Faust A.G. Awards 2010
本年度、地球最高の冒険家・挑戦者を讃えよ!
しっとりとしたBGMが来場者を迎えるバンケットルームに、6人の偉大なるファウストが登場した。彼らが放つ重厚なオーラが、瞬く間に空間を支配していく。
報道関係者のざわめきが静まり、マルチビジョンに視線が集まる。定刻の14時に司会者が開会を告げ、表彰式の幕開けである。
2011年は、LAからハワイ、そして横浜へ太平洋横断!
1962年9月19日生まれ、フランス出身。海洋冒険家。風力のみで海上を高速で航行する“セイルクラフト”「イドロプテール号」を開発、自らキャプテンとして冒険を続けている。「イドロプテール号」は、水中翼を擁する三胴船のヨット。水中翼による揚力で船体が持ち上がり、海面を文字通り飛ぶように高速航行する。 |
最初に紹介されたのは、アラン・テボウ氏だ。風力のみで海上を飛ぶように駆け抜けるセイルボート「イドロプテール」号を開発し、09年11月に無動力ボートの世界最速記録をマークした彼に、「ファウスト冒険家賞」が贈られたのだ。昨年のイブ・ロッシー氏に続いて、フランス人冒険家が2年連続で同賞を射止めた。
「コンニチハ」という日本語での挨拶に、会場の空気が和らぐ。周囲の反応に笑みをこぼしたテボウ氏は、抑揚のあるフランス語で語り始めた。
「今日は大変感動しています。大変な名誉を感じています。私は子どもの頃から日本のマンガなどを読んでいて、とくにサムライが出てくるものが好きでした。当時から憧れていた日本をこうして訪れることができたのは、次の冒険への大きなモチベーションになります」
テボウ氏がキャプテンを務める「イドロプテール号」は、来春にロサンゼルスから横浜間の太平洋横断チャレンジを計画している。受賞スピーチの締めくくりに、彼は胸が躍るようなプレゼントを用意していた。
「横浜に到着したら、東京へ向かいます。その際には、ぜひ皆さんに我々の“空飛ぶ帆船”に試乗していただきたいと思います。皆さんに来ていただくことを、心からお待ちしています。少しスピードはありますけれど、スリル満点の体験ができると思いますよ」
授賞式4日前に南極マラソンから凱旋帰国
1972年3月6日生まれ、神奈川県出身。会社員。世界で最も過酷な耐久レースのひとつといわれる“極地マラソン”を次々に制覇する市民ランナー。2010年11月の南極マラソン(ラストデザート/7日間250キロ/主催:レーシングザプラネット)に初挑戦、完走を果たしたばかり。 |
続いてステージへ進んだのは、「ファウスト挑戦者賞」を受賞した赤坂剛史氏である。世界でもっとも過酷な極地マラソンを次々と走破するサラリーマンランナーだ。
「自分以外の受賞者はテレビで観たような人ばかりで、ここにいていいのかなという思いです。南極を走りたいという夢を抱いて、サラリーマンをやりながら挑戦を続けてきました」
2009年のアタカマ砂漠マラソン、2010年6月のゴビ砂漠マラソンの完走によって、目標だった南極マラソンの出場権を獲得した。さるレースは11月下旬に行なわれ、4日前に帰国したばかりだと言う。緊張と興奮がうかがえる表情には、過酷な環境を乗り越えてきた逞しさも刻まれいる。
チェアウォーカーにベストなファッションを創造
1979年12月31日生まれ、東京都出身。「ピロレーシング」デザイナー/元F3レーサー。2002年、F3ドライバーとして参戦したF1日本グランプリの前座レースでの大クラッシュ。奇跡の生還を遂げるも、頚椎C6の損傷し、以来車椅子での生活を余儀なくされる。 |
冒険や挑戦と並んで、当アワードでは「貢献」も3大テーマの一つとなっている。3人目に発表された「ファウスト社会貢献活動賞」は、チェアウォーカーの長屋宏和氏に贈られることとなった。
「2002年のF1日本グランプリの前座レースでクラッシュし、車椅子の生活となってしまいました。それから9年、多くの皆さんの手助けで活動の場を拡げることができています」
大クラッシュから奇跡の生還を遂げた長屋氏は、自らの体験をもとにチェアウォーカーのためのファッションブライド「ピロ・レーシング」を展開してきた。今年10月にはオーダーメイド服のブランドを立ち上げ、増床リニューアルした銀座三越に「リフォームサロン アトリエロングハウス/ピロ・レーシング」をオープン。日本初のモードフィッターとしてファッション業界で活躍する母親の恵美子さんとともに、店頭で接客もこなしている。同時に、レーサーとしての活動も再開しており、8月には富士スピードウェイで開催された「K4-GP」に出場した。
「健常者なら当たり前にできることを、チェアウォーカーでも当たり前にできるように。ファッション性があって、着やすい洋服を作っていきたいと思っています。これからも活動を拡げていて、チェアウォーカーの方々の笑顔が溢れるような世界を目ざしていきたいです」
生きる伝説“太平洋ひとりぼっち”
1938年9月8日生まれ、大阪府出身。海洋冒険家。風、太陽、人力、波という、4つの自然力を用いたそれぞれの船で太平洋横断を成功させた、世界唯一の冒険家。 |
独創性溢れる受賞者たちの冒険心は、どのように育まれてきたのだろう。おそらくそこには、偉大なる先達の存在があるはずだ。
ファウスト会員も同様である。冒険や挑戦を通じて勇気と感動をもたらしてくれた“レジェンド”へのリスペクトは、「ファウスト特別賞」へとつながっている。
今年度の受賞者は、堀江謙一氏となった。風力、人力、波力、太陽光という四つの自然動力それぞれを推進力とする様々なヨットやボートで、太平洋横断を成功させた世界でただひとりの冒険家である。
「様々な分野の第一線で活躍している皆さんと一緒に受賞できるのは、私にとって喜びであり誇りです。ヨットを初めたときには、まさかこんな素晴らしい賞をいただけるとは思ってもいなかった。望外の喜びです。この賞に恥じないように、これからも頑張っていきたい」
各部門の受賞者には、昨年と同じようにガラス造形作家の渋谷良治氏が製作したトロフィーが贈られる。さらに、株式会社ノーブルスタイリング社より「RSWダイビング・ツール」が、ラフマミレー株式会社より「アドベンチャーダッフルバック IV 60」が、株式会社パイナップルより「ルブリケア1200」が、副賞として用意された。
JustGivingとFaustA.G.がコラボを推進!
