待っているのはデッド・オア・アライブ!?
成層圏からダイブする67歳の生き様
ミシェル・フルニエという男をご存知だろうか?
フランス軍の退役将校である彼は今年64歳。現役の冒険家でもあり、これまで10年近くの間、高度4万メートルからのダイビングに挑戦し続けてきたというファウストな男だ。この計画はフランス語で「le grand saut」(大ジャンプ)と名づけられ、カナダ(フランスでは当局が許可しなかったため)のサスカチュワン州で計画されてきた。2002年、2003年、2008年のいずれも悪天候の影響などで断念、または失敗したが、最近の彼の公式HPによると、今年中の再チャレンジをめざしているという。
フルニエ氏によれば、この挑戦の大きな目的は科学的な検証という。というのも高度4万メートルというほぼ成層圏上部からのスカイダイビングが実現すれば、例えばスペースシャトルの事故の際、宇宙飛行士を救助するためのシステム構築にも役立つというのだ。
実は彼の計画は、もともとフランスの国防庁が推進していたものだ。1987年、フランスは、ヨーロッパ全体で進められていた「ヨーロッパ・スペースシャトル計画」にあわせて、3万8000メートルからのスカイダイビングというプロジェクト(通称「S38」)への支援を表明していた。
そして、フランス軍でパイロットとパラシュート部隊の一員として活躍していたフルニエ氏は、このヨーロッパ・スペースシャトル計画のフランス代表の宇宙飛行士として、2人のうちのひとりに選ばれていた。ところが、1989年、スペースシャトル計画は頓挫、同時に支援も中止。そこで1992年に軍を退役したフルニエ氏は、個人的にこの壮大なプロジェクトの継続を決意したという。
いまでは日々、計画の実現を待ちながら心身のトレーニングを欠かさないフルニエ氏。南フランスにある自宅では毎朝、ジョギングやスポーツをし、また週末にはパラシュートで空を飛び、さらに毎日ヨガも行う。
「恐怖がない人間なんていません。ですから、恐怖をコントロールすることを、学ばなければならないのです。ヨガによって、恐怖、ジェスチャー、そして呼吸法を鍛錬しています」というフルニエ氏。さらにはフランス国内の軍事施設や、ときにロシアまで赴いて、高圧と低温の特殊環境下での訓練などを行っている。
では「le grand saut」プロジェクトを説明しよう。
4万メートルの上空へは、高さ110メートル、直径90メートルにおよぶ特注の気球に乗って上がる。7分25秒におよぶと計算されている落下の際、最大速度はマッハ1.5。その後、1200メートル付近でパラシュートを開き、地上に降りる。上空でのマイナス100度にもおよぶ超低温に耐えられる3層になった特殊服と4層になった手袋を身に着ける。この挑戦が成功すれば、4つの世界記録保持者(「最高高度」「最長」「最速」のスカイダイビング+気球の下で人間が飛行する最高高度)となる(公式HPによる)。
そう、冒険にアンテナの高いファウスト諸氏なら既にお気づきのように、これは現在中止を余儀なくされている、フェリックス・バウムガウトナー氏の「レッドブル・ストラトス」プロジェクトと事実上、成功を競い合う性質のものでもある。
終わりなき挑戦への原点とは何か?
いまのところ、今年2011年のチャレンジの日程は未定だ。その最大の要因は、1180万ユーロが必要とされる資金不足である。実現に向けて、いまも引き続き協力者を募集している。もし実施が決まった場合、フランスから1ケ月前にカナダへ出発し、毎日の天候をうかがいながら“その日”の決定を下す。ダイビング自体が天候に左右されるため、フルニエ氏が、いつ空から舞い降りるかの判断は、ぎりぎりの状況にならなければ決定できない。フルニエ氏によると、なによりスポンサー探しが難しい理由は、まさにこうした流動的なスケジュールにもある。
幼い頃から、空へのあこがれを強くもち宇宙飛行士になることを夢見ていたというフルニエ氏。そしてそれが彼の夢への原点にもなっている。
「何がここまで挑戦へ向かわせるのか、とよく聞かれますが、答えるのはとても難しいですね。ただ飛ぶことへの情熱、喜びは人一倍あるから、私にとっては、とても自然な行為なんです」
そして、彼は苦笑いを浮かべてこう続ける。
「曇りや雨で空を飛べない日などは、悲しくなってしまう」。その言葉はまるで、雨の日に外で遊べなくて憂鬱な少年のようでもあった。
Michel Fournier
1944年5月4日生まれ。67歳。退役将校、落下傘兵、冒険家。
1万2000mからのスカイダイビングで、フランスにおける記録保持者。
Michel Fournier – le Grand Saut
(ミシェル・フルニエ・オフィシャルサイト)
http://www.legrandsaut.org
Text:Faust:A.G.
