Vol.9
三たび「はぐれ熱帯魚」を救え!
子どもたちと夏の海へダイブ!
ファウスト A.G.は、活動テーマに掲げる社会貢献活動として、児童養護施設「窓愛園」に本格的なアクアリウムを贈るチャリティプログラムを2010年から行っている。関東近海にまで温かい潮流によって流されてしまった“はぐれ熱帯魚”を、児童養護施設の子どもたちとともに救い、また、子どもたち自身でその魚を育てるという体験。単に「もの」を贈るのではなく、「本物の体験」を共にすること、「育てる」という継続的な活動が、彼らの心に響いてくれたら、という思いから生まれたプロジェクトだ。
千葉、鴨川。9月半ばの空はまだ残暑の熱を帯びていた。この海で、今年もまた「はぐれ熱帯魚」を救うプロジェクトを行うために、ファウストたちはやってきた。
今年の夏にコレド室町で開催された「アートアクアリウム展」をプロデュースしたアートアクアリストの木村英智と、ファウスト社会貢献プロジェクトチーム・キャプテンの糸見バーリン黎が中心となって、土浦にある児童養護施設「窓愛園」の子どもたちにアクアリウムをプレゼントしたのが、ちょうど二年前のこと。「はぐれ熱帯魚を救え」プロジェクトも、今年で三回目を迎える。
このはぐれ熱帯魚とは、専門的にいう「死滅回遊魚」のこと。夏の温かい潮流に乗って南の海から千葉まで流れ着く熱帯魚たちは、秋、冬になって寒くなるとそのまま千葉の海で死滅してしまう運命にある。これらを一昨年、去年と、この時期に窓愛園の子どもたちと一緒に救い、園に寄付したアクアリウムで育ててきた。しかし残念ながら、昨年の魚たちは少しずつ減ってしまい、ニジギンポやエビなどがわずかに残るだけになっていた。
今年は、このプロジェクトの前に、子どもたちは「コレド室町」のアートアクアリウム展に足を運んだ。壮大なスケールで展開される金魚たちとアクアリウムを見て、感動した子どもたち。
「ネットの画像で見ていた『花魁』の水槽がこんなに大きいなんて」
と、感動の声を上げていた。そして
「今年こそ、救ったはぐれ熱帯魚たちを、無事に育てたい」
という決意を新たにしていた。
子どもたちを迎える虹の橋
当日、朝8時、子どもたちを乗せたバスは、順調に鴨川へと近づいていた。
しかし、その直後に突然の雨。雨が降れば、さすがに海でのはぐれ熱帯魚の採取は難しい。ファウストたちも悩んでいたが、1時間ほどで雨はキレイに止み、見上げた空には美しい二重の虹がかかっていた。虹の下をバスは走り、子どもたちが鴨川に到着。
「みんなが晴れを連れてきたね」
ファウストたちの声に、子どもたちも笑顔を見せる。
三年目ともなると子どもたちも慣れたもの。自分たちの網やシュノーケルを片手に、意気揚々と磯へと向かう。
「今年は、三回目になる子も、初めての子もいますが、必ず新しいお魚を持ち帰ります!」
高校二年になるアヤカちゃんは、気合も十分だ。
「今までは、どんな小さな魚も、みんなと一緒に獲ったから連れて帰っていたけれど、今年は本気で熱帯魚だけを捕まえていこう!」
ファウストの木村も、決意表明をする。
昨年からこのプロジェクトに賛同・協力する、ファウスト会員が代表を務めるA社からの皆さんも参加、交流しながら楽しく遊ぶために、初めに四つのチームを作った。
「それぞれのチームでベストを尽くそう!」
木村の声に、子どもたちが次々と海へ飛び込んでいった。
シュノーケルで海の中を覗いてみた子どもたちが
「青い魚たちがいる」
と、歓喜の声を上げる。
深い青を身に纏うソラスズメが群れをなして泳いでいた。子どもたちも捕獲のために健闘するが、さすがは魚、泳ぎが早い。
「何だか俺たちのこと馬鹿にしているみたいに、すぐ横をすり抜けていくんですよ」
高校三年生になるトシキくんは、笑いながら言う。
今回、初めての参加で、生まれて初めての海を体験したのが、ヒカルちゃんとユイちゃんの二人。海の水が怖くて、なかなか海の中に入れない。浮き輪をはめても
「怖いよ」
と、泣きだしてしまう。先生やファウストたちにゆっくりと導かれ、海の中へ身をつけた二人は、浮き輪で浮かぶ楽しさを体感した様子。
「海のお水って美味しい」
と、海水を舐めて大はしゃぎ。ファウストの糸見は、浮き輪に浮かぶユイちゃんの手を引いて、一緒に海水浴を楽しみながら、はぐれ熱帯魚の捕獲にも余念がない。
「獲れたよ!」
糸見の健闘の末、黒い体に青いラインが美しい、ホンソメワケベラが獲れた。それぞれのチームで、小さな魚から、ヤドカリ、エビなど、思い思いに採取し、海と触れ合う。
そんな中、じっと潜ってはぐれ熱帯魚探しに集中していた木村が、大声を上げた。
「やったぞー!!」
彼の網の中には、「はぐれ熱帯魚」プロジェクト史上、最大の熱帯魚、ツノダシが入っていた。バケツに放たれたその魚を見て
「本当の野生の熱帯魚だ」
