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フィンランド、果てしなき雪原を走り抜ける

A certain day
アウディからの思いがけない招待状

某日、夜の会合。Faustの堀は、アウディジャパン社長のドミニク・ベッシュ氏と出会った。ビジネスや日本と ドイツの話はもちろん、趣味についてなどを語り合ううちに夜はふけ、話題はやはりクルマのことへと移っていった。
「お恥ずかしい話ですが、実はクルマ好きの仲間とレーシングチームを作って、スーパー耐久レースにスポット参戦しているんです」と話す堀に対し、驚きの言葉が返ってきた。
「それはすばらしい。そうだ。では氷の上でドライブレッスンを受けてみる気はありませんか?」
氷の上? サーキットやラリーでもなく、雪道ならまだしも、氷の上って一体どいうことだろう。
「冬の間、フィンランドでアウディが企画しているんです。完全に凍結した路面という極限状況でドライブを体験する、本当のクルマ好きのために提供するスペシャルプログラムです。ぜひご参加いただきたい」
なんと思いがけない幸運な招待! こうして未知なる氷上ドライブを体感するため、Faustのクルマ好きメンバーが集い、フィンランドへと飛んだのである。

1st day
18:00 降り立ったのは“何もない”北極圏

キッティラ空港に降り立ち、周りを見渡すと家もビルも、人影もない!?
空港ではアウディドライビングスクールのスタッフたちが笑顔で握手を求め、温かく歓迎してくれた。

左:ホテルにて夕食でくつろぐFaustの高下。 中:ホテルの部屋は、シンプルな造形にナチュラルな質感、ときにポップな色使いから、北欧のデザインセンスが感じられる。 右:サーモンなど魚介の前菜や牛肉のグリルとワインを楽しむ。

春ただの中の4月初旬、われわれFaustA.G.一行は成田を発ち、フィンランドの首都ヘルシンキから乗り継いで、約13時間の後にキッティラ空港へと降り立った。午後6時、なんと空港の周りにはビルはおろか民家もなく、人通りもない!
ヨーロッパ最北のラッ プランド地方は北緯66度33分以上の北極圏。いまは太陽すらあまり顔を出さない厳しい冬を終え、白夜に入る直前の春の季節だという。とはいえ気温は氷点下10度だったのだが…。

すごいところに来たものだと驚いているところに、アウディのスタッフからの歓迎を受け、空港からホテルへと送迎バスで向かう。ただ、道路は当然のごとくすべてアイスバーンで、バスはそこをさも普通の道路のように、時速100km以上で飛ばしていくのだ。
「これは自然に身に付いた運転技術なんだろうが……恐るべしフィンランド」。Faustの高下も、到着直後からそんなドライブを見せられ驚いた様子。

一体、こんな状況下での氷上のドライビングレッスンとは、いかなる体験なのか!?  いやがおうにも期待が高まっていく!

2nd day
08:00  凍った湖面を走る理論!?

インストラクターのベッカー氏の講義に真剣に聞き入り、質問をぶつける。

ホテルのガレージにはアウディA4がずらりと並ぶ。

ホテルで一夜を過ごし、2日目の早朝。カーテンを開けると広がるのは壮大な雪景色だ。ここフィンランドは、約19万もの湖がある「森と湖の国」。この時期の湖面は50センチほどのぶ厚い氷に覆われるという。

ドライビングウエアに着替えて、レッスンの1時限目がスタートした。ホテルの一室でインストラクターのヤン・ベッカー氏から、氷上でのアクセルのオン&オフとステアリングなど、1時間ほどのレクチャーを受ける。そして、アウディのドミニク社長が言っていた“氷の上のドライビングレッスン”とは、なんと凍結した湖面という究極のアイスバーンでおこなうレッスンだったことが判明! ベッカー氏によると、そこではステアリング、アクセル、ブレーキなどすべての操作が極端に誇張され、クルマは日常では起こりえないアクションをみせるということらしい。
「理論上はわかるが…とにかくやってみないと!」と、堀は無邪気に目を輝かせていた。

勢い込んでレクチャー室を出たものの、早くも最初の試練が訪れた。ホテルのガレージで、アウディの新型A4に一人ひとり乗り込み、レッスン会場となるサルキロモポロ湖へ向かうのだが、当たり前のように、道路はもれなくアイスバーン。急こう配での一時停止で、早くも1台がエンストの洗礼を受けるはめに……。
「おいおい、出だしからこれで本当に大丈夫か〜!?」

