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INTERVIEW with FAUST Takeshi Akasaka
足を止めなければ、絶対にゴールに辿り着ける

ゴビ砂漠での激走を終え、念願の南極マラソンに向けて着々と準備を進める赤坂剛史。
真っ黒に日焼けした体に、人懐っこい笑顔。落ち着いていながら、情熱を秘めた話しぶり。
「バックパッカーの経験が長いから、コミュニケーションの能力には自信がある」と自ら語るように、その佇まいには誰もが引き込まれてしまう輝きがある。
そんな赤坂に、ゴビ砂漠マラソンの裏話などを聞いた。

練習不足で臨んだレース

Mephisto(以下M)今回のゴビ砂漠マラソンは、今までにない苦しいレースだったようですね。

Faust(以下F)正直、練習不足もありましたね。実は4月末に結婚したんですけど、結婚式の準備を週末にしなくてはならなくて。それに、僕の勤務地は宇都宮の郊外なんですが、今は大宮に住んでいるから片道で2時間くらいかかる。なので、平日のトレーニングもほとんどできず、会社の昼休みに走るくらいで。それがレース中の辛さにも反映したんだと思います。





そうした状況でのゴールは、感慨ひとしおでは?

ゴールの達成感ももちろんですが、走って、その地にいること自体がすごく嬉しかったです。特に大砂丘地帯を走っている時ですね。初めて走ったサハラ・マラソンの時の景色が、鮮明に蘇ってくるんですよ。また、いつも湘南海岸でトレーニングしているので、砂地を走るとその記憶も蘇ってきます。サーフィンしている人やビキニ姿の女性がいる中を、15kgの荷物を背負って走ってるわけですよ(笑)。そういうことも、全部思い出しましたね。

走る以外に、どんなトレーニングをするんですか?

僕が一番気にしているのは、疲れない体作りですね。もしくは、回復しやすい体が作れれば、その分長く走れるわけです。例えば僕は、水を飲む量が人より多いかもしれないですね。

水ですか?

新陳代謝を高めるのが一番の目的ですが、砂漠のマラソンって水を常に飲んでないと身体が疲れてしまうんです。けれど、水って慣れてないとなかなか飲めない。それで知らないうちに脱水症状になってしまう例がたくさんあるんです。だから普段から一定の間隔でこまめに飲むようにして、常に水が飲める体制を作っておくようにしています。あとは、食事で生野菜や果物をたくさん摂る。これは、食べ物を分解する酵素を補ってあげれば、疲れにくい体になるという考え方で始めましたが、まぁ、そういう習慣にしてたら野菜や果物が好きになってしまったんです(笑)。

悔しい思いをしたから、諦めない

最も辛かったポイントはどのあたり?

やはり3日目に峡谷を走った時ですね。53℃を記録した。

1名の選手が亡くなられたという……。

倒れていたのを発見され、病院に搬送されたそうですが、亡くなったことが分かったのは最終日だったんです。レースが終わると、選手たちはホテルに戻ってシャワーを浴びて、パーティに参加するんですね。その冒頭で、主催者の方が「実は悲しいお知らせがあります」と。みんなで黙とうをしたんですけど……。

それほど厳しい場所を走っていて、リタイアが頭をよぎることはなかったですか?

僕は一度、佐渡のトライアスロンに挑戦してリタイアしたことがあるんです。あと10kmだったんですが、「もうダメだ」とネガティブになって、どんどん内に籠ってしまって……。それでリタイアしてね。バスに乗せられてホッとしているんですけど、ゴールに向かって頑張っている選手たちが窓から見える。どんどん自分が不甲斐なくなり、悔しくて情けなくて、逃げ出したくなってしまって……。

そういう経験があるから、頑張れる。

次の年はしっかり練習して完走したんですが、結局、足さえ止めなければ、いつかゴールできるんだなと思いましたね。仮に制限時間をオーバーしたとしても、ゴールが撤収されたとしても、自分が足を止めなければ、絶対にゴールには辿り着ける。だから、どんなことがあってもゴールはしようと。「レーシング・ザ・プラネット」の大会は、途中でリタイアしても走れるんですよ。記録には残らないけれど、走ってもいいんです。まぁ、今までドクターストップがかかるようなケガをしなかったのは、ラッキーでしたけどね。

大会のボランティアスタッフも、いろいろ支えてくれたようですね。

韓国人の男性スタッフと仲良くなって、彼がすごく僕を援助してくれました。「水を飲んだ方がいいぞ」とか、メロンを持ってきて「食え食え」って言ってくれたり。それでけっこう助かりました。あっ、これはオフレコで(笑)。でも実は、その方はすごいランナーだったんですよ。この大会にも何回も参加しているし、南極も走っていて。あと北極点マラソンというのもあって、そこで優勝したりとか。本業はデザイナーと言ってましたね。大会への恩返しで来たらしいんですけど、「走ってた方が楽だ」って言ってました(笑)。

レース中の風呂や着替えはどうするんですか?

