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05 INTERVIEW

Richard Branson

リチャード・ブランソン

ヴァージン・グループ会長

Profile

美しい地球と生命を救うために新たなる地平へ

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リチャード・ブランソン卿。世界で最も著名な実業家である彼は、先ごろ重要なプロジェクトを立ち上げた。彼が率いるヴァージン・グループは、傘下に360 社もの企業を擁しながら、新事業を中心基軸にすえて、さらに挑戦の翼を広げようとしている。新たなミッションは、生命や地球の救済だ! 
今回、ブランソンは彼自身の目標やアル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領のこと、「難読症」のこと、新しいグループ「The Elders (長老会)」のこと、ダルフール紛争、パレスチナ/イスラエル問題、両親や息子のサム、そして娘のホリーらと挑む宇宙旅行、「ヴァージン・ヘルスセン ター」や幹細胞研究のことなど、多岐の話題について語ってくれた。

人生で最も意義深いプロジェクト「The Elders」始動

巨万の富を築き、栄光の人生を楽しみ、ほとんどすべての事業を成功裡に成しとげた男、リチャード・ブランソン。彼はいま全業績を集約する最大の遺産を築くことを望んでいた。無限の寛大さと利他的行為に富んだ "器"の大きな善人として歴史に名を残し、富が輝かしい人生をもたらしてくれるという事実を、何世代もの人々に記憶されることを願っていた。
ブランソンは比類なき、良心的な億万長者として、あるいは人生を謳歌する畢生の"セレブ"として世評も高い。肩書きも、実業家、平和主義者、人権活動家、環境保護論者、冒険家、家族を愛する家庭人、愛すべき父親、不動産所有者、著作家と数知れず、最新のレッテルは「クルセーダー(十字軍戦士/改革運動家)」であり、彼はこの世界を去る前にもっと快適で健全な場所に変えようと奮闘している。
現在58歳、疲れを知らないその競争心はいまもなお健在であり、彼の辞書に限界という文字はないようだ。ティーンエイジャーが人生という球場で重要なゲームに打ちこむように、いま、彼は情熱的に真摯にグローバルな環境問題に取り組んでいる。そしてユニークで斬新なアプローチにより、解答を導き出そうと模索していた。これまで実業界で積んできた経験から、彼は自分ひとりでは何もなし得ないことを悟り、その結果、富と名声を武器に世界中から結集した優れた頭脳と一致協力して目標を達成しようとしていた。
例えば、これまでで最も意義深いプロジェクトであるという「The Elders (長老会)」を例にとってみよう。このアイデアは1990年代の後半に、ブランソンがミュージシャンで社会貢献活動家のピーター・ガブリエル(註1)や元南アフリカ共和国大統領のネルソン・マンデラ(註2)を交えて、個人的な利益を顧みることなく、難局にある環境問題を客観的に取り組める指導者や専門家で構成するグループを組織しよう、と考えたことに端を発していた。10年という歳月を経て、この野心的なアイデアは実現した。2007年の7月18日、南アフリカ共和国のヨハネスブルグで、ネルソン・マンデラが89歳の誕生日を祝った際に、「The Elders」の設立を宣言した。
グループの創立メンバーには、ネルソン・マンデラの妻、グラーサ・マシェル、平和運動家のデスモンド・ツツ大主教(註3)、元国連事務総長コフィ・アナン(註4)、インドの女性自立雇用協会創設者エラ・ブハット(註5)、ノルウェーの人権主義者団体のグロ・ハーレム・ブランドランド(註6)、元アメリカ合衆国大統領ジミー・カーター(註7)、そして中華人民共和国元外務大臣リー・シャオシン(註8)やアイルランド最初の女性大統領メアリー・ロビンソン(註9)、そして銀行家であり、ノーベル平和賞受賞の経済学者、ムハマド・ユヌス(註10)たちが名を連ねている。ブランソン、およびピーター・ガブリエルら一連の“発起人”により、同グループが独立した形での資金提供を受け、議長にデスモンド・ツツの同意を得ていることなどが発表された。
「The Elders」は、長期にわたる紛争に平和的な解答を見出し、人類の苦悩の種である環境問題に正しい解決の糸口を与えるべく、技術を集約的に駆使して課題に取り組んでいる。そして世界中の「声」をつなげ智恵を分かち合うことをポリシーとして掲げている。現在は、ダルフール(註11)の平和維持への貢献、パレスチナとイスラエル問題の解決やミャンマー(旧ビルマ)で近年勃発した紛争の早期解決など、さまざまな活動をしているところだ。
 

