Vol.4
悪路を進むトライアスロン「エクステラ」が楽しい
高島、稲本が始めた「M.I.T」、井上がキャプテンを務める「トライアスロンボーイズ」など、現在のトライアスロンブームの核の一つは間違いなくビジネスエグゼクティブたちが中心となるチームと言える。それを語る上で「alapa(アラパ)」というチームも忘れてはならない。アラパを牽引するひとり小林正晴は、プロの白戸太朗(インタビューはコチラ)をはじめ、前出の高島、稲本、井上らとともにブームを牽引する「アスロニア」(紹介記事はコチラ)の創設メンバーの一人でもある。
それほどにのめりこむ小林でありながら、初めてトライアスロンに挑戦したきっかけは、誰よりも突拍子なく、無謀とさえいえるものだった。
現地で自転車はじめ装備一式を揃えた
「初めて出場したのは忘れもしない2年前、2008年のホノルルトライアスロンです。白戸太郎さん(以下タロウさん)にだまされたようなものですよ(笑)。それまでは毎晩朝まで飲み歩いてるビジネスマンでしたからね(笑)。当時の会社のパートナーである専務に、『会社の10周年を機に、ハワイ旅行をプレゼントするからトライアスロンに出て、楽しんで来い!』って言われて、『どうせ冗談でしょ。ラッキー』って、ハワイに完全レジャーモードで行ったんです。
僕は大学時代、体育会に所属していたわけでもなかったから、トライアスロンなんて想像もできない別世界のことだった。だから、日本からは何も持っていかなかったし、トレーニングなんてこれっぽっちも。なのに、タロウさんと現地で合流したら、なんだかわからないうちに現地のトライアスロンショップに連れて行かれ、バイク借りて、ジャージ買って、ウエット買って…現地ですべて揃えたんですよ」
笑い話のように小林は話すが、そのまま本当に出場してしまうあたりはさすがというべきか。しかし、プロである白戸太朗(当クラブのスーパーバイザーでもある)には完走できるという確信がどこかにあったに違いない。事実、小林は完走を遂げる。といっても「死にそうに苦しい思いをした」そうだが。
「今からもう一度やってやる!」と叫ぶ
「スタートラインに立っている自分が理解できない感じ。レースは短いスプリント※。でもスイムはぜんぶバタ足のみ。肩の怪我で全く泳げる状態じゃなかったので。スイム終わった時にはもうフラフラです。バイクもランもバンバン抜かれる。『なんで俺はこんなことしてるんだ』と何度も自問自答しながら・・・でもなんとか完走した。
ゴールテープを切った後はハイになっていて『今からもう一回できる!』『今からやったら、もっと早く走れる!』って叫んでました。本当に気持よかった! ホノルルは魅力ある大会です。最初が違う大会だったら、続けていなかったかもというくらい。レース中は死ぬほど辛かったのに、来年も絶対に出場するってすぐに決意していたんだから(笑)。そして、このホノルルトライアスロンはその翌年からアスロニアが主催することになります。イベントとしても今後の可能性は非常に大きいし、会場のアラモアナパークは十分なポテンシャルを持ち合わせているロケーションだと思っています」
こうして小林は、ゼロの状態から見事スプリントを完走。フィニッシュの感動は大きなものを得た。翌2009年はオリンピックディスタンス※にエントリーするも、不運にもスイムが中止になり、デュアスロン※(この模様はQuest「愛と情熱のトライアスロン」で)に。その後、国内で4レースに出場した。そして3年目となる今年2010年5月、ホノルルでオリンピックディスタンスに出場。思い入れも強い大会なので、レース前のトレーニングはこれまで以上に追い込み、意気揚々とハワイに乗り込んだ。
「ただ今年の調子は良くなかった…。バイクの途中で腰が痛くなって、そこから全然だめ。ランも腰が痛くて足は出るけれど、全く走れず。(10kmを)45分以内で走るつもりだったのに、1時間近くかかってしまって。苦手なスイムがよかっただけに悔しかったですね。実はホノルルに行く直前にバイクのポジションを変えたんです。それが腰に負担をかけちゃったみたいで。タイムを少しでも縮めるために試行錯誤した結果なのでしょうがないですが、まだまだ勉強ってことですね。いい時も悪いときも、それなりの成果を出して楽しめるようになっていきたいです」
