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Vol.2 
愛機「エクストラ200」初フライト!
今、蒼き空は夢実現への舞台となる

ファウストの飛行機チームは、ただ飛ぶだけの飛行機チームではない。
エアロバティック(=アクロバット飛行)の修練を旨とし、世界選手権への出場を目指すチームなのだ。
キャプテンは芦田博。指導を行うスーパーバイザーは、レッドブルエアレースで世界の空を転戦中の
日本No.1パイロット、室屋義秀!
そしてついにこの夏、念願のチーム用アクロバット飛行専用機が完成した!
「エクストラ200」――ドイツのエクストラ社が開発した同機は、素直な操縦性能と高い運動性能を持ち合わせるハイスペック機として知られている。 ファウストカラーである、ネイビーとイエローを基調とした美しき機体が、宙返り、急降下、急上昇、連続ロール! 紺碧の空を縦横無尽に翔けめぐる!!

高原の緑に彩られた片側一車線の坂道を登り切ると、アスファルトの舗装路が眼前に拡がる。幅25メートル、長さ800メートルに及ぶ滑走路だ。広大な青空へとつながる一本道──“天空の飛行場”と呼ばれる『ふくしまスカイパーク』である。
8月下旬、Faustのエアロバティックスチーム“unlimited”が、ついに始動することとなった。エアロバティックスとはアクロバット飛行や曲芸飛行とも呼ばれ、決められた空域のなかで一定のルールのもとに驚異の飛行技術を競うスカイスポーツである。競技の本場はアメリカで、同国では1年に50以上の大会が行なわれているという。そして、アクロバット飛行をチームとして体験・練習するのは、“unlimited”が日本で初めてとなる。
舞台となるふくしまスカイパークは、福島市の飯坂温泉から車で10分ほどのロケーション。自然に恵まれた環境が、桃、なし、さくらんぼといった果実を、四季を通じて全国の市場に送り届ける、のどかな山間地域だ。

 

記念すべき、この日のために

芦田と室屋の2人でハンガーからエクストラ200を押し出す

「ついに来たね、この日が。長かったよなあ、本当に」

チームのキャプテンを務めるFaust芦田博が、自分に問いかけるように話す。室屋義秀は肩を小さくすくめ、穏やかな表情で芦田の顔をみつめた。今年、アジア人初のレッドブル・エアレースパイロットとなった室屋は、チームのスーパーバイザーだ。実は、彼らは古くからの友人でもある。
室屋が納得するように呟いた。
「ホントに。やっとだなあ」

ホワイトボードに「シークエンス」と呼ばれるフライトプログラムを書き、マニューバーを決定する室屋(手前)、芦田(奥)
室屋による今回のアクロバット飛行の解説(画像クリックで動画を再生します)。
ハンガーの一角にはレッドブル仕様のエクステラ300Sが。

彼らの視線の先には、8月に完成したばかりの『エクストラ200』が駐機されていた。色鮮やかなブルーとイエローでコーティングされた機体には、様々な思いが込められている。そして、この日を迎えるまでの彼らは、喜びや楽しみよりも苦みや痛み、歯痒さを噛みしめることが多かった。
胸に去来する思いは、ひと言や二言では語り尽くせないのだろう。機体展示場でもあるハンガーの片隅にあるソファーに身体を預けながら、芦田と室屋は互いの思いに共鳴させていた。

「さあっ、始めましょうか!」
室屋が声をかける。芦田も両膝を叩き、「よし」と気合を入れて立ち上がった。
ホワイトボードの前へ進んだ室屋が、青色のペンでこの日のメニューを書き込んでいく。要するに、どのようなエアロバティックスを行うかを記号で表した3次元の飛行コース図である。
エアロバティックスのコンテストは、プライマリー、スポーツマン、インターメディエイト、アドバンスド、アンリミテッドの5つのカテゴリーで行なわれ、室屋が用意したのは「スポーツマン」だった。「基礎的なメニューですよ」と、芦田が補足する。
芦田が細かな質問をして、室屋が答える。細かなやり取りが繰り返される。必要に応じて、室屋は黒いペンで補足説明をボードに書き込む。芦田は納得したように頷き、目を閉じて操縦桿を握る仕種をする。頭のなかでイメージを固めているのだ。広告クリエイターとして活躍するビジネスマンの殻を脱ぎ、パイロットとしての芦田が覚醒していく。

「半分宙返りして半分ロール、そのあと、きりもみをして一回転……」
メニューを反芻する芦田が納得するのを、室屋は静かに待つ。芦田自身がきっちり整理をしなければ、実際のフライトでメニュー通りにいかないからである。

ブリーフィングを終えた二人は、機体を滑走路の手前へと、手で押し出していく。車庫入れのように数機の機体を入れ替えるのだが、「けっこうすごい飛行機ばかりなんですよ」と、室屋が秘密を打ち明けるように話す。『セスナ172NスカイホークⅢ』や『ムーニーM20K』などの名機が揃っているのだ。アクロバット専用機も、『エクストラ200』を含めて5機あり、室屋が国内のエアショーで使用するレッドブル仕様の「エクストラ300S」も含まれる。

 Faustのエアロバティックスチームが所有する『エクストラ200』は、ドイツのエクストラ社の開発によるものだ。操縦性能と運動性能を兼備したハイスペックなエアロバティック機で、軽量でありながら戦闘機並みの耐性を持つことでも知られている。全長は6・51メートルだ。ちなみに、大型SUV車のハマーの全長が4・68メートルである。

 

 

 

芦田と室屋に呼応し、咆哮するエクストラ200

 