地球環境保護や救命細胞の研究から、一個人の誘拐事件救済まで



またブランソンはアル・ゴア(註12)と協力して、「ヴァージン・アースチャレンジ」と呼ばれるプロジェクトを提唱。地球の大気圏から少なくとも 10 年間にわたって有害な温室効果ガスを人体への悪影響なく削減させ、これを完全に取り除くことを可能にする有効な商業デザインを創案したグループ、あるいは個人に対し、2,500万ドル(約25.5億円)の報奨金を授与する賞を設立した。この温室効果ガスの除去は長期にわたり有効で、かつ地球の気候安定に具体的に寄与するものでなくてはならない、というものであった。「現金による報奨金は、非常に画期的で“金字塔”となり得る結果を生む場合がある。これは歴史的事実としても実証されている。われわれ地球の未来はそれにかかっている」と、ブランソンはその穏やかな口調でコメントする。
ブランソンは、ほかにも数多くの事業に取り組んでいる。例えば、商業目的で宇宙船を宇宙に送り出すことから、Co2放出量を削減するために、まずは自分の航空会社用にバイオ燃料生産計画をスタート。そして車や飛行機など一般に使用できる新しい燃料の開発、さらに新生児の“へその緒”を使った生命救助のための幹細胞リサーチ・センター「ヴァージン・ヘルスバンク」の運営に至るまで、その仕事は驚くほど広範囲に及んでいる。
またブランソンは社会的に影響力のある“正義の戦士”であるばかりか、一般人の英雄でもあった。ある時、娘を誘拐されたポルトガルの夫婦の記事を読んだ彼は、心を痛め、何とか助けたいと思った。ポルトガルのメディアがこの誘拐の裏に両親の介入があることをほのめかし、家族を攻撃の槍玉にし始めたとき、ブランソンは一歩踏み込んで家族のために法的解決の方法を提供したばかりか、かさみつつあった裁判費用がもとで家族が家を失わないようにと、抵当権の皆済をしたのだった。
ブランソンの成功への道のりは決して平坦ではない。ブランソンは文字がページの上で無秩序を形成し、読み書きや綴りが不能な「難読症」に苦しみながら、この難病を克服したひとりだった。ブランソンは最初の克服者ではなく、ほかにもアルバート・アインシュタイン、トーマス・エディソン、アレクザンダー・グラハム・ベル、ウィンストン・チャーチル、ネルソン・ロックフェラー、そして作家、科学者、環境保護活動家であるジェイムス・ラブロック博士(註13)、ジョン・レノンといった著名人たちがいる。「難読症」の患者は、枠の外で物事を考える傾向があるが、これは“世界の救世主”として活動するブランソンのような実業家にとって、プラスに働いたことはいうまででもない。
 

地球救済のきっかけを目指す「ヴァージン・アースチャレンジ」



——多くの人々が環境問題や地球温暖化のようなテーマを、政治的、または経営上の戦略目的で利用する傾向がありますが、あなたの場合は少し違って、そのような戦略的なアピールがないように思います。この点においてあなたはなぜ焦点がブレないのでしょう ?

ブランソン(以下B) 人類や地球、我々の子孫、いや私の子供たちが直面しているこの危機的状況を、私が理解し始めたのはこの3年ほどだ。これは途方もなくやっかいな問題で、私自身もその原因のひとつに関与していると思っている。私は世界的な規模の航空会社を4〜5社も所有しているので、当然、なんとかしなければならない責任があるわけだ。何人かの科学者によるとすでにわれわれはすでに臨界点を超えていて、取り返しのつかない局面まで来ているという。先日、一緒に一日を過ごしたジェイムス・ラブロック博士は、いま、われわれができる唯一の方法は、Co2を削減する技術的方法の実施を訴えることだとしている。私の「ヴァージン・アースチャレンジ」も、この目的のために誰かが良い解決策を考えつくのではないか、と期待して設けた賞だ。

——確かに革新的な解決案に対して賞金を出すというのは、新しいことではありませんね。かつてナポレオンも、自分の軍隊のための食糧の良い保存法を賞金で募ったことがあり、結果的に缶詰の創案につながりました。

