インターネットを通じた寄付が
世界の貧困地域を支援し、新しい市場を開拓する!
「コペルニク」というNPO法人をご存知だろうか。元国連スタッフとして世界の最貧層を見つめてきた中村俊裕が、2010年に立ち上げたこのNPO法人の活動は、一言で言うならば「世界の最貧層と途上国向けのシンプルなテクノロジーを繋げること」だという。……しかしそう言われても、「それってどういうこと?」とピンと来ないかもしれない。まずはその具体的な事例を一つ挙げてみよう。
ここに、東ティモールの小さな村がある。アタウロ島という島にあるその村にはおよそ2000世帯が住んでいるが、孤立地帯であり、電気が通っていない場所がほとんどなので、夜は灯油で明かりを取り、早々に眠る。暮らしている人々の大半が漁業や農業に従事しており、その収入は天候に大きく左右されるのが現状だ。彼らの暮らしに必要なのは、安定した明かり。それによって子どもたちは学ぶことができ、天候に左右される収入の代わりに、夜まで内職をすることができる。電気が通っていない彼らの村に必要なもの――それは電気を必要としない明かりだ。
途上国の東ティモールには存在しないが、先進国には存在する、ソーラーライトが必要だとするリクエストを現地NGOより受け、コペルニクは早速、そのプロジェクトを立ち上げる。現地NGOが選んだソーラーライトの種類と個数によって、プロジェクト全体の予算を出す。
「ソーラーライト200個の費用+輸送費・関税など+手数料」
この価格をインターネット上に公開し、寄付を求める。企業からの寄付はもちろん、個人からの寄付もでき、例えば「ソーラーライト一個」という形で寄付をすることもできるし、自分の希望金額を決めて寄付をすることも可能だ。こうしてコペルニクはソーラーライトのメーカーから一括して買い上げ、現地へと運ぶ。ソーラーライトは、無償で配られるわけではなく、現地NGOの力を借りて販売される。その際の値段はもちろん、先進国と同額ではない。現地の人々の手に届くよう、アタウロ島の場合は現地では先進国での通常価格の半額近い$12.5で売られる。この金額は彼らが購入する灯油3か月分に相当するが、長く使い続ければ、あっという間にコストを回収できる価格に設定しているのだ。「無料で配るのではなく、販売することによって、現地の声を聞くことができる」と、代表の中村は言う。あえて販売することによって、現地の経済に混乱を与えないことを重視しているのだ。ここに、ただのチャリティでは終わらない、新しい広がりがある。
最貧層という新しい市場
現地で商品を販売することによって、見えてくるもの――それは彼らの本当のニーズだ。
ただ無料で与えられたものであれば、現地の人々は何も文句は言わない。無料だから、多少使い勝手が悪くても、黙って使っている。しかし購入したものであれば、現地の人々も一人の顧客。寄付をした人、された人ではなく、メーカーと顧客という対等な関係になる。すると「使い方が分かりづらい」「もっと他の色のものがいい」など、彼らも本音でぶつかってくる。ここに、新しいチャンスが存在する。
現在、先進国内では、モノが溢れかえり市場は飽和状態にある。新たな市場として途上国に目を向ける企業も多い。しかし「何を、どういうルートで、どんな価格で売るか」というはじめの一歩でつまずき、途上国進出のプロジェクトそのものがとん挫してしまうケースも多いという。コペルニクは、そうした企業の途上国進出のコンサルタントも手掛けている。代表の中村は、現在インドネシアの都市ウブドに本拠地を置き、現地で活動を続けている。インドネシアの他にも、アフリカ、アジアをはじめ世界11か国でプロジェクトを実施しており、現地のNPOとの繋がりも強い。現地NPOと協力しながら、現地の人々との信頼関係を築いてきた彼らだからこそ、見えてくる本当のニーズがある。
ただの慈善事業としてではなく、ビジネスとしての視点を持つことによって、現地の経済発展を助けるとともに、先進国にとっても、ただのCSR(企業の社会的責任)を果たすだけでは終わらない、新たな市場を開拓することに繋がっていく。それによって、単発的ではなく、長く続く独自のシステムが構築されているのだ。「これまでは、ほんとうに必要としている人の元に、必要なテクノロジーが届かなかった。しかし、コペルニクは企業・大学などテクノロジーを持つ人々の元から、現地のNPOに直接、テクノロジーを届けることができる。そして、インターネットを通じた寄付が、そのまま彼らの暮らしを変える力になっているのです」と、中村は言う。
あまりにも遠いため届かないと思われていた、世界の貧困への活動や寄付。しかし私たちの身近なインターネットを通じて、直接的に、彼らの社会に働きかけることができる。 そして、そこには世界の貧困を解消しながら、新たな市場を開拓する可能性も広がっている。それは、大いなる貢献であり、新たな挑戦にもつながる。Faustにとっても魅力的な活動ではないだろうか。
Text:Sayoko Nagai
Photos:Kopernik
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