13億人が注目!
ボルボが仕掛ける、最も過酷な世界一周ヨットレース
ボルボ・オーシャン・レース2011-2012
自動車メーカーであるボルボが、じつは船の業界でもかなりメジャーな存在であることをご存知だろうか。彼らが取り仕切るのは過酷なまでの世界一周ヨットレース。ボルボ•オーシャン•レース(VOR)と名付けられたそれは、世界中のシーマンに知れ渡っている。TV中継はヨーロッパを中心に13億人が観ているというから恐れ入る。我々の知らないボルボの世界がそこにあるのだ。
では、VORとは、いったいどんな競技なのか。
このレースは冒頭に記したように世界一周レースとなる。スタートはスペインのアリカンテという港で、昨年11月5日に外洋へと旅立った。最終目的地は英国のガルウェイで今年7月初旬にテープを切る予定だ。10カ所に寄港し、その9区間のレグを競う。得点はすべてポイント制。最高点30点から最後尾5点まで、5点刻みで与えられる。寄港地ではインポートレースもありそれも得点となるからそちらも手を抜けない。伴走船に乗ると身近でバトルを拝める。
おもしろいのは、ボルボは単なる冠スポンサーではないこと。ボルボ•カーズとABボルボペンタが共同で出資しレースの運営会社を営んでいる。つまり、景気がいいからとか流行だからとかで取り組んでいるのではない。そこに彼らの高いホンキ度が伺える。
寄港する都市は、アリカンテ(スペイン)、ケープタウン(南アフリカ)、アブダビ(UAE)、サンヤ(中国)、オークランド(ニュージーランド)、イタジャイ(ブラジル)、マイアミ(USA)リスボン(ポルトガル)、ロリアン(フランス)、ガルウェイ(英国)。
もちろん、レース自体伝統あるもので、かつてはウィットブレッド•ヨットレースと呼ばれていた。1993−94年のレースではヤマハ艇が参戦し、なんとクラス優勝している。そのレースでは3人の日本人がそれぞれ違うチームで戦っていたのだからおもしろい。
興味深いのは出場するヨットのスペックである。素材はフルカーボンファイバーで、クルマでいうところのモノコックボディのような構造からなる。要するにレーシングカー同様、軽量化と高い剛性を目的とし造られた。それでも波の衝撃は強く、バルクヘッドに穴が空いて浸水なんてこともある。その場合近くの港へ立ち寄り修復作業を行なうのだが、それもまた一苦労。カーレースのように常設したピットがあるわけではないから、予備パーツをコンテナ船で運んだり、巨大トラックで陸送したりする。今回はすでに第1レグでそれが起き、波乱の幕開けとなった。艇の大きさは70フィートで10名のプロセーラーがその上を動き回る。個人的な趣味で20フィート超の小型クルーザーを走らせているだけに、このサイズには唖然とする。外洋を走るのだから当然といえばそうだが、豪華クルーザーなみのサイズだ。
クルーは2交代制でセールを張ったり下ろしたりを繰り返す。セールの種類は3つあり、風の状況で使い分ける。ヨットは24時間進んでいるので、一回の睡眠は3〜4時間。だがそれもまともにとれるとは限らない。
そんなチームが今回6艇参加した。オリンピック出場など輝かしい戦歴を持つスキッパーを中心にレーシングヨット界の猛者どもが集結した。
参加チーム(国籍)
アブダビ•オーシャン•レーシング(UAE) |
カンペール•ウィズ•エミレーツ•チーム•ニュージーランド(スペイン/ニュージーランド) |
グルパマ•セーリングチーム(フランス) |
プーマ•オーシャンレーシング•パワード•バイ•BERG(USA) |
チーム•サンヤ(中国) |
チーム•テレフォニカ(スペイン) |
今年3月、第4レグのゴールとなるオークランドでこのレースを取材した。レースウィークとなるその週は毎日がお祭り騒ぎであったのが印象的だ。ヨットの街ならではの歓迎ムードであった。
寄港中に彼らは艇の点検と補修、それと次のレグの準備を行なう。寄港といっても決して休む時間があるわけではない。もっと言えば、その間に第4レグの表彰や、港内でのインポートレースが行なわれる。
そしてこの原稿を書いている6月現在、リスボンからロリアンまでの第8レグが終了した。順位はグルパマ、カンペール、プーマ、アブダビ、テレフォニカ、サンヤとなる(総合順位は別途記載)。詳細はVOR 2011-2012のホームページでチェックできるが、ここでは動画やポットキャストも用意されているので是非チェックしてほしい。
ところで、なぜボルボはモータースポーツではなくヨットレースにそこまで関わっているかというと、直接的にはやはりブランドイメージの構築が目的。特にヨーロッパではボルボの名が大きく取り扱われるVORのイメージが広がっているらしい。
ボルボは日本では“安全”とか“デザイン”というイメージが強いが、ヨーロッパではそれだけにとどまらず、“エモーショナル”や“ダイナミック”という言葉があがる。確かにこれだけのアドベンチャーレースを見せつけられれば、そこに結びつくのは不思議じゃない。
XC60以降のS60やV60はまさにそんな世界を感じさせる。エモーショナルなデザインとダイナミックなハンドリングはVORに通じるといっていい。となると、今後もその部分に多いに期待できる。今年3月のジュネーブショーでワールドプレミアされたV40もかなりスポーティに仕上がっているようなので、ますます期待したいところである。
注釈:最終戦は、39年の歴史の中でも稀にみる僅差での戦いとなった。白熱のレースを見事制したのは、フランスのグルパマチーム。VOR2011-2012の公式ホームページには、約1億900万人が訪れ、関連記事が約51,000本以上紹介されたほか、Facebookページでは約20万人ものファンを獲得するなど数多くの注目を集めたなか、幕を閉じた。
From Faust A.G. Channel on [YouTube]
最終総合順位
1位 | グルパマ•セーリングチーム |
2位 | カンペール•ウィズ•エミレーツ•チーム•ニュージーランド |
3位 | プーマ•オーシャンレーシング•パワード•バイ•BERG |
4位 | チーム•テレフォニカ |
5位 | アブダビ•オーシャン•レーシング |
6位 | チーム•サンヤ |
ボルボ・オーシャン・レース2011-2012
開催日:2011年11月5日~2012年7月上旬
http://www.volvooceanrace.com/en/home.html
Text:Tatsuya Kushima
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