 その事実は知らなかったな。賞は目標を達成するには効果的な手段で、私は世界に必ず貢献できると思っている。英国の戦闘機・スピットファイアーも賞金の賜物だったし、大西洋を横断した最初の人物も、英国の日刊新聞『デイリー・メール』紙の賞金のおかげだった。偉大なことはよく賞金がらみで起きたりするもの。「Spaceship One」※も「Xプライズ」の賞金がきっかけだった。この私の賞が地球救済のきっかけになるかどうか。私は人類の未来はそれにかかっていると信じているのだが……。

※Spaceship One…ヴァージン・ギャラクティックが2010年の催行を予定しているサブオービタル宇宙旅行における、宇宙船「Spaceship Two」の前身となる宇宙船。「Xプライズ」にて、民間開発では初となる宇宙空間への到達と帰還を2度達成した。

——進行具合はいかがですか?

 目下、ケンブリッジ大学が選考に関与しており、真剣な応募のみを受けつけている段階だが、冗談らしきものもたくさんある。われわれは解決案となるべき "まともな" 作品をくれぐれも見落とさないように注意しなければならない。

——アル・ゴア氏はどんな形で介入されているのですか?

 ティム・フラナリー(※注釈)やジェイムス・ラブロック博士と同じくジャッジのひとりだ。今回、非常に優れたジャッジが揃ったと思う。しばらくしたら、ジャッジ全員がすべての応募作品に目を通すことができるはずだ。

——アル・ゴア氏が『不都合な真実』でノーベル平和賞を授与されたとき、あなたはどう思われましたか?

 『不都合な真実』は地球温暖化の問題について、ほかの何よりも人々に考えさせるきっかけを作ったと思う。国連が地球温暖化を示す恐るべき統計を発表したとき、人々は新聞で知ったと思うが、ほとんどは見出しを読んだだけだったはずだ。しかしこの映画『不都合な真実』により、低学年の生徒から高齢層まで幅広い観客が問題の核心に触れることができた。おまけにゴア氏がノーベル平和賞まで獲得したのは大変な快挙だ。おかげでたくさんの人がこの問題を真剣に受けとめ、地球温暖化や環境問題を最優先の課題として注目するようになったのだから。

——ゴア氏が自身の題目をプロモーションする道具として映画を利用していると、評論家が非難しています。これについてあなたはどうお考えですか? また彼が遅からず大統領に立候補するという憶測には同感ですか? これらの批評家たちは、映画の中には9つの不正確な誤りがあって、ほとんどの内容は事実というより、プロパガンダであると非難していますが……。

 人々は彼について勝手な思惑で判断している。まず第一に彼は大統領選に立候補するとは言っていないし、今後、立候補するようには思えない。彼自身が、家族や友人たちと過ごすプライベートな時間やエネルギーをすべて投入して、プロジェクトに全力を注ぎこんでいることを忘れないでほしい。金儲けのためのビジネスにしているわけでもない。ツアーの旅費だってすべて自前だ。人々が彼を揶揄する理由が私にはわからないね。

——それは、不安や怖れからでしょうか?

 恐らくそうかもしれない。ゴア氏が学生時代、大学の先生が彼に環境問題を啓発して以来、この問題に取り組んできた。突然、意識変革したのではない。すでに人生の大半を彼は“ 同じ声”で語り続けている。また9つの誤りに関して言うと、非難しているのは基本的に急進派の共和党員たちだ。私には、彼らが言葉の端々を楊枝でほじくり出しているように感じられる。どんな映画にだって、多少現実と違う部分はある。アル・ゴア氏は映画の中で、北極クマは実際に死ぬまでの2〜3年前からゆっくりと死んでいくと語っていたが、私はあの映画の痛烈なアイロニーは絶対に正しいと思っているよ。
 

人生の後押しとなった「難読症」



——確かに地球の生命危機という切迫した問題に、より多くの人々の意識を向けさせましたね。では、別の話題に移りましょう。あなたは「難読症」だそうですね。多くの人は「難読症」を障害的病弊だとみなしていますが、「難読症」の歴史を調べてみると、世界的な著名人や偉人たちが数多く患っています。ネルソン・ロックフェラー、アルバート・アインシュタイン、トーマス・エディソン、そしてあなたのお友人、ジェイムス・ラブロック博士やアレクザンダー・グラハム・ベル、そしてジョン・レノンも「難読症」だったそうですね。

 ウィンストン・チャーチルもそうだ。

——そうですね。「難読症」の人は激しい自信喪失に襲われるそうですが、強制的に枠の外で物事を考える訓練をすると克服できると専門家も指摘しています。「難読症」はいまのあなたを形成するのに役立ったと思われますか?

