HOME > SOUL > From NATIONAL GEOGRAPHIC > オマーンの飛び地にあるクライマーの楽園 [From NATIONAL GEOGRAPHIC]

オマーンの飛び地にあるクライマーの楽園
[From NATIONAL GEOGRAPHIC]

中東の国オマーンには、ムサンダム半島という「飛び地」がある。
世界で最も混み合う石油輸送路であるホルムズ海峡に面し、わずか40キロを隔ててイランと向き合う半島は、世界でも有数の軍事戦略上の重要地点だ。何百年もひっそりと孤立してきたこの土地を、部外者が訪れることはめったにない。

山がちな半島の海岸線は複雑で、いくつもの湾や入り江が迷路のような地形を織りなすリアス海岸となっている。海辺にそびえる石灰岩の断崖や絶壁に挑んだクライマーは、これまでほとんどいなかった。

クライマー歴28年の筆者も、これほど魅惑的な岩石層は初めて見た。一帯の断崖は海からいきなりそびえ立ち、「ディープウォーター・ソロ」と呼ばれるスタイルで登るには、絶好のポイントとなっている。
ディープウォーター・ソロとは、深い海や川、湖などの水辺にある岩を限界ぎりぎりまでフリークライミングで登り、力尽きたら水に飛び込むというスタイルだ。ロープを使って降下する方法と違い、落ちるときに一歩まちがえば大けがや死亡にもつながる。

トップ写真:フリークライミングで限界まで登り、最後は海へ飛び下りる「ディープウォーター・ソロ」と呼ばれるスタイル。(Jimmy Chin/National Geographic)

密輸業者の行き交う海峡でフリークライミング

ムサンダム半島へ遠征にやって来た私たちのチームは総勢6人。このうちアレックス・ホノルドとヘイゼル・フィンドレーは、世界でも指折りの若手クライマーだ。

事前の調べで目をつけていた場所の一つが、サラーマ島というホルムズ海峡の無人島だった。同行したガイドは「イランに近すぎる」と渋い顔をした。ガイドは首都マスカット在住の元警察官だ。
濃霧の向こうに、海峡を通過する石油タンカーの巨大なシルエットが浮かぶ。荷箱を山積みした高速艇が何十隻も海上を往来している。「密輸業者ですよ」と、ガイドが教えてくれた。

国連の経済制裁下にあるイランでは食料や医薬品、その他の物資が不足している。ムサンダム半島で最大の町ハサブは、イランから高速艇で1時間、アラブ首長国連邦のドバイから陸路で200キロほどの距離にあり、密貿易の一大拠点となっているのだ。

サラーマ島には昼過ぎに到着した。島とは名ばかりの、海からそびえ立つ巨岩だ。船を係留する場所がないので、エンジンをかけたまま、島の少し沖に停泊することにした。
島をとりまく断崖には、海水の浸食作用で洞窟ができていた。アーチ状の天井には、暗灰色の石灰岩に、手がかりや足場になりそうな小さな凹凸が点在する。これこそ、求めていた挑戦の舞台だ。

※ ナショナル ジオグラフィック2014年1月号より抜粋

ナショナル ジオグラフィック2014年1月号

アマゾン最強の先住民を知っていますか? 特集「闘う先住民 カヤポ」では、独自の文化を守りつつスマホなども使いこなすカヤポ族に密着。このほか、博物館は知の宝庫/出稼ぎ労働者の愛と孤独/コモドオオトカゲ/ソチ五輪/クライミングの楽園/の特集6本を掲載します。Webサイトでは、ダイジェスト記事のほかフォトギャラリーや動画も!

http://nationalgeographic.jp/nng/article/20131219/377682/

Back Number

Page Top


  • Mail News
  • 画像クリックでイメージムービーがSTART

  • 冒険のクロニクル  Presented by BREITLING
  • Award Archive
  • ファウスト魂