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INTERVIEW with FAUST
“もうひとつのル・マン”を走り抜けて

今年7月、例年にない異常気象といわれたフランスの地で、世界的なクラシックカーレース「ル・マン クラシック」に参加したFaustたち。マシンチェック、練習走行、そして昼夜にわたる本選といった時間を過ごしてきた彼らも、終了の時が近づくにつれ、硬かった表情に安堵感が漂い始めた。
この数日間、彼らは世界的な舞台でいったいどのような想いを抱いたのだろう。
歓声とマシンの轟音が響き渡るピットで、興奮冷めやらぬ胸の内を語ってもらった。

Hitoshi Kato
加藤仁
1963年型 アルピーヌ M63 ドライバー

ルマン24時間をリタイアしたアルピーヌの里帰り

Mephisto(以下M):見事、完走ですね。本当におめでとうございます!

加藤:はい、ありがとうございます。4年前に初めて出たときは最後のセッションでスピンしてしまいまして、手押しでチェッカーフラッグを受けたのですけど、今回はまともに、気持ち良くゴールできました(笑)。





M:リベンジしましたね。

加藤:やはり何回も来ないとレギュレーションやら雰囲気やらはわかりませんから、今後も可能な限り出場し続けたいと思います。

M:初出場の時のマシンとは違うと聞いています。それに、周囲の注目度も非常に高いのがわかりました。

加藤:前回はこのM63よりも年代の新しいA210で出場したんですよ。アルピーヌが好きでとりつかれて、部品入手でド壺にハマって……。そうこうしているうちに、このマシンを入手するお話をいただきました。これは実は、アルピーヌが初めて1963年のル・マン24時間に出場したプロトタイプのマシン、ゼッケン49番の、製造番号1号のマシンそのものなんです。当時はミッショントラブルによりリタイヤしてしまっています。

M:とても希少なマシンなんですね。注目度の高さも納得できます。

加藤:ですから、このマシンにとって、今回は里帰りなんです。ル・マン24時間をリタイヤした無念を、今回は完走することで、晴らしてあげることが出来た。この車がル・マンを完走するのはフランスのクラシックカー愛好家にとって悲願だったようです。

M:加藤さんがこれほどまでにクラシックカーを愛するようになったきっかけは何でしょうか?

加藤: きっかけなどありませんよ。私の青春時代とともに、日本のモータースポーツ時代の幕開けがあったのです。運転免許証を取得して、すぐにジムカーナ・ラリーに参加して腕を磨き、当時は日野コンテッサ・クーペから始まり、ファミリアロータリー・クーペへと乗り継ぎました。
ただ私にとって、ロータス、アルピーヌ、ポルシェなどは高嶺の花で、憧れてはいましたが手に入らない状況でした。ですから1979年に初めて中古のアルピーヌを手に入れた時は嬉しかった! 当時のラリーで世界制覇していて、どうしても手に入れたかったんですよね。そしてそれから泥沼にはまって行くわけですが(笑)。でも「これはクラシックカーだ」という特別な感覚はなく、ただの中古スポーツカーという意識で通勤に使い、故郷・愛知に帰る時もいつもそれに乗っていました。ですから、今でもクラシックカーという感覚はなく、私にとっては現役のクルマなのです。IT化が施された最新車には全く興味がなく……。青春をそのまま引きずって来ているだけなのかもしれません(笑)。

M
:たまたま自分の好きな車が、世間から見ると「クラシックカー」と勝手に呼ばれているだけ、と。

加藤
:その通りです! 海外の愛好家もそのように考えているんじゃないかな……。そんな訳でクラシックカーイベント、特に60年代のものが世界中で盛んになってきたことは、人生の最終コーナーを走っている私にとっては最良の幸せなのです。

 

 

Kszuo Fujita
藤田一夫
1963年型 アルピーヌ M63 ドライバー

64の私はまだ若い方

M:お疲れさまでした。参加されていかがでしたか? ル・マン クラシックに何を感じましたか?

藤田
:いや~、今回初めて参加しましたが、日本で行われているイベントとは全然違いますね。サーキットの雰囲気とか運営、参加台数の規模など、まったくスケールが違うのでビックリです。

M:走っているときは気持ちがいいものでしょうね。

藤田:今回は3名で一台を走らすメンバーのひとりということで、マシンコンディションに非常に気を配りました。次のドライバーにしっかりバトンを渡すというのも大きな仕事ですから。

M
:やはりご自身でチームを組んで参加したいという気持ちがありますか?