風呂はないです。支給される水に余裕があれば、かぶっちゃえばいいし、タオルに浸みこませて身体を拭けばいいんですけど、ほぼ余裕はないですね。飲むのと炊事と、あとは洗濯。レース中は基本的に着たきりなんですが、キャンプサイトに着いたら、ジップ付きのビニール袋に服と水を入れて、ガシャガシャッと洗うんです。それを乾かすだけなので、終盤になるほど匂いがキツイ(笑)。

たくさんの人に支えられて、南極に挑む

次はいよいよ南極マラソンですね。

今のところ、11月の14日か15日に出発して、30日に帰ってくるスケジュールを立てています。南極は気候の変化が激しいので、吹雪いたらその日のレースが中止になったり、危険が多いみたいですね。走る場所の近くにイギリス越冬隊の基地があるらしいんですが、同じ時期に越冬隊のスタッフがクレパスに落ちて亡くなったケースもあるらしいので。





それは恐い。

だから大会側も天候はシビアに見ているようですね。それから、南極に渡るまでの海が非常に荒れるそうで、みんな船酔いで走るどころの騒ぎじゃないとも聞きました。でもとにかく、応援してくれる家族や仲間のためにも、何とか頑張りたいですね。

新婚の奥さま(友紀さん)も理解がありますね。

今回のゴビ砂漠マラソンは、彼女も大会のボランティアスタッフとして参加しようとしていたんです。渡航費用だけで行けるし、彼女自身も一度そういう大会を見てみたいと言っていて。ただ、仕事の関係で行けなくなってしまったんですよ。

準備不足というのも知っていたでしょうし、さぞ心配だったのでは?

奥さんには毎日メールしました。ゴビ砂漠って、実は携帯電話がつながるところもあるんです。だから写真を送ったりもしました。帰国して、携帯電話の明細書を見て驚きましたけどね(笑)。また、奥さんの両親も僕のことを応援してくれて、レースが終わったらメールをくれたり、行く前にも電話をくれたりしたので、そんなことも思い出しながら走りました。

お仕事を休むのは大変では?

やはり無理を承知でスケジュールをあけてもらいますから、迷惑をかけていると思います。今の上司は「仕事も趣味も大事だよな」って言ってくれる人なのでとても感謝しています。また社長はじめ職場の仲間にも応援して頂いているので本当に感謝しています。ですから、普段の仕事は期待以上に成果が出るように励み、またいかに時間をかけずに成果が出るかを考え、特にスケジュール管理を徹底しています。

チームでのお仕事なんですか?

そうですね。実はいま開発しているものが、ちょうど南極マラソンの時期に山場を迎えそうなんですよ。スケジュール通りにいけば問題ないんですが、ちょっと遅れそうな感じで……。正直な話、一度上司に呼ばれて「すまん、行かせてあげられそうもない」とも言われました。でも、「どうしても仕事と南極を両立したい。どうしてもやり遂げたい。」と正直な気持ちをお伝えしたところ、最終的に理解してくれて、「頭の痛い問題だけど、そこまで考えているのなら行って来い」と言ってくれました。そこまで言ってくれる人ってなかなかいないと思うんですよね。だから「この上司のためにがんばりたい。なんとしても仕事を成功させたい」と心に誓いました。

素晴らしいですね。

2週間も会社を休む訳で、普通の会社なら当然ダメだろうと思うんです。僕が休むことでみんなが真剣に議論してくれるというのは、すごくありがたいなと思っています。ただ、僕自身はバックパッカーをしていて、海外の人たちが1カ月くらい休むのも見ています。日本の社会も、そういう風に大人から変わっていったらいいなと思いますね。だから叩かれてもいいから、自分が先陣を切っていこうと思っているんです。

  • ◎「7日間250キロを踏破せよ! 灼熱のゴビ砂漠マラソン」STORYはコチラ

 

 

Faust Profile

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赤坂剛史(あかさかたけし)
1972年3月6日、神奈川県生まれ。19歳の時、バックパッカーとして初めて海外へ。社会人になってからも年に3〜4回は旅に出て、アジアを中心に延べ30カ国ほどを訪ねる。2000年、河口湖 日刊スポーツマラソンでフルマラソンに初挑戦。4時間2分で完走した。以降、100km超のウルトラマラソンをはじめ、30以上のマラソン、トライアスロンなどに参加。2008年、サハラ砂漠で行われたサハラ・マラソンを走破。2009年4月には、「レーシング・ザ・プラネット」主催のアタカマ砂漠マラソン(チリ)を完走。今回のゴビ砂漠マラソンを完走したことで、今年11月に開催される南極マラソンへの参加資格を取得した。航空工学の博士号を持ち、企業の研究開発職に従事する。

  • ◎「自分もゴビ砂漠マラソンに挑戦したい!」という挑戦者へ画像

Who is Mephisto ---メフィストとは

人生のすべてを知ろうとした、賢老人にして愚かな永遠の青年「ファウスト」(作:ゲーテ)。この物語でメフィストとはファウストを誘惑し、すべての望みを叶えようとする悪魔。当クラブ「Faust Adventurers' Guild」においては、Faustの夢と冒険の物語をサポートする案内人であり、彼らの変化や心の動きに寄り添う人物。時に頼れる執事、時に気の置けない友人のような存在は、『バットマン』におけるアルフレッド(マイケル・ケイン)、『ルパン三世』における不二子&次元&五右衛門トリオのようなものか? 今後、Mephistoは各クエストの終わりにFaustの皆さまの心を探りに参ります。どうぞよろしく。

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