Contribution:Chiaki Mitomi
Photos: DPPI/PHOTO KISHIMOTO
2011/09/29
CHALLENGE
-
Team UKYO 新体制を発表!
2年目のロードレースチームが頂点を目指す
2013/03/07 -
アイアンマンが日本に帰ってきた!
アイアンマン・ジャパン北海道、開催決定
2013/02/14 -
人類初! 成層圏からの超音速ダイブ
フェリックス・バウムガートナー、挑戦の記録
2012/12/27 -
三浦雄一郎、世界最高齢80歳でエベレストへ
MIURAエベレスト2013 始動...
2012/11/01 -
人類が成層圏からスカイダイブし音速を突破!
レッドブル・ストラトス成功の快挙!
2012/10/18 -
人類初の挑戦が10月8日ついに決行!
成層圏からのフリーフォール「レッドブル・...
2012/10/04 -
ついに本番間近!
成層圏ダイブ「レッドブル・ストラトス」、テスト成功!
2012/07/27 -
「世界を舞台に戦う」を掲げ
片山右京が新チーム体制をスタート!
2012/03/15 -
マセラティ号、大西洋横断で
世界最速記録を樹立!
2012/03/08 -
日本人初の北極点・単独・無補給・徒歩での到達へ
ファウスト冒険家賞の荻田氏、只...
2012/03/01 -
時速1000マイルの地上最速記録樹立へ挑む!
超音速自動車、英国で開発中
2011/11/17 -
まだ誰も見たことのない世界へ――。
ヴァージンが次に目指すのは、深海!
2011/10/20 -
最高齢・最多回数記録の偉業達成!
ヨットで世界を駆る、不撓不屈の77歳
2011/10/06 -
待っているのはデッド・オア・アライブ!?
成層圏からダイブする67歳の生き様
2011/09/29 -
命知らずの綱渡り冒険家
フレディ・ノック氏がギネス記録を更新
2011/09/22 -
ヴァージンの宇宙旅行に嬉しい続報
大気圏再突入モードのフェザー飛行に成功!
2011/08/04 -
フランスの"スパイダーマン”
世界一高いビル「ブルジュ・...
2011/06/23 -
表現者として競技で勝ちたい!
石川ヒロ
プロウェイクボーダー
2010/12/22 -
完走という喜びを分かち合うために
チェアウオーカーのレーサー長屋、K4GPへの...
2010/09/30 -
人生で学んだすべてが
“空のF1”に凝縮されている
...
2010/06/17 -
スペースシップ2が試験飛行に初成功!
「誰もが宇宙に行ける時代」、もはや秒読み...
2010/06/10 -
29年前のジェット機で達成!
航空機による世界一周飛行最速記録
2010/04/15 -
トライアスロンの最高峰!!
灼熱の溶岩台地を進むハワイ島アイアンマン・レース
2009/11/19 -
パワフル!エコ!ハイテク!
でもコンパクトな未来形プジョー
2009/07/29 -
パラグライダーと徒歩でいざ進め!
超タフで壮大なアルプス山脈横断レース開催
2009/04/23 -
忍法ムササビの術!?
超スリル飛行を実現する「ウィングスーツ」
2009/03/05 -
跨るのは馬ではなくゾウ!
陸上最大の哺乳類を操り勝利を掴め
2009/02/26 -
英国の誇りが、地球を救う!?
蒸気自動車愛好家たちの「最速」に賭ける夢
2009/02/05 -
「建物自体が最高のトロフィーさ!」
人類未踏のダイブに挑むスリル・アディクト
2009/01/29 -
心臓手術を3度乗り越えて!
自転車で南北アメリカ縦断の世界新
2009/01/08 -
地球をエナジーチャージする!?
レッドブル・エアレース・ワールドシリーズ200...
2008/12/25 -
人類史上初!
“神々の領域”エベレスト上空を、スカイダ...
2008/12/11 -
DKNYがスポンサードする
空前絶後のロケットレースとは!?
2008/11/27 -
民間ロケット初の地球周回軌道到達!
失敗3度、発射直前の延期を乗り越えて
2008/11/20 -
人力疾走で時速132km!
世界最速の自転車“リカンベント&rdq...
2008/11/13 -
厳寒の極地800kmを人力で競う南極点レース!
主催者曰く“参加者...
2008/10/02