B 妨げになったというよりは、私の助けになったと確信している。「難読症」でなかったら、私は15歳で学校をやめたりはしなかっただろうし、宿題だって問題なくこなせただろう。“逆境転じて福となる”というが、学校に行かなくなってから、私はほかの生徒よりも多くのことをもっとクリアに見ることができたのではないか、と考えている。ただ物事を真にクリアに見るためには、いまでも大変な努力がいるものだ。

——「難読症」が原因で、いまでも努力されているのですか?

 ああ、いまでもね。これまでかなりトレーニングしてきたので以前ほどでもないが。もし私がヴァージン製品の広告を目にしたときそれを理解できなければ、誰も理解できないと考えるようにしている。これを会社のみんなに徹底しているんだよ。

——「あなたは、正しく見ていないのでは? 」とあなたに言う勇気のある人がいないのではないでしょうか? (笑)  つまりあなたはボスですから、あなたに真実を伝えるのは勇気のいることですからね。

 その通りだね。ここで基本的に言いたいのは、我が社は人々がよく目にする特殊用語や大会社的な誇大広告は避けるようにしていること。例えば、金融サービスや保険業界のように大袈裟な広告用語は使わずに、我が社はできるだけあるがままを伝えるようにしている。

——「難読症」はある意味で天才の形態であるという人もいますが、医学界はそれを積極的に認めてはいないようですね。

 「難読症」の人間には、確実に空白のエリアが存在するため、その空白を別のエリアで挽回したいと努力する。私の場合、経済レポートなどで頭を悩ます必要がまったくないから助かっている (笑)。すべてを“覆い“の外でやるようにしているので、自分の”胆“の感覚を信じざるを得ないのだが、そういった個人的な経験を頼りに多くのことを成し遂げてきた。もちろん、決定を行うために会計士に頼ることもあるが、もし私が正常だったら航空業界に参入することも、宇宙産業に着手することもなかっただろう。いや、いま私が手がけているほとんどのビジネスにたずさわることもなかったかもしれない。だから結果的に、「難読症」は私の人生に非常に有利に働き、私を後押ししてくれたことになる。
 

「The Elders」ではジミー・カーター、ネルソン・マンデラ、ツツ大主教、グラーサ・マシェル、コフィ・アナンらが集う



——あなたはとてもシンプルで、かつノーマルな人という印象を受けました。私があなたにEメールを送ったら、あなたから返事がきました。あなたのような地位の人たちは普通、そんなことはなさらないですよ。

 恐らく、私の“育ち ”によるのだと思う。名前は伏せておくが、大会社を経営する知り合いの大立者は一日に何百通ものEメールが来るらしい。が、1件も読まずにゴミとして削除すると聞いている。私にはそんなことはできない。Eメールの背後には人間がいるわけで、時間を見つけて返事を書く努力をすることは、道徳的にとても大切なことに思える。確かに消耗する作業ではあるが、私は人を丁重に扱うようにしつけられてきた。

——人を丁重に扱うことについてですが、「The Elders」という素晴らしい組織を設立されたそうですね。世界には人間的な扱いを受けられない人々が大勢います。特にダルフールのような地域においては……。ダルフールは「The Elders」が平和をもたらすために、最初に取り組んだプロジェクトでしたね ?

 その通りだね。

——「The Elders」はどのようにして設立されたのですか? ネルソン・マンデラやジミー・カーター、デスモンド・ツツ大主教のようなお歴々をいかにして選び、そして参画させたのですか?  またこの組織で何を成し遂げたいのでしょうか? 赤テープ(官僚的形式主義)や政治が、これらの取り組みの妨げにならないでしょうか?

