取締役。慶應義塾大学卒業後、ホテル、リゾート業界を経て、1995年10月に(株)スティルフーズを設立。現在、銀座「NAPA」、乃木坂「PIZZERIA 1830」など個性的な路面店を手がけ、六本木ヒルズに「37 Steakhouse & Bar」、東京ミッドタウンに「ROTI Tokyo Midtown」、「Ba-tsu」、三井ガーデンホテル仙台にリストランテ「BAROLO」など、現在20店を展開する。また、レストラン運営だけでなく、戦略的な事業譲渡も行う。2006年に、関東各地に展開していたジェラートショップ、クレープショップを某化粧品会社へ譲渡。2007年には当時フラッグシップブランドであった、銀座や大阪・梅田のリストランテ数店舗と都内の高単価店舗などを同業の他社に譲渡。また、2008年には六本木のアメリカンレストランとホットドッグカフェを某商社に譲渡するなど、会社経営においても、その経営的手腕とセンスが注目される。
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