11:00  姿を現した超巨大・凍結湖コース

左:湖上にコーンを配した8の字コースをこなしていく。 右:austチームのメインインストラクターのヤン・ベッカー氏と堀。

U字コースで基本のきを学ぶ。

野生のトナカイとの接触事故(珍しくないそうだ)も起こさず、サルキロモポロ湖に到着。氷上ドリフトU字コースで基本のきを学ぶ。
「なんだこれは!? コースというより凍った湖そのまんまじゃないか!」。高下が思わず声を上げる。
広大な湖が厚さ50cmの氷にまるごと覆われ、Audiドライビングスクール専用の氷上コースと化している姿はまさに圧巻の一言だった。インストラクターのベッカー氏が説明する。
「初めはドリフトで曲がる練習です。まず、コーンを立てたUの字コース。先ほどのレクチャーは覚えていますね? なお、レッスン中は、ESP(エレクトロニック・スタビリゼーション・プログラム※)を解除するのを忘れないように。では開始!」

全員「待ってました!」とばかりにアウディA4に飛び乗った。
ととはいえここは氷の上、時速はわずか20kmほどからスタート。これでもドリフトには十分すぎるスピードなのだ。
一回目のカーブを曲がり始めた瞬間——いきなり「Gas! Gas! Gas!」(もっとアクセルをふめ!×3)の声が車内に響いた。車内に置いたトランシーバーを通し、外から指導するベッカー氏から割れんばかりの指示がとんでくる。
しかし、頭では理解しているつもりが、思うようにいかない! 
ご存じのとおり、“カーブに入ったらアクセルはゆるめる”のが通常の世界での常識。その逆を、しかもこんな氷の上で“アクセルを踏み込め!”というのだから、「クルマが突っ込んでしまうのではないか」という恐怖心が先に立って、「はいそうですか」とできるものではない。

ここで簡単に氷上でのドリフトを解説しよう。
カーブへ侵入するタイミングで——1.アクセルを一瞬ゆるめる(orブレーキを踏む) → 2.ハンドルを切って“曲がる” → 3.遠心力が後輪のグリップ力を上回る → 4.と同時にアクセルを思いきり踏み込む! 後輪および前輪(4輪駆動なので)はトラクション(空転) →5.ESPをオフにしているために、後輪のスリップアングルが前輪のスリップアングルを超えて、後輪が大きく外側にスリップ → 6.このオーバーステア状態を利用して、コーナーをより有利なコース取りでクリアする——これがドリフトである。

左右のカーブを学ぶ8字コース。

これをUの字コースに続き、8の字コースでみっちり練習。アクセル、ブレーキ、ハンドルのどれもが強すぎても弱すぎてもダメ。ベストの瞬間と力加減を見極 めるべく、何十回と繰り返す。ここまでで左カーブ、右カーブ、連続カーブなどコーナーリングの基礎を一通り練習したことになる。
ただ、氷上なのでドリフトは容易にかかる一方、時速は20km程度。ゆえにドライバーの目は周りの状況を冷静に追うことができ、スピードによる恐怖心はな いのだ。いわば、微妙な運転を、スローモーションの世界の中で練習できる感覚に近い。おそらく、初心者がじっくりとドリフトを習得するには、これ以上の好 環境はないだろう。これが氷上コースの真の狙いなのである。ただ、レースに参戦している堀にとってはスピード感が足らず、ややフラストレーション気味の様 子がうかがえた。

ハードなドライブに文字通りアツくなってきたFaustたちは、アウターもセーターも脱いで、最後にはシャツ一枚に。さらに窓まで開けてドライブを続け、みっちり走りこんだのだ。

※エレクトロニック・スタビリゼーション・プログラム  ドライバーがどの方向にステアリングしているのか、クルマはどの方向に動いているのか、各所に設置されたセンサーが常に情報を検知し、操縦安定性を総合的に電子制御するシステム。 このドライビングレッスンではオフにしないとプログラムが混乱をきたす可能性がある。


Side story 1
北極圏ビークルでさらなる滑走

2日目の午後は、A4からスノーモービルに乗り換え、時速100キロ超で雪山を滑走。〉〉詳しくは「メフィストの小部屋vol.1」を参照。 中左&中右:たどり着いた先は、ゴーカート(もちろん凍結コース)。本来は余興で用意されていたプログラムだが、負けず嫌いのFaustたちはここでもタイムで競いあった。 下:移動する中で、何度も野生のトナカイに遭遇。その姿にしばしば癒される。