「ニモに出てた」
「すごくきれい!!」
と、子どもたちも歓声を上げる。
From Faust A.G. Channel on [YouTube]
十分に魚を集め、そろそろ引き揚げようかというその時、不意に遠雷が鳴った。見ると水平線の向こうに雨雲が立ち込めていた。
「引き揚げましょう!」
子どもたちは名残惜しくも海から上がる。バケツには魚たちがいっぱい。やり遂げた満足感が、子どもたちの表情から窺えた。
バイキングと温泉
大興奮の子どもたち
海から上がった子どもたちは、そのまま再びバスに乗り、近くにある温泉ホテルへ。大きなロビーに入ると、ロビーの突き当りから海が見えた。
「さっき、あそこにいたんだよね」
子供たちが、磯の方を指さした。
温泉へと向かった子どもたちは、大きな千畳敷の温泉からも海を眺め、露天風呂など、さまざまなお風呂を浴びて楽しんだ。ランチはブッフェスタイル。和洋中のさまざまな料理がずらりと並び、子どもたちはトレイを持って大はしゃぎ。皿一杯に料理を乗せて、健啖ぶりを発揮した。
「海で泳ぐとお腹が減るよね」
子どもたちは笑顔で語らう。
「見てみて、ライチがこんなにあるよ」
皿一杯にライチを乗せて見せてくれた子どもも。アイスクリームにスイーツ。お腹いっぱいになるまで堪能した子どもたち。A社から参加した子どもたちとも、チームで活動することによって、すっかり打ち解けた様子で
「さっきのあの魚は凄かったよね」
「海の中、何回もぐった?」
などと同年代同士で話が弾んでいる。食べ物の話、学校の話、好きなマンガの話……話題は尽きず、食事と共に交流を楽しんだ。
しかし、A社からの参加者の皆さんとは、ここでお別れ。
「今日のお魚を大事に育てて下さいね。そして今度は、クリスマスに会いましょう!」
A社を代表し、ファウストはそう告げる。
ホテルの前から、まずは窓愛園の子どもたちを乗せたバスが出発。今回、初めての海を体験したユイちゃんとヒカルちゃんは、すっかり仲良くなった同年代のお友達とのお別れがさびしい。窓を開けて大きく手を振る。
「バイバイ、またね!会おうね~!!」
窓愛園のアクアリウム
色とりどりの魚たちの楽園に
窓愛園に到着すると、早速、ファウスト木村がアクアリウムの調整に入る。今回、残念ながら海に来ることができなかった子どもたちも、少しずつ水槽の前に集まり始めた。
「おー、元気だった?」
一年ぶりに会う子どもたちの姿を見つけ、ファウストたちも嬉しそう。水槽の水を入れ替えている間にも、ファウストたちと子どもたちは、さまざまな話をする。最近、好きなドラマの話。読んだ本のこと。部活の話や、学校のこと。回数を重ねるごとに、ファウストと子どもたちの間での思い出も増えて、心の距離も少しずつ近づいて行く。アクアリウムに魚を入れるまでのこのひと時もまた、ファウストにとっても貴重な時間だ。
そしていよいよ、魚たちを入れる。
鮮やかな青のスズメダイ、黒い体に青いラインが映えるホンソメワケベラ、ハコフグにギンポなどが放たれ、鴨川の海の石で彩られたアクアリウムは、一気に華やかな色に満ちた。
そして最後に、木村が獲得したツノダシが入る。
子どもたちの歓声と拍手が起こった。
ライトに照らされたアクアリウムは、まるで熱帯の海を切り取ったかのような美しさ。
ファウストの木村も感慨深く、その水槽を眺めた。
「今回もまた、みんな怪我がなく楽しめて良かった。僕もすっかり夢中になってしまって、大人げないくらいに潜ってしまいました。でも、三回目の今回は、以前よりも数段パワーアップしたキレイなアクアリウムになりましたね」
木村の言葉に子どもたちも頷く。
ファウストの糸見もまた、満足そうだ。
「初めて海に来た、ユイちゃんやヒカリちゃんが泳げるようになったことが嬉しいですね。来年は二人がもっと小さい子たちに指導できるようになっているかもしれません。今年も最高に楽しかった。来年もまた、みんなで楽しめるといいですね」
楽しい時間は瞬く間に過ぎて行き、いよいよ帰りの時間に。
ファウストたちが帰途につく。
初めての「はぐれ熱帯魚」の時、子どもたちは「もっといてくれればいいのに」と引き留めた。そしてやっと、「バイバイ」という言葉と共に送り出してくれた。その時はまだ、「次がある」ことが分からなかった。
けれど今回は、子どもたちは違う言葉で送り出してくれた。
「バイバイ、またね!」
ファウストたちもまた、同じ言葉を返す。
「またね。次までがんばって魚を育ててよ」
「うん、がんばる」
笑顔で言い合う言葉が、嬉しい。
これからも、ファウストは、子どもたちとアクアリウムを見守っていく。
Text:Sayako Nagai
Photos:Kiyoshi Tsuzuki
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