再び「はぐれ熱帯魚」を救え!
子どもたちとの交流を通じて
「はぐれ熱帯魚」のために冷たい海に飛び込む
千葉、鴨川。秋の気配が近づく10月のはじめ。風は少し冷たさを増していた。
この海で、今年もまた「はぐれ熱帯魚」を救うためにファウストたちは、子どもたちと共にやってきた。
昨年夏、六本木ヒルズで開催された「東京アクアリオ2010」において、ファウストの社会貢献プロジェクトチームキャプテンの糸見バーリン黎と、アクアリストの木村英智が中心となって、土浦にある児童養護施設「窓愛園」の子どもたちにアクアリウムをプレゼントした。そのアクアリウムには、昨年の秋、子どもたちと共に同じ鴨川の海で救い出した熱帯魚たちを放し、子どもたちが大切に育てていた。
はぐれ熱帯魚とは、専門的に言うと「死滅回遊魚」のこと。夏の間の温かい潮流(黒潮)に乗って千葉の海まで流れ着く熱帯魚たちは、秋になって潮流が冷たくなると帰れなくなり、そのまま死滅してしまう運命にある。それを見つけて救い出し、環境の整ったアクアリウムで飼育している。
「命の大切さ。自然の苛酷さ。アクアリウムを通して、それらを学んで欲しい」、そんなプロジェクトだ。
木村の願いと共に託されたアクアリウム。しかし、一年を経た今、その魚たちも、少しずつ数を減らし、現在は3匹にまで減っていた。それは、アクアリウムの難しさと、魚たちの命を学ぶ一つのきっかけにもなっていた。
とあるファウストから
新たな大きなお申し出
「再び子どもたちと共に、はぐれ熱帯魚を救いに出かけたい」
それは、ファウストたちの願いでもあり、子どもたちからの希望でもあった。
そして10月初めの某日、団体バスに揺られた子どもたちが鴨川に到着。昨年と同じ顔ぶれもあれば、新たに加わる子どもたちも。いずれも目を輝かせて、降り立った。
「今日のこの日を楽しみにしていたんです」
と、最年長の高校一年生のトシキくんが挨拶。今回は、生まれて初めて海にやってきたという小学校一年生の男の子も参加している。
今年は、この「はぐれ熱帯魚」プロジェクトへ、あるファウストが、自らが経営するA社ぐるみでの協力・参加を申し出てくれたのだ。子どもたちはA社が手配してくれた大きなバスでの旅に感動した様子。
「バスの中で映画を見たんだよ」
「僕、感動して泣いちゃった」
子どもたちは、バスでの出来事をうれしそうに話し始める。
参加するファウストの人数も増え、A社の社員、その家族たち20名ほども集まり、今回は昨年よりも多くの人数がこのプロジェクトに参加した。賑やかに歩きながら、鴨川の隠れスポットへ。
「去年はエビばっかり採ったから、今年はちゃんと熱帯魚を採りたい」
「去年は9月だったよね。忘れないよ」
子どもたちは嬉々として話しかけてくれる。
木村は、昨年のアクアリウム設置から、数回に渡るメンテナンスにも出かけており、糸見は卒園式にも参加。窓愛園の子どもたちとは、すっかり打ち解けている。昨年の時よりもグッと距離も縮まって、より一層、笑顔は輝いて見えた。
「今年は台風が過ぎた後だから、昨年よりも海の水は冷たいけれど、熱帯魚は見つけやすいんだよ」
木村の言葉に、子どもたちは我先にとシュノーケルをつけて海へ潜る。
「キレイな魚がいる」
「泳ぐのがすごく早いよ」
海で冷えた体を浜の焚火で温めては、再び海にチャレンジする。網を片手にじっと魚を狙っていた糸見が、美しい熱帯魚を捕まえると、子どもたちはわっと歓声を上げた。少しずつバケツに増えていく魚たちを見ながら、
「あれは僕がとった」
「あの魚はなんていう名前?」
と話し合う。
そして木村が巨大なウツボを捕まえると、子どもたちはそれに群がる。
「ウツボはかみつくから気を付けて」
と木村が注意を促すと、
「かむと痛いの?」
「変な顔だね」
「水槽に入るの?」
と、質問を投げかける。一つ一つの出来事が子どもたちにとって新鮮で感動に満ちているようだった。
陸でもたくさんのコミュニケーション
未来の夢を語る子どもたち
魚を集め終えてからは、鴨川の温泉宿「宿中屋」へ。ここで温泉に入り、食事を食べる。
「去年も思ったんだけど、本当にごはんが美味しいね」
「またみんなで来られて良かった」
と、子どもたちは素直な感想を言う。大喜びでおかわりをして、残さずキレイにお昼を食べてからも、子どもたちはファウストたちと話す時間を楽しんでいた。
今回は、ファウストやスタッフの家族である同年代の子どもたちとの交流も楽しみながら、
「そっちの小学校では何が流行っているの?」
などと話している声も聞こえてくる。