Side story 2
欲しいところに“さりげなくある”ホスピタリティ

ホテルへ帰る前に、ログハウスで休憩。暖かな暖炉の炎、室内にはキャンドルが灯され、穏やかで温もりあふれる雰囲気の中、温かい飲み物とスイーツで一息。 左・中:次に用意されていたのは、芯まで冷えた身体に嬉しいサウナ。その中では雪で冷やしたビールで乾杯! この北極圏流がたまらない。身体がみるみる生き返る! 右:ふと気づけばさりげなく、オリジナルのリップクリームまで置いてある。「ゲストの到着ジャストに合わせ、先回りしてすべてさりげなく用意されている! このホスピタリティは感動ものだよ」と堀。

左:雪で冷やしたもの以上にうまいビールはないのではないか。 中:プログラム後によったログハウスで、ビールを一気に飲み干す堀。 右:ふと気づけばさりげなく、オリジナルのリップクリームまで置いてある。

3rd day
08:00  脅威のアイスバーン・コース3連弾

勇猛果敢に雪へ突っ込む A4を引っ張りだしてくれる雪上車。

3日目はやや吹雪いていたが、北極圏の環境にも少し慣れ、8の字コースのドリフトも徐々に体が覚えてきた。余裕が出てきて「ちょっとスピードが物足りないな〜」などと談笑しているところに、ベッカー氏から「よーし次に行くぞ!」との呼び声が。

Faustたちが湖の奥へと移動させられると、目の前に現われたのはオーバルのトラックコースだった。
「おっ、これは今までと違ってけっこうスピードが出せそう! ただドリフトを誤るとコースアウトして雪山に突っ込むってことか」。がぜんやる気をみせる、わかりやすいFaustたちである。
オーバルコースの直線部分は100mほど。コーナーを抜けてアクセルを目いっぱい踏み込むと、次のコーナーの入り口で、2速でMAX時速50kmほどが出る。

直線部分が100mほどのオーバルコース。

これくらいになると前日の20kmとは、“世界”が大きく違う。まず、「もしも失敗して雪山に突っ込んだら…」という恐怖心を感じるようになること。そして、視界では時速50km以下の世界でも、ドリフト中は2速で7000回転するエンジンが後輪を空転させ、ギャギャギャギャギャギャギャーーーーッと、ものすごい音と雪煙を立てるのだ。スピードもあいまって、ついブレーキを少しでも踏みすぎる(といっても通常では十分弱いくらい)と、ABSが働いて逆にタイヤがロック!で余計曲がらない!? アンダーステアか?
「どういうことだ?? あ、これでもまだ氷の上では強すぎるってことか・・・」
このオーバルコースは、そうした恐怖心?に打ち勝ち、自分のテクニックを信じて走るための、心理的トレーニングでもあるのだろう。

ドーン!!
その心理戦に打ち勝った(?)Faustの一台が、果敢にコーナーを攻め、豪快にコース際の雪山に乗り上げた。
「おー! よくやった。やっぱりそうじゃなきゃ!」と高下、堀は喝さいを贈る。「あ〜あ、でも車体がベコッってなってるけど……」
脇で待機していた巨大な雪上車(最初からずうっと待機していてくれた!)が、牽引してコースに引き戻してくれた。しかしそれだけ。車体のヘコみのほうは、どうやらオトガメがないようである……? 
コースにも慣れ、加速度的に大胆な走りをしていくFaustたち。ドーンと雪山に乗り上げても、ベッカー氏に「スマン!」と、軽いあいさつでコースに戻っていく。
アウディの太っ腹に感服しつつ、Faustたちの無邪気ぶりにも脱帽である。
続いて同じコースを逆回り。たったこれだけでワダチやコーナーの具合が変わり、また四苦八苦するのだから面白い。そうこうと周回を重ねていくうちに、A4 との間に信頼感が生まれ、みるみるアグレッシブな走りができるようになっていく。再び余裕の様子で「日本の雪道でもやってみたいな〜」と一息入れていると、見越していたかのようにまた「Next!」の声。
「え!? まだコースがあるの!?」

右:ゾゴゴゴゴゴゴーッ!聞いたことのない音と雪煙を巻き上げてドリフトするFaustのA4。
右下:ハンドルを握る手に注目。非常にソフトな握りで、微妙なニュアンスをタイヤに伝えている。 
下:コントロールを失い、雪に乗り上げるA4。健闘をたたえ?笑い声と賞賛の拍手が沸きあがる。