 ピーター・ガブリエルと私は、以前からこのアイデアを暖めていたのだが、もともとの考えは、アフリカでは村人たちが長老にアドバイスを求めるという、アフリカ古来の伝統や習慣に基づいている。対立関係を解決するために、私には、これから世界中がアフリカの村のような形で答えを模索していくように思える。いま世界は、高いモラル意識をもった権威や指導者を必要としている。恐らくこの考えを最も象徴する人物が、ネルソン・マンデラではないだろうか。そこでピーターと私がマンデラと夫人であるグラーサ・マシェルに、「The Elders」の創立メンバーとして“長老”になってもらえないか打診したところ、即、同意が得られたよ。

その後、ネルソン・マンデラはアフリカ、北米、南米、ヨーロッパ、中国といった世界中の国々から、彼が最も尊敬できると考える12人の人物を選出して、世界が抱える主要な問題に取り組むために集合をかけた。深刻な対立が起きそうな地域に目を配ったり、紛争中の地域に何らかの貢献をしたり、対立が勃発している国に手を差し伸べたり、紛争の火種を取り除く努力を、われわれは今後も継続的にやっていくつもりだ。

——しかしどうやって虐殺を止めるのですか?  現状はダルフールのような残虐極まる暴力が癌のように広がっています。

 「The Elders」の利点は、ジミー・カーター、ネルソン・マンデラ、ツツ大主教、グラーサ・マシェル、コフィ・アナンのような人物が協力していること。彼らが直接電話をして会いたいと言えば、誰も断れないはずで、世界中で会えない人はいない。ダルフール紛争を解決するには、問題の核心を扱わなくてはならないが、実際にはダルフールだけの問題でもない。北スーダンと南スーダンもすでに30〜40年も戦争している。いまのところうわべだけの平和がかろうじて続いているが、北スーダンのバシル大統領や南スーダンのキィール大統領は、二度と戦争を始めないよう努力しなくてはならない。もしまた戦争が始まったら、ダルフールの犠牲は無意味となり最悪の結果を生むことになる。その地域全体が手のつけられない悪夢を繰りかえさないよう、「The Elders」は双方と話し合いを持つ努力をしているところだ。

——「The Elders」のメンバーは、ダルフールには行かれたのですか?

 全員がダルフールを視察して、記者会見を行いダルフールに関する見解や対策を発表した。最も緊急な対策のひとつとして、善良なナイジェリア大佐によって指揮されている現地の国連軍をもっと強化すること。この国連軍をさらに増強し装備を固める必要がある。目下、最優先のプロジェクトとして監視しているところだ。
 

自分の中にはロックが未だに生き続けている



——ほかにはどんなプロジェクトに取り組んでいるのですか?

 ミヤンマーにも注目しているよ。それにイスラエルとパレスチナ問題。さらには貧困や感染症、地球温暖化といったもっと広範囲のテーマも扱っている。12月10日は国際的な人権宣言日なので、南アフリカに全員集合をかけて再び声明を出すことにもなっている。

ところで、私は「すべての人間には権利がある」という、キャンペーン・ポスター(※絵柄が見たい)の文字の書体を気に入っていてね……。この文字デザインは、セックス・ピストルズの古いアルバムの文字と同じレタリングを使ってみた。

——ロックがいまだにあなたの中に生き続けているのですね (笑)。

 すべてはスタートしたばかりだ。いま、取りかかっている別のプロジェクトは「War Room」といって、それぞれ仕事をする6万もの組織体をコーディネートするセンターをアフリカに設立した。「War Room」は、これらの組織体がベストな実施策を見出すのをサポートし、コーディネートするセンターだ。

——「ヴァージン・ギャラクティック」は、爆発(※注釈)のあとどうなりましたか? あなたの責任ではないと思いますが、あの事故はあなたにどんな教訓を残したのでしょう? あなたのご両親もあなたと一緒に宇宙に旅立つ予定でしたよね?

 あれからだいぶ時間が経過したようだね。今度こそうまくやりたいので、時期は特定したくないと思っている。実際の爆発はロケットの中ではなく、電気系統の故障だった。現在、原因を突きとめているし、どんな燃料を使うかも検討するつもりだ。

——爆発のせいで燃料を変更しようと思っているのですか ?

 いや、いまのところ「Spaceship-One(宇宙船-1) 」で使われたのと同じ燃料を使用するつもりでいる。爆発の正確な原因については調査の結果を待っているところだ。
 

愛する妻、息子、娘というかけがえのない存在



——2006年の10月頃、あなたは私にビジネスの後継者がいないともらしていました。
ご子息のサム君があなたの仕事に関心を示しておらず、あなたは無理に後継ぎにするつもりはないとおっしゃつていましたね。この考えは変わりましたか?