藤田
:う~ん、なんともいえませんね。ただ、見崎さんの言葉を借りれば、「ル・マン24時間でもル・マン クラシックでも一度やれば中毒になる」ということですが、その言葉の意味が今回よくわかりました。

M
:実際にサルテサーキットを走られて、どの部分が気持ちいいですか? たとえばストレートとか……。

藤田
:コース自体長いし、うまくまとめられない部分もあったりして、必死にやっているうちにレースが終わった……という感じでした。この不完全燃焼の思いが「またル・マンに来たい!」と思わせる要因のひとつなのかもしれませんね。

M
:なるほど。

藤田
:ただ、次回となると年齢的問題も考えないと。今、64歳ですから。だけど、ココに来てビックリしました。「オレよりジジイじゃないの?」っていうドライバーもいっぱいいるんです(笑)。「まだやってるのか!」という、これはもう感動ですね。

M
:確かに「年齢は関係ないんだ」と思わせるエネルギーが満ちていますね。

藤田:こちらの人って、本当に元気で感動しました。それと、現地の方たちが何人も「メルシー」と言ってくれて、アルピーヌと僕の写真を撮っていくことにもです。私は最初その意味がわからなかったんですが、どうやら「(フランスが生んだ名車である)アルピーヌを完走させてくれて、ありがとう!」ってことなんですね。1963年のル・マン24時間にこのマシンが出場し、完走できなかったことを皆が知っているんです。本当に自動車文化が深いというか、とても感動的な出来事でした!

 

 

Kiyoshi Misaki
見崎清志
1963年型 アルピーヌ M63 ドライバー

現代車にはない“乗りこなす”テクニック



M:ル・マン クラシックへのご出場は何回目ですか?

藤田
:今回が2回目で、初めて出たのは4年前です。クルマは違いましたけど、同じこのチームで出場しました。ル・マン24時間へは1991年に出場しました。

M
:ル・マン24時間では、プライベートチーム「フェデコ」からレーシングカーのスパイスで出場して、初めて日本人3人でクラス優勝を収められていますものね。そんな方に、さすがプロといっては失礼かもしれませんが、素晴らしいタイムでした。

藤田
:僕はもう少し(タイムが)行くかなぁと思ったんですが、今回のセッションはタイヤのグリップが得られず悪い条件でしたね。20秒台に入れたかったんですが……。

M
:ところで、このル・マン クラシックと、現代のル・マン24時間レースとは別モノなんでしょうか?

藤田
:クルマの乗りやすさという点では現代のレーシングカーのほうがラクですね。断然乗りやすい。最高速度は330km/hぐらい出ますけど、路面に吸いついて走るようなイメージですから、ドライブしていてラクなんです。ところがクラシックカーは、タイヤもグリップがないし、車体の安定性も比べ物になりません。だからクルマの扱いはこちらの方が難しいと思いますよ。

M
:なるほど。でも、それが楽しみでもあると。

藤田
:そうですね。“乗りこなす”という意味ではそう言えます。当時のル・マンに想いを馳せながらといいますか、とてもいい気分です。

M
:今回の2度目のクラシック出場、レースも残すところ数周ですがいかがですか?

藤田
:前回は手押しでなんとかチェッカーを受けたのですが、今回このままいけば無事にゴールできることになります(※レース終盤にインタビュー)。そういった意味では目標を達成できそうです。

M
:完走を楽しみにしています!

 

 

Tadakazu Kojima
小嶋禎一
1957年型 アルファロメオ ジュリエッタ SVZ ドライバー

10回出場しないと結果は残せない



M:何かマシンにトラブルが出たようで残念でした。

小嶋
:まぁ、でもクラス1でさえリタイヤが10台以上ありますからね。

M
:全体的にみても、リタイヤ車が多かった。

小嶋
:旧いクルマを走らせるのは、それだけ大変だということです。

M
:どんなトラブルだったのですか?