14:00 全長3km! 氷上本格サーキット

ランチ後に移動した先で現われたのは、直線のほとんどない“グニャグニャ”なロードコース。細かいカーブの連続をひたすらドリフトをし、全長1.5kmほどを1週2分ほどで周回する。ここではとにかく、オーバルコースで培った左右のドリフトを、骨身に叩き込んだ。
そして、次の最後のコースが大本命だった! さらに移動すると、全周約3kmの広大なロードコースが待ち構えていたのだ。

「これはすごい!! まさに本格的な氷のサーキットだ!」

全長3kmはあろうかという壮大なロードコース。氷の上に現れたサーキットである

ロードコース全長3kmはあろうかという壮大なロードコース。氷の上に現れたサーキットである
このときのFaustたちのはしゃぎっぷりったらなかった。いくつものカーブと直線を連ね、最後の直線はMAXで4速150km超は出せる、1周1分数十秒ほどの勇壮な氷上ロードコースを目の当たりにし、テンションは急上昇! われ先にとコースへ乗り込み、コンマ1秒でも速く周回することを決死の表情で追求する。気がつけば、夢中でプログラムをこなすうちに、初日では想像もつかないテクニックが身に付き、難なくロードコースを周回し始めたではないか!
がしかし、好天による温度の上昇で氷が溶け、路面がすべりにくくなりドライブの危険性が出たとして、残念ながらレッスンの中断が告げられた。だがまだ最終日の明日の午前中が残っている!

Side story 3
犬とうなり声で会話する犬飼い

レッスン中断を残念に思うFaustたちだが、代わりのプログラムが用意されていた。それが犬ゾリ! なんと犬は、犬飼いたちの「ウオォォォォ」という狼の遠吠えを思わせるかけ声に従い、走り、方向を変え、止まるのだ。 伝わってくる犬たちのパワーがものすごい。スピードは時速20kmは出る上、油断すると、犬のパワーを抑えきれず転倒しそうになる。〉〉詳しくは「メフィストの小部屋vol.2」を参照。

4th day
09:00 「タイムアタック」、その声を聞いて顔が変わる

 

そしてついに最終日の4日目。
「最後はフライト時間ギリギリまで、サーキットコースで自己ベストタイムにチャレンジします。ラップタイムも計りますよ!」とベッカー氏。

競争と聞いた瞬間、Faustたちの顔つきがガラッと変わった!

高下も堀も、Faustたちはなにかが吹っ切れたかのように、強気にアクセルを踏み始めた。一気に盛り上がりを見せるサーキット。スピードが上がればスリルは増し、アドレナリンが分泌される。アクセルとアドレナリンが比例して、どんどんエキサイトしていく。何度も何度も周回を重ね、闘争心と負けず嫌い性をむき出しにしながら、いい大人が本気でライバルたちとタイムを競い合った。
「よっしゃー、来てよかったー!!」と、堀は全開でA4を飛ばし、コーナーを攻め、果敢にタイムアタックに挑む。
ただ、それが逆に“アダ”となって、タイムアタックの2週目ではコースアウトし、リタイアとなってしまった。対して高下は、きっちり2周を走りぬき、見事ゴール。ベストタイムでは、ファウスト・レーシングチームのレーサーでもある堀がやはりトップだった。
堀は、「それにしてもみんなめちゃくちゃ上手くなったよね! スキーでいえば、初日に初めて板を履いたのに、最終日には大回転で急斜面を滑走してる、みたいなものじゃない?」と笑顔満面だ。

確かに、初日とは見違えるほどのテクニックで、MAX150kmからの豪快なドリフト走行を繰り広げ、見事、氷の上でアウディ A4を乗りこなすFaustたちがそこにいた。これもすべて、アウディが用意したプログラムと凄腕インストラクターたちの的確な指導のなせる“マジック” だろう。

こうしてあっという間に、極北の地でのアウディドライビングレッスンは終了を迎え、Faustたちは最高の気分でコースを後にしたのだった。

——この後、アウディから“抜き打ち表彰式”というサプライズが用意されているとも知らずに……

  • ◎“表彰式”の結果と、体験者の熱い感想を知りたい方はコチラ体験者インタビュー~メフィストの部屋へ~
  • ◎具体的な旅程を知り、同じ体験をしてみたい方はコチラこの冒険へ行きたい方へ~Naviへ~

Data

犬ゾリ

Torassieppi Huskies

Tel.+358-400-970-035

今回の宿泊先

Lapland Hotel Olos

Olostunturi,Muonio,99300
Tel.+358-(0)16-536-111

http://www.laplandhotelsandsafaris.com/index1089.html

キッティラ空港からクルマで約45分のところにある

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