ファウストや、スタッフ、参加者たちの周りには、園の子どもたちが常にいて、様々な話をしていた。
「将来の夢」「家族のこと」「学校の勉強」「恋のこと」「好きなテレビのこと」
子どもたちは打ち解けて、たくさんのことを話し始める。
「海だけじゃなくて、こういうのが楽しいの」
小学生の女の子の一人が、そう言って笑う。
楽しい食事のひと時を過ごし、続いて再びバスに乗り込み、一路、土浦の「窓愛園」へ。
園では海に来ることができなかった小さな幼い子どもたちも待っていた。
「昨年の魚たちは、ここを縄張りにしてしまっているから、新しい魚が来るといじめてしまう。だから、これまでここにいたこの魚たちは今日で園を卒業して、僕のオフィスに引っ越します。そして、新しい魚たちが今日から窓愛園のアクアリウムの仲間になります」
木村がそう伝えると、昨年の魚たちとの別れに少し寂しげな子どもたち。
「卒業するんだ……」
と言いながら、バケツに移された魚たちを見つめる子どももいた。
いよいよ、水槽の水が交換され、鴨川から運ばれてきた魚たちが中へ入る。
アメフラシやチョウチョウオ、色とりどりの魚たちがアクアリウムの中に入ると、パッと華やいだ海の景色がそこに広がる。
「うわあ……」
という歓声と共に、拍手が沸き起こった。小さな子を大きな子が抱きかかえて、アクアリウムを見せてあげたり……。
「来年には、もっとたくさんの魚たちが残っているように、がんばります」
子どもたちは決意を新たに、完成したアクアリウムの前に集まった。
「そうだね。来年やってくる新しいお魚たちのためにも、アクアリウムについて少しずつ学んでいこう」
木村の言葉に、子どもたちは明るく返事をした。
「来年は、もっとたくさんの魚が卒業できるようになるはずだよ」
子どもたちは、アクアリウムと向き合うことを新たに決意したようだった。
「バイバイ、またね」再会を約束して
こうして楽しいひと時は過ぎていき、別れの時間が近づいてきた。
今回は、海を楽しみ、はぐれ熱帯魚を救うことも楽しみながら、同時に、園の子どもたちがファウストやスタッフとの交流も楽しんでくれていた。
スタッフとして同行したカメラマンのカメラに夢中な子どもたちもいて
「ぼくのこと写真にとってよ!」
「カメラ、触らせて。撮らせて欲しい」
と大人気。
スタッフたちもまた、子どもたちからたくさんの声を聞くことができ、関係は更に深まったように感じられる。
「今回は、はぐれ熱帯魚を救うことができたのはもちろん、普段できない経験ができて楽しかった。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」
今回、子どもたちのリーダーとなってくれたトシキくんの言葉に、子どもたちみんながうなずいて笑う。
社会貢献プロジェクトチームキャプテンである糸見は、その言葉を受けて
「もっと、たくさんの機会に、みんなと時間を過ごしていきたい」
と、話す。そしてそれは、今回参加したファウストたちみんなの願いでもあった。
このプロジェクトは早朝から夜遅くまで、一日をフルに使っている。しかし、ファウストもスタッフたちも疲れを感じない。
「去年も今年も大変というよりも、一緒にいることができて楽しい気持ちのほうが大きい。日々、忙しく暮らしているけれど、こんな一日があって心が休まった気がします。こちらこそ、みんなにありがとうって言いたいです」
糸見は、子どもたちにそう伝えた。
新たに参加したファウストも満足そうな微笑みを浮かべている。
アクアリウムを通して始まったこの「窓愛園」との縁は、これから更に深まり、広がっていくことだろう。
別れの時、子どもたちは外までファウストたち、A社の参加者たちを見送った。
「また来てね。ありがとう」
「バイバイ!またね」
子どもたちからも「また」という言葉が自然に聞くことができた。走りだす車に伴走するように手を振る子どもたちの姿を見ると
「本当にまた来たい。もっとたくさんの形で力になれたら」
と、糸見も心からつぶやく。
これからもこの関係が続いていくことだろう。
児童養護施設「窓愛園」
「子どもたちが快適で、安心できる生活空間」を最優先に、一般家庭ではできない、優れた環境を活かした茨城県土浦市の児童養護施設。1歳~高校生の児童約50名が暮らしています。http://www.souai.org/
Text:Sayako Nagai
Photos:Kiyoshi Tsuzuki
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