小嶋
:エンジンのヘッドボルトが最終ラップに折れちゃったんです。今回は(40℃を超える)この気温でしょ。我々のクルマは1300ccだし、ストレートでは常時7000rpm回さなくてはならない。これが3リッタークラスのエンジンなら話は別だけど、小排気量で高回転型のエンジンにはかなりのストレスがかかりますね。

M
:それだけ過酷な条件なんですね。

小嶋
:はい。それにテストしたくても、日本じゃシミュレーション出来るような長いストレートをもつコースがないんです……。

M
:今年はフランスでも異常気象だといっていました。

小嶋
:今まで出た中で一番熱いですね。これだけ気温が高いとドライバーにとっても過酷で、バックストレートで一度隊列を整えさせられるのですが、それに15分くらいかかる。コクピットはもうサウナ状態でしたよ(笑)。

M
:今回は3回目の出場ですね。

小嶋
:いやぁ、まだまだ足りませんね。10回は出場しないと結果は残せない。

M:それにしてもこの歓声。サーキットの雰囲気がすごいですね。

小嶋
:クルマというより、人生を楽しんでいる感じが伝わってきますね、ここは。

M
:また、新たな目標ができたんじゃないですか? アジアン ル・マンも狙っているわけですし。

小嶋
:まあ、コツコツとがんばりますよ!(笑)

 

 

Tadashi Kurokawa
黒川忠是
1967年型 アバルト 1000 SP ドライバー

何と言っていいかわからないほどの感動!



M:お疲れさまです。最後までひとりで走られて大変でした。さて、ル・マン クラシックはいかがでしたか?

黒川
:お疲れさまです! いやぁもう、いまは何を言っていいかわからないくらい感動しています。この場所にいることもそうですし、ココにいるすばらしいスタッフに恵まれたことを含め、すべて幸せです。

M
:まさに人生最高の瞬間といったところですね!

黒川
:一度体験すると、人生観が変わるんじゃないですか? ル・マン クラシックに参戦するということは、モノの見方とか、とらえ方とか、ものすごく変わる気がします。

M
:それほどまでに人を感動させるイベントとは素晴らしいですよね。ところで出場回数は?

黒川
:今回で2回目です。前回は無念のリタイヤでした。

M
:それでは今回の完走はリベンジを果たしたということですね。

黒川
:その通りです。いや、嬉しいです。どうもありがとうございました!

M
:本当におめでとうございます。そもそもクラシックカーがこれほど好きになったきっかけは?

黒川
: 小嶋さんのナビで日本の「ラフェスタ・ミッレミリア」に出場してからですね。そこで一気に魅せられて、クラッシックカーを買い、色々なイベントに出るようになり、小嶋さんに誘われて「ル・マン クラッシック ジャパン」も走りました。そして思いがけず前回のこの「ル・マン クラッシック」に出場させてもらった時は、まさかこの地に自分が立てるとは思いもよらず、興奮して無我夢中で走り、……結果リタイアでした。旧い車を大事にいたわりながら、でも全力で走る楽しさや大変さ、周りのスタッフの優しさと助けなど……何事にも代えがたいこの経験は、自分の人生を変えたと思います。小嶋さんと出会えていなかったら、この世界の感動は味わえていなかったと思っています。

 

 

Faust Profile

加藤仁(かとう・ひとし)

医療法人の理事長を務める。アルピーヌを愛するレーシングチーム「クラブ・ゾーン・ルージュ」主催。

藤田一夫(ふじた・かずお)

UNKNOWN

見崎清志(みさき・きよし)

元トヨタワークスドライバー。ツーリングカーを中心に活躍し、フォーミュラ、プロトタイプなど、さまざまなカテゴリーのレースに出場。1972年、73年には、FUJI1000kmで連続優勝。91年にル・マン24時間で、プライベートチーム「フェデコ」からレーシングカーのスパイスで出場し、初めて日本人3人でクラス優勝を収める快挙を記録。現在も様々な形でレース界に関わる。

小嶋禎一(こじま・ただかず)

大阪にあるスーパーカーやクラシックカーを専門に扱うスペシャルショップ「スクーデリア・フォルム」、およびそのレーシングデヴィジョンの代表を務める。

黒川忠是(くろかわ・ただし)

業務用の青果卸業を東京と京都で展開

  • ◎「世界最高峰のクラシックカーレース “もうひとつのル・マン”に挑む!」STORY[前編]はコチラ

Who is Mephisto ---メフィストとは

人生のすべてを知ろうとした、賢老人にして愚かな永遠の青年「ファウスト」(作:ゲーテ)。この物語でメフィストとはファウストを誘惑し、すべての望みを叶えようとする悪魔。当クラブ「Faust Adventurers' Guild」においては、Faustの夢と冒険の物語をサポートする案内人であり、彼らの変化や心の動きに寄り添う人物。時に頼れる執事、時に気の置けない友人のような存在は、『バットマン』におけるアルフレッド(マイケル・ケイン)、『ルパン三世』における不二子&次元&五右衛門トリオのようなものか? 今後、Mephistoは各クエストの終わりにFaustの皆さまの心を探りに参ります。どうぞよろしく。

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