穏やかな日差しを浴びた二人は、機体の点検を始める。フライト前に決して欠かすことのできない作業のひとつだ。胴体、主翼、尾翼、プロペラ、エンジンなど、チェックリストは20以上を数える。ドライバーを右手に持った芦田が、ネジ1本までチェックしていく。
機体によって構造が微妙に異なるため、初フライトのこの日はとくに細かなチェックがなされていた。
「点検でもう、ひと汗かいちゃうんだよね。うわあ、あっつい。これでちょっと、モチベーションが下がっちゃうんですよ」
頬をつたう汗を拭いながら、芦田が苦笑いをする。あとから付け足したフレーズは、もちろん本心ではないだろう。

フライト前の給油。自動車のハイオクを上回る専用の高品質なガソリンが注がれる。
機体の一箇所一箇所を綿密にチェックする。

――さあ、いくぞ。いよいよだ。
それまでの落ち着いた雰囲気が消え、わくわくとした気持ちがはっきりと浮かんでいる。そんな芦田を見つめる室屋の視線にも、力が宿ってきた。百戦錬磨の男も、さすがに興奮してきたのだろうか。
入念な点検ののちに給油を終え、フライト前の準備は整った。腰に巻いていたフライトジャケットに袖を通し、非常用のパラシュートを装着する。ヘルメットをかぶり、コクピットの前席に芦田が乗り込む。後ろの席に坐った室屋はサポート役だ。
あとは、『エクストラ200』のエンジンに命を吹き込むだけだ。

「クリアー、プロップ!」
エンジンに火を入れる室屋の合図が掛け声のように響いた

ボッボッボッボッ、ブォォォーーーン!

前部座席に芦田、後部座席に室屋が搭乗。2人乗りだ。

勢いよく廻り出したプロペラが、爆音を轟かせる。暴風にさらされた誘導路周辺の芝生が、風圧で一方へ傾く。
コクピットの芦田と室屋が、左手を軽くヘルメットに添える。行ってくる、という合図だ。初フライトの瞬間が、刻々と近づいてきた。

旅客機のテイクオフの場合、滑走路端で一度停止し、管制塔からの指示を受けてから飛び立つ。しかし、事前に離陸許可を受けている彼らは、滑走路端で止まらずにそのまま離陸することができる。ローリングテイクオフと呼ばれるものだ。
スピードをあげて浮上速度を確保した『エクストラ200』が、機体の前方から滑走路を蹴りあげる。エンジン音が遠ざかる。雲ひとつない青空に、イエローとブルーのボディーが軽やかに溶け込んでいった。
景色が高速で流れていく中、芦田の意識は操縦桿と両足に集中していた。方向を定め、高度を見極め、回転に備える。3つの動作をマッチさせることで、アクロバット飛行は成立していくのだ。
機体が雲間に消えたかと思えば、数秒後に再び現れる。急角度で上昇と降下を繰り返し、クルクルと旋回をしていく機体は、子どもが思いのままに操る模型飛行機のようだ。それぐらい不規則で、しかし自由自在に、そして何よりも鮮やかな軌道を、芦田が操縦する『エクストラ200』は描いていった。目印と呼べるものは何ひとつない大空も、彼にとってはイメージを具現化する青いキャンバスのようだ。

 

世界選手権への第一歩

スモークをなびかせながら超低空で飛行するエクステラ200。

悲願の初フライト動画を再録!
WAC出場への夢へ向かい、芦田のフライトは始まったばかりだ。

初フライトを無事におえ、笑みを浮かべる芦田(右)と室屋(左)

Faustチームとしては初めてのフライトとなった芦田だが、すでに70時間強のアクロバティック飛行経験がある。ヘリコプターやセスナの操縦席でも、かなりの時間を過ごしてきた。フライトに際しての恐怖はすでにクリアしているし、旋回や急降下の際に襲ってくるG(加重)も体験済みだ。機体はもちろん自分をコントロールする術を、彼は身につけている。だからこそ、初めて操縦する『エクストラ200』の運動性能を、十分に引き出すことができたに違いない。

滑走路の上空へ姿を表した『エクストラ200』が、着陸へのファイナルアプローチに入った。接地、滑走、減速、静止というプロセスを経て、イエローとブルーの機体が誘導路へ戻ってくる。

ヘルメットを脱いだ芦田の髪の毛が、じっとりと濡れていた。興奮と感動に混じって、安堵感が滲んでいる。ほっとしているような表情が浮かんだ。
それも当然だろう。アクロバット飛行には、いつだって生命の危険が伴う。過度の緊張にさらされた自分を解放するのは、フライトプログラムを締めくくる大切な作業だ。
帰還直後はいつも、反省から始まる。この日もそうだった。
「上がりながら、どうしても左側へ行っちゃう感じなんだよね」
芦田が右手で弧を描く。
室屋は何度かうなずいた。
「でも、初めての操縦にしては、悪くなかったでしょう」
学生時代は柔道に打ち込んだこともあって、「いつも自分を痛めつけないとダメなんですよ」と芦田は笑う。
目標はズバリ、WAC──ワールド・エアロバティック・チャンピオンシップスだ。曲技飛行の国際大会としてはもっとも伝統があり、かつ規模が大きい。アクロバット飛行のとりこになった者なら誰もが憧れる大会が、芦田が自らに課したゴールである。

その第一歩を、彼はついに踏み出した。少年時代から仰ぎ見てきた空が、夢実現の舞台となった。

 

 

Data

WAC
http://www.wac2009.com/

スーパーバイザー室屋義秀の連載
「大空の覇者へ! 室屋義秀、レッドブルエアレース・チャンピオンへの挑戦」
http://www.faust-ag.jp/master/cat91/master001.php

ふくしまスカイパーク
http://www.ffa.or.jp/fsp/about.html

飛行機管理・運営:チーム・ディープブルース
http://www.deepblues.co.jp/aero/

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