1965年8月6日生まれ、兵庫県出身。元プロ野球選手。 |
5人目の受賞者は古田敦也氏である。言わずと知れた元プロ野球選手の彼は、「JustGiving特別賞」に輝いた。
JustGivingは英国発祥のファンドレイジングサイトで、個人の挑戦が寄付につながる仕組みを提供している(紹介記事はコチラ)。古田氏は2010年5月のホノルルトライアスロンへの初出場・完走を、同サイトで掲げることで寄付を募り、目標を超える金額を若者の自立支援を促すNPO法人へ寄付した。
「このたびはありがとうございます。この賞はジャスト・ギビング・ジャパンのスタッフの皆さん、サイトに参加してくれた人、チャリティに協力してくれた人を代表していただいたものと受けとめています。チャリティや寄付といったことに対して、新しい風を吹かせていけたらと思います」
温かみのあるスピーチの最後に、古田氏は笑顔で付け加える。会場に笑いが渦巻く。
「皆さん、どうか寄付をして下さいっ!」
柔らかな空気がゆっくりと去り、会場は再び静寂を取り戻す。司会者の低く抑えた声が響く。
「さあ、いよいよファスト大賞の発表です」
第2回、ファウスト・オブ・ザ・イヤーは栗城史多氏!
“冒険の共有”で人間の弱さと強さ、プロセスの真価を伝える
1982年6月9日生まれ、北海道今金町出身。登山家。 |
マルチビジョンに受賞者が映し出される。
あたり一面を深い雪に覆われた山に、ひとりの登山家が足跡を刻んでいく。小さな身体に大きな荷物を背負い、力強く前進していく男──ファウストA.G.が「ニュータイプ冒険家」と呼ぶ栗城史多氏だ。
「冒険の共有」を目ざすこの28歳は、登山中に自らをビデオカメラで撮影し、登山行程をUsteamやツィッターでライブ中継している。ニュータイプ、新世代といった形容詞が使われる理由だ。
「僕よりすごい登山家はたくさんいますし、今日ここにいらっしゃる方々も素晴らしい人ばかり。副賞のダイヤモンドがもっとも似合わない人間は僕でしょう。どうしよう、と思っています」
戸惑いのなかにも余裕を感じさせるコメントだ。そして、熱い思いを明かす。
「夢はエベレストの頂上からの中継です。そのためのシステム作りに3年かかり、登山中は重さ4キロのブースターを背負います。登山以外にも困難は色々とありましたが、困難が多いほど冒険は楽しい。諦めずに前へ進むことが大切だと僕は考えています」
冒険に終わりはない
今年度の受賞者がすべて紹介されたところで、特別審査員の片山右京氏がマイクを握った。片山氏は昨年と同じようにプレゼンターを務め、授賞式を意義あるものに仕上げたひとりである。
「現代においては、冒険という言葉が古く聞こえるかもしれません。でも、チャレンジすることが希薄になった現代の日本で、自分と向き合ったり、困難に立ち向かうことの意義を感じずにいられません。ここにいらっしゃる受賞者の皆さんを見て、冒険とは何だろうと考えてみました。それは、諦めないこと、信じることでしょう。そういう気持ちは、とても尊いものだと僕は思います」
フォトセッションでフラッシュを浴びる受賞者たちは、その表情に控え目な誇らしさを滲ませている。彼ら自身が受賞の挨拶で語っていたように、トロフィーを手にするのはこの上ない名誉なのだろう。
ただ、第三者からの賞賛や評価を得るために、冒険や挑戦を続けてきたわけではい。社会貢献やチャリティに打ち込んだわけでもない。彼らを突き動かすのは、どこまでも真っ直ぐで純粋な思いである。
昨日の自分を越えたい。
明日はもっと逞しい自分でありたい。
何かを失わないためでなく、何か得るためでもなく、ただひたすらに、ひたむきに高みを目ざす──男たちの視線は、すでに新たな冒険や挑戦へ向けられている。
トロフィー・副賞について
ファウストA.G.アワード2010授賞式
日時:2010年12月2日(木) 14:00スタート
会場:グランドハイアット東京3階「タラゴン」
特別協力:ジャスト・ギビング・ジャパン
協賛:ラフマミレー株式会社
協力:デビアス ダイヤモンドジュエラーズ ジャパン株式会社、株式会社ノーブルスタイリング、株式会社パイナップル
Text:Kei Totsuka
Photos:Kiyoshi Tsuzuki
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