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INTERVIEW with FAUST
Hiroshi Ashida
世界の空を転戦して昇りつめたい

東京都内にあるオフィスを訪ねると、芦田博は応接スペースに資料を拡げていた。大会のパンフレットや採点シートが並ぶ。スケジュールに追いかけられる多忙なビジネスマンから、アメリカで大きな成果をあげたアクロバット飛行のパイロットへとスイッチが切り替わる。
「色々な意味でホッとしました」と切り出すと、芦田は濃密な日々をゆっくりと語り始めた。

国際舞台でのカテゴリー攻略

Mephisto(以下M)そもそも、『ボレーゴ ハンマーヘッドラウンドアップ』という大会を選んだ理由は何だったのでしょうか?

芦田カリフォルニアはアクロバット飛行が一番盛んなんです。そのぶん、レベルも高い。カリフォルニアというロケーションも好きですし、トレーニングをしていたので良く知っているというのも理由にあげられますね。それともうひとつ、『ボレーゴ』はサンライズという飛行学校が主催しているんです。僕はその飛行学校の人間として参加したので、利便性がいいというか、きちんと対応してくれる。他の大会ですと、ヨソ者扱いをされて不都合が出てしまうかも、と思いまして(笑)。


M国際大会出場は念願でした。

芦田国際と言っても、アメリカのローカル大会であるのは事実なんです。でも、海外の大会に出るというのがひとつの目標だったので、それを達成することができた。スポーツマンというカテゴリー(ルール参照)は、競技人口としては一番多いんです。入賞を狙いやすいということで、実力的には上のカテゴリーのパイロットが参加してくるという噂も、以前から聞いていました。

M芦田さんはカテゴリーを下げるのではなく、プライマリーを飛ばしてスポーツマンからの参加となりましたが。

芦田1年ごとに一つずつカテゴリーをあげていきたい、と思っているんです。4年がかりでアンリミテッド(ルール参照)へ到達しようと考えたときに、逆算するとスポーツマンが出発点になったわけです。もちろん、カテゴリーが上がるほど難易度は高くなりますし、インターメディエイトまでいくのに何年もかける人もいます。

Mカテゴリーごとにあらかじめ決まっている種目を見れば、自分はどこへ出場するべきなのかも、おのずと決まってくるのでしょうね。

芦田プライマリーを飛ばしたので、自分にとってはそれなりに難易度が高かった。1年ずつカテゴリーをあげるという目標を達成するには、少し急がないといけないので(笑)。それでも、入賞は狙っていました。そうそう、これが操縦席に貼っていたカードなんです(と言って、小さなカードをテーブルの上に置く)。

M「強く」といったような注意書きがしてありますが、競技中にチェックすることはあるのですか?

芦田 いえ、それはないですね。書くことで注意点を確認している感じです。注意したところと言えば、1キロメートル四方のボックスの中で演技をしないといけないんですね。風が吹いていますから、ボックスから押し出されてしまうこともあるわけです。そうすると、その演技は0点になってしまう。ただし、演技の始めと最後だけボックス内に残っていれば、減点は5点で済む。だから、パイロットには適切な判断が求められるんです。ボックスから出ないように、演技の入りどころをどうするか。今日は風の影響を受けやすそうだから、奥からスタートしたほうがいいな、とか。

3度目となる墜落事故の目撃

M練習が一度削られてしまった影響は?

芦田大会は3日の構成で行なわれ、1日目にプラクティスがある。練習のためにホールディングエリアというところを旋回して、「いまか、いまか」と集中して自分の順番を待っていたら、同じスポーツマンに出るはずだったパイロットが墜落したと。


M直前の機体が墜落とは……。

芦田それで、「飛行機を探せ」という無線連絡が入って。最初は「北へ落ちた」という連絡だったんですが、「やっぱり東だ」と。地上の友人が無線で指導をしていたそうなんですが、操縦がきかない「アンコントローラブル」という連絡が入ったと。そういう際にも回避する方法はあるんですが、途中で声がしなくなってしまい、その後は応答がないまま、轟音とともに砂塵があがったそうです。

Mそのとき、芦田さんは?