 サムはいま、ロサンゼルスに住んでいて、音楽コースをとっている。将来は北極圏の探検家になるつもりらしい。

——あなたがたお二人は、一緒に南極に橇(そり)に乗りに行かれたと伺いましたが。

 ああ、彼はグリーンランドに戻るつもりのようだ。ちょうど『His Arctic Diaries (北極日記)』というタイトルの旅行本を書き終えたところで、ある段階にきて自分の仕事をきちんとできるようになったら、父親の仕事も喜んで手伝ってくれるらしい。まわりの全員から本人にやり抜く意志があるという“お墨付き”がもらえるまでは、無理をしたくないそうだよ。息子はとても個性的な人間で、なかなかいい青年だ。ただ少し先の話だろうけど、いつか彼は私を助けてくれるかもしれない、と思っている。

——娘さんのホリーは、いまも医学を学んでいらっしゃるのですか?

 彼女は医者で、いまウエストミンスター病院で働いている。

——あなたは、彼女の誕生日を忘れたことがないそうですね。

 ああ、いままで一度だってないよ。忘れちゃまずいからね(笑)。

——2009年にはあなたは結婚20年になるんですよね !

 ああ、妻とは32年間一緒に暮らしてきて、結婚して20年になる。

——結婚を長続きさせる秘訣は何でしょう?

 美しくて素晴らしい妻に恵まれていることかな(笑)。

——あなたの人生はかなり複雑なはずなのに、2人の子供たちを育てあげ、結婚生活を20年も長続きさせています。あなたは家庭の大切さを熟知されていて、人生にとって大事なことの焦点を失っていません。世間を考えるとまさに奇跡のようだ。

 私は極めて運のいい男だ。妻の名前はジョアンといって素晴らしい女性だよ。私はいまでも彼女に魅力を感じているし、彼女も私を以前と変らずに魅力的だと思ってくれているようだ(笑)。われわれのまわりに素晴らしい友人たちが大勢いるおかげで、われわれの絆も支えられているのかもしれない。離婚した友人たちもたくさんいるが、別の誰かと一緒になって以前よりハッピーになった人たちは少ない。もちろん、離婚してもっと幸せになったという人もいるけどね。われわれはお互いこれまで親密にやってこられて、実にラッキーだったと思っている。

——あなたの義理のお母さんはいかがですか? 『MOTHER-IN LAW ALWAYS SAY THE WRONG THING(間違いだらけの義理の母)』というタイトルの本のことを聞きました。夫人の母上とは、最初どのようにして折合いをつけられたのですか? 義理の母上とのエピソードは何かありますか?

 ジョアンの母親は足が地についた現実的な女性で、われわれは本当にラッキーだったと思っている。残念なことにもう亡くなったが、この宇宙船の会社を創設したのは、実は義理の母親との問題を抱えている人々のために、われわれがお役に立ちましょう、と提案するプロジェクトなんだ。義理の母親と日帰り宇宙旅行はいかがですか?  という企画にしてみたのだけれどね…… (笑) 。

——あなたは数年前にお子さまを亡くされましたが、その経験が引き金となり、幹細胞研究の「ヴァージン・ヘルスバンク」を設立されたのでしょうか ?

 実は何がきっかけでこの考えを実践しようと思ったのかあまり覚えていない。恐らくある日、私に会いに来た医者が、“へその緒(臍帯)”の不足が原因で、何千人もの子供たちがいたずらに命を落している、という事実を耳にしたときだったような気がする。G0サインを出すことにしたこの「ヴァージン・ヘルスバンク」は、子供が生まれる際に捨ててしまうへその緒を集める慈善団体だが、へその緒の中には奇跡的に人々の命を救うことができる小さな血漿袋が内包されているんだ。

——数週間前に、とある科学者たちは、胎児のへその緒を使わずに幹細胞(註14)の研究を行える方法を見い出した、という声明を出しましたね。

 知っているよ。皮膚の組織を使うらしい。とても興味深い話だね。そうなると、われわれがやっていることは必要なくなるかもしれない。
 

自分の人生をとことん生き抜くこと。日ごと、すべての瞬間を楽しみ、
物事をポジティブに考え、人々のベストな面を見つけるようにすること



——またまた別の話題ですが、ポルトガル人夫婦の娘が失踪した事件で、あなたが夫婦を助けたという記事を読みました。その夫婦の家が没収されないように援助したということですが、この一件を少し詳しく教えていただけますか。

 彼らは悲惨な状況に置かれていて、当時、マスコミの攻撃を受けていた。

——その悲惨な状況をどのようにして知ったのですか?

