襲い来る5G!
上空3000mのトップガンファイト——前編
想像もできない世界を見たい。
得難い体験をしたい。
友人である香港の富豪から「昔、戦闘機に乗って、上空でロックオン操作をさせてもらったことがある。あれはものすごい体験だった」という話を聞いた一人の Faust。「オレも絶対やりたい!」と答えたが、その富豪は「今はもうやっていないんだ」と言い、残念ながら体験には至らなかった。
しかし、そこで終わらせるFaustではない。以来、「絶対やる」と心に決め、Mephistoには実現に向けてオーダーを出し、仲間にはことあるごとに「戦闘機に乗って、ロックオンで勝負をする計画があるんだ」と暗に誘い続けた。
Faustの命を受けたMephistoはロシア空軍や南ア・ケープタウンなど方々探しまわった末、ついにアメリカ・カリフォルニア州にて、“本物の戦闘機でのロックオン勝負”を実行させてくれるという退役軍人と戦闘機を見つけだした。
舞台は整った。勝負の地となるロサンゼルス近郊のフラートン(Fullerton)の飛行場へと、Faustたちは乗り込んだのである。
The day 6:00 am
ロックオン前の腹ごしらえ……?
ロスに到着して2日目、まだ日も昇らない6時前。ホテルのフロントにFaustたちが集まっていた。ここからフラートンの飛行場までクルマで1時間ほど。朝食はホテルが用意してくれる時間ではなく、飛行場までの間に軽い腹ごしらえをはさむ予定とした。
Faustたちが乗り込んだワゴンがハイウェイを進む間に、朝日が昇ってくる。飛行場に近づいたあたりで、道路沿いのカフェレストランに入ることに。
コーヒー、紅茶、サンドイッチ、パンケーキ……。朝食メニューは、もちろんどれもアメリカンなビッグサイズ。そんな中、この早朝からがっつりとサンドイッチプレートとチョコレートサンデーを頼むFaustが。
「いや、すっごい腹減っちゃったんですよね。お、このサンデー結構うまいっすよ」
「でも、これから戦闘機に乗りに行くんだから、あんまり食べ過ぎないほうがいいんじゃないの?」
そんな正論はもちろん全員承知の上だが、どうやら空腹には勝てない様子で、それぞれがきちんと平らげていく。しかし、これが自ら地雷を踏みに行くような行為であったことは、あとで発覚するのだが。
7:30 am
戦闘機、フライトスーツ、コードネーム…気分の高揚
道路の先に、長く高いフェンスと格納庫の列が見えてきた。フラートン飛行場だ。ワゴンは正面ゲートではなく、裏口から格納庫がならぶブロックへと向かう。
「おおぉーっ!あそこに戦闘機があるぞ!」
にわかに沸き立つ車内。フェンスの向こうの格納庫に、エンジンを露わにした整備中の戦闘機が一機、そして滑走路脇には、3機の戦闘機が並んでいる。Faustたちはワゴンから降り、インターフォンを押してゲートをくぐって、戦闘機に駆け寄った。
「これに乗るのかー!」
子どものような表情を浮かべ、興奮を隠せないFaustたち。
ここで、現地ロス在住のFaust、櫻木と鎌田が合流する。
「住んでいるのも近くなのですが、いや、本当に乗れるんですね。こんな場所があるとは知りませんでした」
全参戦メンバーが揃った一同は、格納庫脇にヘッドオフィスを見つけると、中へと入っていった。
「おー、来たな、来たな! ようこそ! 私は教官を務めるJim Neubauerだ。ネイルス(Nails)と呼んでくれ」
いかにも一昔前の田舎の飛行場を思わせるウッディなオフィス。そのカウンター脇に立っていた真っ白な口ひげを生やした大柄の白人が振り返り、あふれんばかりの笑顔で握手を求めてきた。
「皆さんの名前は伺っているよ。ただ日本語だし、長くて覚えづらいから、まずは皆のニックネームを決めよう。 KUーNIーHIーRO?は、〈KUNI〉! TAーKAーSHIは〈TAKA〉。MAーSAーRUは〈MASA〉、KAーZUーTOーMO??は、〈KAZU〉! どうだい、いいかね!」