芦田僕自身は目視していません。ボックスのなかにどうやって入ろうか、集中していましたので。何やら騒がしいことは無線で分かっていたのですが……。セーフティパイロット(教官)を後ろに入れていたので、二人で一緒に探しました。砂まみれになっているので、上空からだと分かりづらいんです。たぶんアレだろうということで何とか場所を特定して知らせ、その後に救護車が4、5台向かっていって。その日はもう、すべてがストップです。雰囲気的にもかなり深刻になり、夕方6時にパイロットが集められました。続行するか否かを、多数決で決めると。やめようという人も3分の1ぐらいはいましたが、やりたい人のほうが多かった。ただ、大会のオフィシャルは、「明日になってもし気持ちが変わったら、やりたいと手をあげた人でも、やめていい」と、再三にわたって繰り返していました。

M事故を目撃するのは初めてだったのでしょうか?

芦田……3回目、になります。一度目は海外で、室屋(義秀)氏と滑走路の近くを歩いていたら、複葉機が墜ちていくところに遭遇しました。二度目は日本で、これは直接見たわけじゃなく、帰って来ないと話していたら近くへ墜落していたことがありました。

M事故は連鎖すると言われているそうで……。

芦田第二次世界大戦から、まことしやかに言われているのは、浜松基地で墜ちたら、次は岩国基地で墜ちるとか。エアラインでも、墜ちると連鎖しますよね。そういう話を聞いているので、事故がつながると嫌だなあという気持ちはありました。もちろん、口に出して話す人はいませんが。

機体故障のアクシデント

Mそして、実際の競技では?

芦田競技は午後から始まり、アンリミテッド、アドバンス、インターミディエイト……と進んでいく。いざ自分の順番になってボックスに入っていくと、位置関係がなかなか把握できない。ボックスから出ないようにすることに必死でした。



Mボックスから出たら減点になってしまう。

芦田実はそれがちょっとミソで、ボックスから出るときに翼を振って合図をすると、やり直しがきくんです。翼を降ってボックスアウトすれば5点減点で済むので、合図をしてからやり直した種目もありました。合計で1400点のなかの5点ですから、大した減点ではないんです。そういう場合は思い切って出ようという判断をしますね。

M減点の対象となるのは、それだけではないんですよね?

芦田下限高度もあります。1500フィートを下回ったら、その場で失格になってしまいます。難しいのは、上空から見るボックスって、小さな座布団1枚ほどのサイズでしかないんですよ。ボックスアウトしないことばかりに気をとられると、正確な演技が出来ない。ボックスから出ず、なおかつ高度を保つのが難しい。だから、上昇性能のいい機体を選ぶ人は多いんです。

M今回の機体は?

芦田現地で借りました。スーパーデカスロンという機体です。エクストラで出ている選手もいましたから、機体の性能的には不利でしたね。馬力が倍ぐらい違いますので。ただ、エクストラはスピードが速いのでボックスから出やすくなってしまう。引き上げのためにすごいGがかかるんですね。逆にパワーが少ないほうがボックスアウトのリスクは低くなりますが、上昇しにくい。全体的なパフォーマンスで言えば、エクストラのほうがやりやすいのはありますけれど。カテゴリーによって、使用する飛行機に規定があるというわけではありません。

M機体のトラブルに見舞われたそうで?

芦田本番1日目か終わったあとに、タイヤがパンクしていたんです。修理工具はあるけど、消耗品は持ってきていないので、近くのスタンドで対処するかと思ったんですが、5時ぐらいで閉まってしまうから無理だと。周りのパイロットとかに聞いたところ、偶然にもまったく同じサイズのチューブを持っている人がいたんです。もしそうじゃなかったら、片道3時間かけて飛行場へ車で戻って、持ってくるしかなかった。睡眠時間を大幅に削ることになりますから、明日はボロボロだなあと覚悟をしていたんですけど、幸運にもその場で対処することができて。そうしたら今度は、ベアリングを地面に落としてしまった。砂が入ってしまったんです。砂が入ってジャリジャリしたままだと発火の恐れがあるので、ここでまた「どうしようか」と……。ガソリンで洗うのはいいけれど、グリースを塗らなきゃいけない。タイヤ修理屋さんで専用のグリースをもらってきて、塗ってからベアリングをつけて。終わった頃にはかなり時間が経っていました。そういう作業をやっている間に墜落の追悼のイベントがあったんですが、僕自身は機体の整備で気持ち的にいっぱい、いっぱいで。

総合5位と次のターゲット

M2日目を迎えるにあたって、どんなところに注意したのでしょう?