 一般人と同じく新聞を読んで知ったよ。彼らの立場に自分を置いてみたときに、子供を失う悲しみや、犯人は両親ではないかという世間の決めつけ、最後には娘の死は両親のせいだとのあてこすりがあって、証拠もないのにマスコミの槍玉にあげられていた。だから弁護士を立てて、合法的手段で事件を解決させてやりたかった。

——彼らに弁護士をつけたのですか?

 ああ、きちんと弁護士をつけて、彼らに争う機会を提供したんだ。

——法務局は子供はまだ生きていて、モロッコに誘拐されたとしていますよ。

 どこでそれを知ったのかね ?

——ある日刊新聞で読みました。モロッコで、失踪した子供によく似た幼児を女が背中におぶっている写真も掲載されていました。この事件を知った誰かが子供の顔に見覚えがあって、写真を撮ったのでしょう。

 でっちあげの記事もいろいろあるからなぁ。

——あなた自身もあなたのお子さんも有名人で、常に衆目にさらされています。このような事件は、ご自身、そしてあなたの子供たちを守るための警告となりませんか?

 われわれは警戒や防衛をしたことは特にない。誰かが害を加えようとした場合、必ずその方法を見つけるだろう。セキュリティをつけながら生活するなんて、刑務所の囚人のようで耐えがたい。ボディガードをつけて出歩くことは、不安とともに生きる自由よりも気の滅入ることで、かえって目立つことになる。

——「私を狙って!」というサインを貼って歩いているようなものですね。

 その通り(笑)。私にはボディガードをつけるのが最善の方法なのかわからない。いずれにしても、護衛というのはやっかいなものだと思うね。

——しかし、あなたには気をつけていただきたい。これからもずっとお元気にご活躍してもらわなくては困るし、悪い因縁は避けないと……。ところで、未来は若者たちにかかっていると思いますが、現在、若手の起業家たちに、どんなアドバイスをされますか?

 とにかく現場に出て、自分の人生をとことん生き抜くこと。日ごと、すべての瞬間を楽しみ、物事をポジティブに考え、人々のベストな面を見つけるようにすること。そしてわれわれの住むこの素晴らしい地球に優しくあり、政治家たちにも同じく、このビューティフルな世界を優しく取り扱ってくれるように働きかけることが大切だと思う。

——あなたを手本にして、最高峰をめざす若者たちに対してはどうですか? あなたはひとりの人間が成し遂げるのは不可能に近い、数多くのプロジェクトを抱えていらっしゃる。昔は車のトランクに積んだレコードを売り歩いていた若者が、いまは世界の頂点に君臨している。

 良いアイデアが浮かんだら、まずはトライしてみることだね。そして挫折しても起き上がり、もういちどトライする。シンプルなことだ。また自分の過ちからきちんと学び、自分のアイデアを良いと信じてくれる人々を周囲に確保すること。成功すると人生は大いに違ってくる。いま、ちょうどアメリカで「ヴァージン・アメリカ」というエアラインをスタートしたが、アメリカでベストのエアラインにしなかったら、成功する可能性はまずないだろうね。

——トニー・ブレア(註15)が政権を去り、いまはゴードン・ブラウン(註16)の時代ですが、あなたの政治への見解は ?

 私は政党政治には介入しないことにしている。英国はこれまでも3つの政党で優れたリーダーが統率して、私はラッキーだったと考えているよ。すでにブラウン首相のハネムーンの時期は終わったが、これから彼は主要な課題に取り組んでいくときだ。彼自身と彼の政党を私は良いと思っているよ。

——近い将来、ロンドン市長に立候補するかもしれない、という噂は本当ですか?

 市長になるつもりはまったくないね(笑)。いま、世界には解決しなくてはならない問題が山積していて、私には政党政治にかかわっている時間がない。何とか世界をいまよりも住みよい場所にしたいと強く望んでいるが、私は政党を通じてやるつもりはない。

——『The UN Citizen Of The Year Award(年間国連市民賞)』を授与されたそうですね。これまで達成した偉業の中で、特に傑出していると考える仕事をひとつ挙げていただけますか?

