女性初! 南極大陸、人力単独横断
自分の限界を越えて達成!
日に日に暖かくなり、夏を迎えようとしている日本とは打って変わって、地球上で最も寒冷な南極大陸。一年中雪と氷に覆われたこの大陸にひとりで挑んだ女性冒険家がいる。フェリシティ・アストン、女性で初めて南極大陸人力単独横断を果たした英国女性冒険家だ。
「体力的にもタフだったけど、メンタル面の方がさらに苦しい挑戦だった」。達成後、そう語った彼女の冒険は、ロス棚氷から南極点を経てロンネ棚氷へ、およそ1700km。昨年11月25日に出発し、レベレーツ氷河から南極横断山脈を越え、南極点へ。その後、ロンネ棚氷に向けて歩を進める。カイトや機械など使わず、約85kgの荷物を積んだ2つのソリを引いての孤独な59日間の旅だ。行く先には自然の驚異と孤独とが待ち構えていた。
あたりはマイナス30度におよぶ気温。出発からまだ間もないころ、レベレーツ氷河の狭い場所を通過中、冷たい滑降風が彼女を直撃した。「テントの中に座って、留め具をジッと見ながら考えたの、もしテントが今壊れたら……。私の近くに飛行機が救助に着陸できるような場所なんてないと思うと、ふいに自分がいかに辺ぴな場所にいるのか実感がわいたわ」。
旅の早い段階で、ライターが壊れるというアクシデントにも見舞われた。火がつかないということは、つまりストーブをつけられず、水を作るために雪を溶かすことも、水を飲むこともできないということだ。幸い手元にはマッチがあり、大事には至らなかったが、こういう些細な問題が悲劇的な結末を引き起こしかねないということをひしひしと感じ、それがストレスとなってアストン女史に大きくのしかかっていた。
自分の限界に挑む、孤独な冒険。
彼女がこの旅を決めた理由について「人が何かを行なっているのを読むと、いつも私は自分はそれを行なったかと自問するの。今回は、自分の限界を見つけたかった。この冒険が始まって、毎朝私は限界にいたわ」と語った。「朝になると決まって不安がわいてきたの。それをはねのけるために起きてすぐ音楽を聞いたりして、頭の中から不安を押し出そうとした。一度テントの外へと踏み出せば、あとはスキーに乗って、道を進めばいいだけだし、それを楽しむこともできた。だけど、毎朝テントから出るのはキツかった」。
見渡す限りの白銀の世界、孤独感に苛まれ、彼女がどんな心境で朝を迎えたのか、それを経験しない者には想像もつかない。だがどんな状況の下でも、彼女の体力や精神力に頼る以外、道はない。自分の決断、気の持ち方がすべてだ。
「ひとりでいると言うと、とても簡単なことのように聞こえるけど、一日中誰にも会わない日なんて考えられる? それが3週間も続いて、孤独の恐ろしさを痛感したわ」。
南極点を通過し、3日が経ったころ、地平線に黒い点が見えた。「初めのうちは、氷かドラム缶か何かだと思ったのだけど、それはだんだん大きくなってきて、結局、それが2人組の冒険家だということがわかったの」。こうして出会ったのは、なんと当コーナーでも紹介したオーストラリアの冒険家デュオ、キャス&ジョンジーだった! 氷しかない南極大陸の只中で、女性世界初の単独横断に挑む彼女と、やはり世界初の往復記録に挑む2人が出会ったのは、まさに奇跡の遭遇というほかはない。
「彼らとは初めて会ったのに、まるで古い友人にでも会ったかのようにお互い抱き合ったわ」。それは孤独な挑戦者たちのみが、特別な環境の中で分かち合うことのできる高揚感と連帯感だった。
今年1月23日、ロンネ棚氷に到着。ついに世界初の偉業を成し遂げた。59日にわたる孤独との戦いを終え、「一番重要なことは、私は自分の中にある恐怖心に打ち勝ったということ。私はこの瞬間を忘れないわ。この記憶は、将来私を次の冒険へと導いてくれるでしょう」とゴール直後の心境を振り返った。
From Faust A.G. Channel on [YouTube]
ひとりで自然と向き合ってきた彼女だが、冒険を終えた現在の心境についてこう語った。「単独冒険をもう一度したいかと聞かれれば、答えはノー。なぜなら自分は真の単独冒険家ではないとわかったから。私はこうした経験を仲間と共有して楽しみたいの」。彼女は、限界にチャレンジしたからこそ自分に出会えた。それは己の限界を知り、ひとりでは生きて行けない自分と出会ったということ。その弱い自分との出会いが(驚くべき事に)更に次の冒険へと彼女を駆り立てている。
読者ファウスト達の心にも深く共感できる部分があるのではないだろうか。
フェリシティ・アストンおよび今回の冒険の公式サイト
www.kasperskyonetransantarcticexpedition.com
www.felicityaston.co.uk
Text: Chiaki Nishimura
Photos&Video: Kaspersky ONE Transantarctic Expedition
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