今年の大会直前には、ゴルフとお酒もしっかり楽しんだという小林のトライアスロンのモットーは「ストイックになり過ぎない」ことと「目標を明確に設定しないこと」。ストイックになりすぎずに、大らかさをもって挑んだ方がいい結果が出せるケースも多いと言う。
という一方で、練習は曜日と時間を決めてチームのメンバーと一緒に楽しくがっちりやる。持論は「誰でもトライアスロンは楽しくできる!」だ。「トライアスロンはマラソンの先にあるものではなく、もっとカジュアルに楽しめるスポーツ。実際にスイムとバイクは体への負荷も低いですし、ランは51.5キロであれば10キロ。すこしスイムとジョギングを楽しみながら練習すれば誰でもできるスポーツですよ。」
また、小林の「ホノルルトライアスロン」を楽しむ姿勢は人一倍だ。10歳になる長女と8歳の長男を、昨年と今年キッズトライアスロンに出場させている。主催のアスロニアのメンバーとしては、参加者はもちろんのこと観客や応援客が増えるよう、エキスポやアトラクションも充実させ、家族連れの方にももっと楽しんでもらえる大会を作っていきたいと情熱を燃やす。
そして、もう一つのトライアスロン「エクステラ」※(クエスト#012参照)にも熱中している。
“いい大人が泥んこ遊びしている”エクステラが好き
「アイアンマンにはもちろん出たいけれど、僕はまだまだゆっくり目指しますよ。それよりエクステラのマウイ大会に出たい。マウイ大会は世界各国の大会で実績を出してスロット(出場枠)を取らないと出られない。ハワイ・コナのアイアンマンと一緒で、エクステラの最高峰なんですよ。エクステラはコースが山道なんで、確かにめちゃめちゃハードだけど、MTBで悪路を楽しみながら進むバカバカしい感じがいい。子どもの頃に戻るような泥んこ遊び的な感覚があって。スポーツというよりは“ハードな遊び”というイメージかな。トライアスロンとはまた別の魅力なんです。今年は4月にニュージーランド・ロトルアのエクステラにも出てきましたよ。8月には丸沼のジャパン大会も出ましたしね。トライアスロンをする人は、みんな本当にいい顔をしているんですよ。なんだろうな? 子供のような無邪気な顔の奥にインテリジェンスが漂っているような感じですかね。レースの後では特にね」
用語集
※ホノルルトライアスロン…ハワイ・ホノルルで毎年5月に開催される大会。主催はアスロニア。
※オリンピックディスタンス…スイム1.5km、バイク40km、ラン10kmのトライアスロン。
※スプリント…スイム750m、バイク20km、ラン5kmのオリンピックディスタンスの半分のトライアスロン距離。
※デュアスロン…ラン、バイク、ランのレース。主にラン5km、バイク40km、ラン5kmの距離。
※エクステラ…トライアスロンのオフロード版とも言うべき競技。スイム、MTB、トレイルランから構成。トライアスロンのように整備された道や海で行われず、自然の姿が残る海・湖・山・森などで開催される。
ホノルルトライアスロン公式サイト
http://honolulutriathlon.jp/
こばやしまさはる
株式会社ワイズインテグレーション取締役会長 兼 株式会社サニーサイドアップ事業開発担当バイスプレジデント。プロモーションやPR戦略における企画・立案等のコンサルティングおよびプロデュース、アスリートやスペシャリストに対するマネジメント業務、各種イベントの企画製作などを行う。株式会社アスロニア取締役。
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Text:Faust A.G.
Photos: Kazuhiro Watanabe
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