ロックオンの正体すらおぼろげなうちから、いきなりニックネームを授けられたFaustたち。「コードネームみたいで気分出るね!」と、空軍への入隊者のように、気分が乗ってきた様子である。
「まずはフライトスーツに着替えてもらおうか。ブリーフィングはそのあとだ」
狭い通路を通り奥の部屋へと通されると、上腕部にアメリカ国旗が縫い付けられたフライトスーツと、鷹や矢印など様々なマークがペイントされたヘルメットがずらりと並んでいた。Faustたちは上下アンダーウェア一枚になって、つなぎのフライトスーツに足を突っ込み、そでを通し、ファスナーをジャッ!と首元まで上げる。スーツが全身を包むと、、、空気がガラリと変わった。「この姿で戦闘機に乗るのか」と、じわりと実感が沸いてきているのだ。
8:00 am
ブリーフィングで不安と緊張が沸き起こる
部屋を移して、ネイルスによるブリーフィングが始まった。ホワイトボードにはなにやら飛行機のフォーメーション図や照準が描かれている。「戦闘機に乗る」ことはわかっていても、初めてのことのため果たして空中ではどのような世界が展開するのか、ここまできても今一つ“掴みきれていない”感があった。
ネイルスの口から明かされる“戦闘機でロックオン”は、一体いかなるものなのか。Faustたちは固唾を呑んで説明を待つ。
「始めに言っておくが、上空での飛行時間の95%は君たちに操縦してもらうから、気を抜かないように!」
!?——その言葉を聞いた瞬間、Faustたちの空気が一瞬張り詰めた。
「95%も操縦するって、、、そのままの意味なのか!?」
「ロックオンの照準を合わせる操作くらいだと思っていたが、違うのか!?」
戦闘機にはプロのパイロットと一緒に搭乗するため、操縦自体は彼らがやってくれると思い込んでいたFaustたちは驚いた。せいぜい、空中で「少し動かしてみるか?」などと言われ、少しの間操縦桿を動かして、その通りに戦闘機が動くのに感動する、といったオマケ的サービスがあるくらいだろうと想像していたからだ。飛行機のライセンスを持たない彼らが乗るのだから、そう思うのも無理はない。
「それは自分で戦闘機を操縦して、相手を追いかけるという意味か?」とFaustが尋ねる。
「そうだ。いまそう言ったろう」と“では何をしに来たんだ?”とばかりに答えるネイルス。“これはマジだ”と確信するFaustたち。
「ちゃんと教えるから大丈夫、安心しろ。それに危険になったら一緒に乗る私たちが操縦する」
そういうものなのか…? 日本なら考えられないやり方に、アメリカの懐の深さ(?)を感じつつも、ブリーフィングは進んでいった。
「これは本気で聞いておかないとヤバイ……」
Faustたちの表情が、一気に真剣そのものに変わった瞬間だった。
8:30 am
操縦の3大ポイント、ロックオンの4大ルール、そして魔の“グレイアウト”
「まず、上空での操縦でもっとも大切な3点を教える!」
先ほどまでと同様、どうやらネイルスの教え方はいきなり本題から入るタイプのようだ。
1.操縦桿はソフトに持ち、優しくスムーズに動かすこと。
「女性の胸をさわるようにな。ガッハッハ」
2.常に相手の戦闘機を目で探し、目で追い続けること。
「それができないと後ろを取られて負ける。それに手元の計器や操縦桿を見ていると“酔う”ぞ」
3.宙返りの最中に、機体が振動を始めたら、宙返りを辞め、焦らずに立て直すこと。
「振動は危険信号。推進力不足に陥っている証拠だ」
「これだけだ、簡単だろう? あとは実際のフライト時に練習をするから大丈夫だ。次に、ロックオン時の4つのルールを教えよう」
1.必ず敵機の背後を獲るように追いかけ、後ろからロックオンすること。
「前向き同士で交差しては衝突の危険があるから、辞めるように。敵機に500フィート(150m)以内に近づくのもルール違反となる」
2.高度2500フィート(750m)より低く飛んだら失格。
「飛行エリアは海上だが、墜落したくはないだろう?」
3.必ず自分が操縦すること。