芦田反省点をイメージして、どこが悪かったのかをレビューして。パイロットはイメージトレーニングをするんです。ボックスをガムテープで作ったりして。ボックスに入って、こうやって、こうして、と、頭のなかでひとつずつ演技をしていく。メモはもう、操縦桿を握っている間はチェックする暇がないので。


M実際の演技はどうでしたか?

芦田二日目は何とかうまくいったなあという感じで、まだ課題があったので、3回目にかけよう、順位をひとつぐらいあげようと思っていました。その時点では順位は知らされていないのですが、自分なりの手応えがあって。だけど、最後に時間がなくなってしまい、スポーツマンだけ3回目がなくなってしまったんです。しかも、事故があったのですべての順位を集計できなかった。表彰式があるので、総合の3位までは当日にはっきりしたんですけど、最終的にメールをすると言われたんですが、まだ届いていないんです。ホームページをチェックしてみましょうか……ああ、5位だったんだあ。それと、初日のデイリーは7位で、二日目が3位、総合で5位ということになりますね(ルール参照)。

Mデイリーの銅メダルでも、充分に立派な成績でしょう!

芦田もうひとつ、ファーストタイム・スポーツマンという賞もいただきました。初めて出場したなかで、成績上位者がもらえる。新人賞のようなものですね。ただ、3本目があればというところがあったので……。

M3本目があればという思いがそれだけ強いということは、かなりの手応えをつかんでいたのでしょうね。

芦田そうですね、今後につながる手応えはつかめたかな、と。初めて大会に参加する人は、最下位に終わってしまう人も少なくないそうなので。自分も失格と最下位だけはやめようと思っていました。とりあえず、デイリーでも3位までいけたのは、素直に嬉しいです。この採点シートには悪いところがすべて書かれているので、これを課題に練習に取り組んでいけば。いままでこういうものを、もらったことがないので。去年試行された日本大会で初めてもらったんですが、アメリカのジャッジがどういうふうに考えているのかも、これで分かりますし。これをもとに練習していけば、次はやれるかな。

M次のターゲットは?

芦田秋にデラノという大会に出ようかなと。ここでちょっと、さらに上を狙いたい(笑)。それから、全日本の大会が10月の初旬に福島スカイパークで予定されていますので、デラノで経験を積んで全日本を狙いにいこうと。カテゴリーはスポーツマンですね。ひとつ上のカテゴリーには、表彰台へ登ってからいきたいと思っています。

 

 

Faust Profile

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芦田博(あしだひろし)
株式会社ディープブルース取締役

1967年、千葉県生まれ。1993年テレビCM制作会社に入社。映像ディレクター、プロデューサーとして、テレビCM、イベント演出映像等、多くの作品を手がける。2000年、株式会社ディープブルース設立。不動産、飲料、通信、コンピュータ、エンターテインメントなど各大手企業におけるマーケティング戦略を中心として、映像、イベント、WEB制作等、多くの広告制作に携わる。

Who is Mephisto ---メフィストとは

人生のすべてを知ろうとした、賢老人にして愚かな永遠の青年「ファウスト」(作:ゲーテ)。この物語でメフィストとはファウストを誘惑し、すべての望みを叶えようとする悪魔。当クラブ「Faust Adventurers' Guild」においては、Faustの夢と冒険の物語をサポートする案内人であり、彼らの変化や心の動きに寄り添う人物。時に頼れる執事、時に気の置けない友人のような存在は、『バットマン』におけるアルフレッド(マイケル・ケイン)、『ルパン三世』における不二子&次元&五右衛門トリオのようなものか? 今後、Mephistoは各クエストの終わりにFaustの皆さまの心を探りに参ります。どうぞよろしく。

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