 
その賞は私の環境への貢献に対して与えられたものだが、中でもピーター・ガブリエルと私で立ち上げた「The Elders」が、世界のために有益なものとなるのを強く望んでいる。今日のような時代に戦争の必要性はまったくない。「The Elders」が今後何世紀にもわたって存続して、武力でなく交渉による紛争の解決を説得し続けられたら本望だ。私は人類というのは、さまざまな対立や相違、紛争を平和的に解決できる知性と智恵を持っていると信じている。もはやそれしか方法は残されていない。環境問題を含めて、われわれの運命はそこにかかっていると思っているよ。

(註1)ピーター・ガブリエル 英国出身のロック・ミュージシャン。元ジェネシスのボーカル。ソロ活動以降、アフリカなどワールドミュージックに傾倒する。

(註2)ネルソン・マンデラ 南アフリカ共和国第11代大統領。ノーベル平和賞、ユネスコ平和賞などを受賞。アパルトヘイト撤廃などの世界貢献が評価された。

(註3)デズモンド・ツツ大主教 南アフリカ共和国出身の平和運動家。南アフリカ聖公会ケープタウン大主教。1984年、ノーベル平和賞を受賞した。

(註4)コフィ・アナン ガーナ共和国出身。1997年から2006年まで、国際連合7代事務総長を務めた。01年には、国際連合とともにノーベル平和賞を受賞した。

(註5)エラ・ブハット インドのSEWA(女性自立雇用協会)の創設者として知られる。1970年代に設立。女性労働者の地位向上に貢献している。

(註6)グロ・ハーレム・ブラントランド 元ノルウェー首相。「持続可能な開発」の概念を
提起した国連の「環境と開発に関する世界委員会(通称ブルントラント委員会)」委員長を務めた。

(註7)ジミー・カーター アメリカ第39代大統領。国際紛争の平和的解決が評価され、2002年にノーベル平和賞を受賞した。「史上最強の元大統領」と評される。

(註8)リー・シャオシン 李肇星(り・ちょうせい)。中華人民共和国・共産党中央委員。2001〜07年、中国国務院外交部部長(外相)を務める。

(註9)メアリー・ロビンソン アイルランド共和国第7代大統領(1990〜97年)を務める。アイルランド最初の女性大統領。国連人権問題担当高等弁務官も務めた。

(註10)ムハマド・ユヌス バングラデシュ出身。経済学者にして、マイクロクレジットの創始者。2006年に、グラミン銀行とともに、ノーベル平和賞を受賞した。

(註11)ダルフール 2009年も継続している、スーダン西部のダルフール地方の紛争。スーダン政府軍とアラブ系民兵と、反政府勢力との間で抗争が起こっている。バシル大統領に逮捕状が発行された。

(註12)アル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領 民主党ビル・クリントン政権時代に、アメリカ合衆国副大統領を務める。映画『不都合な真実』で、2007年にノーベル平和賞を受賞した。

(註13)ジェイムス・ラブロック博士 イギリス出身の地球科学者。環境主義者にして、
未来学者。地球を一個の超固体として見たガイア理論の提唱者として知られる。

(註14)幹細胞 生体を構成する細胞の生理的な増殖・分化などの過程において、自己増殖能力と、特定の機能を有する細胞に分化する能力とを併せ持つ細胞。

(註15)トニー・ブレア(アンソニー・チャールズ・リントン・ブレア) 1953年、エディンバラ出身。イギリスの第73代首相として、3次まで内閣を率いる。2007年まで、労働党党首。

(註16)ゴードン・ブラウン 1951年、グラスゴー出身。2007年7月、ブレア首相の後を継ぎ、労働党党首を務める。第74代イギリス首相として、現職。

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リチャード・ブランソン

ヴァージン・グループ会長


1950年、英国ロンドン生まれ。ヴァージン・グループの創設者にして会長。音楽、映画、鉄道、航空事業や宇宙旅行事業など、幅広い事業に挑戦し続けてきた。熱気球で太平洋を横断するなど冒険家としても知られ、近年は環境保護や地球温暖化問題にも積極的に取り組む。

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2014/04/30

自由と勇気

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