「ただし危険な時は“I fly”と言うから、その時は操縦桿を離し、こちらに操縦を譲ってくれ」
4.ロックオンは1対戦につき、4回戦のポイント制。1回目にロックオンしたら4点、2回目は3点、3回目は2点、4回目は1点。これを加算して勝者を決める。
「気持悪くてゲロを吐いたら?」と鎌田。
「マイナス2点だ!」
「それも決まっているのか!」(一同爆笑)
「ロックオンの操作はいたって簡単だ。照準の中央に敵機が入ったらトリガーを引く! 残念ながら実弾は出ないが、電気信号が命中を伝えたら、敵機から煙が出るから、それで判定する」
「最後に、ロックオン対戦時は、スロットルは常に全開にしてある。スピードはおよそ時速350kmほどは出る。そこからの急上昇、急旋回時には、最大で5Gの重力がかかってくるからそのつもりで。これは60kgの体重が300kgになるのと同じで、ここで注意すべきことが起こる。“グレイアウト” だ」
「グレイアウト? 大きな重力のせいで頭から血が下がって失神する〈ブラックアウト〉じゃあないのか?」
「違う。グレイアウトは、ブラックアウトの手前の段階だ。目の前にチカチカ星が飛んだり、視界から色が消えてモノクロになったりする。そして、だんだん視界が狭まってきて……ついには視界が真っ暗に陥る。そうなったらブラックアウト。君たちは失神する」
再度、一瞬、静まり返るブリーフィングルーム。
「…し、失神するって。それを防ぐにはどうしたら??」
「フンッッッ!!!とするんだ」
「え!? フンッて??」
「だから、こう、フンッ!!てやるんだ。思いっきりリキんで、血液を頭にポンプアップするんだ。そうして防ぐ」
……一同唖然である。“高い所に行って耳が変になったらツバを飲めば治るよ”、とでも言うように、さも簡単そうにアドバイスをされたFaustたちは、困惑の表情を浮かべるしかなかった。いや、中には逆に、その危険そうな感じが堪らない!とでもいうように、イキイキした表情を浮かべる“アドレナリン中毒” のFaustもいたが。
「なにか質問は?」
「……」
「ないようだな、では以上!」
9:00 am
上空3000mで繰り広げる戦闘機のロックオン鬼ごっこ
ついに戦闘機に搭乗する瞬間がやってきた。
メイ・ウエストという救命胴衣と、緊急脱出時のパラシュートを身に付け、ヘルメットを抱えたFaustたちは、滑走路脇に待機する戦闘機へと足を向ける。第一陣は、KUNI(桜木)、KAZU(堀)ともう一人のFaustだ。
「やばい……緊張してきた。戦闘機を操縦してロックオンって、どういう世界になるんだろう」
「平気な顔していますね。オレ、緊張してるんですけど」
「オレだって全然平気じゃない、超緊張しているよ……!」
戦闘機の翼を踏み台に、やや緊張の面持ちで、それぞれのコックピットへと身を滑り込ませ、パイロットとともにトリガー、照準など操縦方法の確認をする。
ついに、着火音を皮切りにエンジンがうなり声と動力を生み出していく。プロペラが風を切る音をたてて猛然と回転を始めた。ゆっくりと進み始めた戦闘機は、滑走路へと悠然と進んでゆく。離陸をすべく滑走路の端に一旦停止すると、管制塔からのGOサインを受け、戦闘機は走り出した!
かくしてFaustたちは、L.A.の空へと吸い込まれていったのだった——
果たして、彼らの運命は?
ロックオン時の模様を4機のコクピット内カメラで撮影した動画を公開!
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今回宿泊したホテル
Shade hotel
1221 N Valley Drive Manhattna Beach, CA 90266
Tel.+1 310-540-4997
http://shadehotel.com/
Text:Faust A.G.
Photos:Kazoo Fukuzaki
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