祖父の“記憶”とともに生み出される
時を超えたユニセックスのシューズ
祖父の“記憶”とともに生み出される
時を超えたユニセックスのシューズ
ファッションを牽引するマレ地区で、いま注目を浴びるシューデザイナーのフィリッ プ・ゾルゼット氏。運命のスケッチ画に出会ってから、たった1年でショップのオープンにこぎつけた。
マルセル・プルーストの長編小説「失われた時を求めて」のなかで、主人公が紅茶に浸した焼き菓子のマドレーヌを食べるシーンがあります。マドレーヌを口にした瞬間、幼い頃に叔母が作ってくれたマドレーヌを思い出し、さらには家族とともにバカンスを過ごした町の光景がよみがえってくるという、有名な冒頭です。
パリにショップを構えるシューズ・デザイナーのフィリップ・ゾルゼット氏にとって、人生を変える“マドレーヌ”といえるもの――それは彼の祖父が1930年代に描いた靴のデザイン画でした。偶然そのデザイン画を発見し、目にしたその瞬間、彼は当時手がけていた広告の仕事を辞めてシューズ・デザイナーになることを決意。祖父のデッサンを基に木の靴型を製作し、約1年後の2008年5月、話題のブティックが建ち並ぶパリのヴィエイユ・タンプル通りにショップをオープンしたのです。
ゾルゼット氏の祖父は、30年代にイタリアで靴職人をしていたそう。その後、職人を辞めてフランス南部に移住しましたが、靴のデザイン画やノート、道具も、そのままフランスへと運ばれていました。また、ゾルゼット氏の父親は家具職人だったため、彼の幼い頃の遊び場は、木や皮革があふれていた父親の工房。一流品に必要な素材に囲まれて育ったといえます。祖父との記憶はほとんどないものの、小さい頃から不思議と靴のデザインをよく描いていたのだとか。
「祖父のデザイン画を見たとき、あまり知らなかった祖父の存在が急に近く感じられました。そしてなによりも、そこに描かれていたのは僕が求めていた理想のスタイルだったのです。時代遅れの型だったかもしれませんが、僕には時を超える型に思えたのです」。幼い頃から抱いていた靴への情熱と、祖父から受け継いでいた靴職人としての“遺伝子”が結びついた一瞬だったのでしょう。
コレクションのインスピレーションの源は、祖父が靴を製作していた30年代のダンディー・スタイル。その特徴は、メンズとレディスの両コレクションにデザインが共通であることです。ベーシックで細めのラウンド・トゥや緩やかな全体のラインは、クラシックかつスポーティーで、男性のエレガントさを強調します。
ショップにつねに飾られている、祖父のデザインを基につくったという木の靴型。ブーツなど一部を除くすべてのモデルが、この型から作られる。
工房は、高級靴の製造で知られるスペイン・エルダにあり、すべてハンドメイド。靴底には、甲と底を縫うブレイクと呼ばれる製法を採用し、レディス靴にも同じテクニックを使っています。
それぞれのモデルには、ゾルゼット氏自身が敬愛する人物の名前が付けられているのも印象的です。2010春夏のテーマは、無声映画。ルイス・ブルックら、当時のスターたちへのオマージュが捧げられています。
祖父が残したデザインを、「過去と未来を結ぶもの」と表現するゾルゼット氏。イタリア職人の血、30年代アメリカのダンディズム、フランス人のエレガンスが混在したコレクションは、今後ますます注目を浴びることでしょう。
フィリップ・ゾルゼット
Philippe Zoezetto
106 rue du Vieille Temple, 75003 Paris
http://www.philippezorzetto.com/
※2月頃からネットでの購入、海外への発送も可能。
Text: Chiaki Mitomi
Photos: (c)Philippe Zorzetto
2010/01/21
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